30 飛んで桜島
依頼を受けた翌日。朝早くに家を出て、昼を越えたあたりで桜島がある鹿児島に到着した。
「飛行機、当日予約でも空いててよかったよ、ほんと」
急遽、鹿児島の桜島まで遠征することになって、移動のために飛行機を予約しなければならなくなったけど、運よく当日券を買うことができた。
今回のダンジョン探索は配信をしながら行う予定なんだけど、飛行機に乗って移動したことで同乗できないヨルさんは家でお留守番することになってしまった。
そのため、配信用のカメラを持ってくれる子がいなくなり、それをどうするのかいろいろ考えた結果、昨日大学の帰りにダンジョン内でも使える撮影用ドローンを購入してみた。
今回購入したドローンはダンジョン内での配信でよく使われているものらしいので、それが間違いないのであれば問題なく撮影することができるはずだ。
一応、昨日の内にちゃんと撮影できることは確認しているので、私が操作を間違えたり何か問題が起きなければ大丈夫だろう。
それでさ。確認した時思いのほか映像がブレてなくて結構驚いたんだよね。この手の機材は初めて買ったけど、想像していたよりもずっと悪くなかった。
まあ、ヨルさんに比べたら微妙に反応が遅れるし全く映像にブレがないってわけでもないから、ヨルさんが撮影してくれた配信よりは映像の質は落ちると思うけど。
それとこのドローン、ダンジョン内で使えるものということで普通の物よりかなり高額で結構な金額が飛んで行った。
樹海ダンジョンで採取した植物とサンショウウオ型のモンスターの素材を調査用のとしてギルドに買い取ってもらえたので多少余裕はあったけど、普通の学生には手が出せないような金額で、こっちでも驚いた。
そうそう、樹海ダンジョンで助けた平坂さんに使ったポーションもしっかり補填してもらった。
自ら救助に向かったのなら金の請求はするなっていう人もいるかもしれないけど、救助する際に使用したアイテムに関してはギルド側である程度ルールが決められているし、こういうのはちゃんとしておかないと後々面倒なことになるかもしれないからしっかり補填してもらった。
鹿児島の空港に到着した後はお昼を食べつつ陸路で桜島に移動し、桜島の内にあるダンジョンギルドに向かった。
樹海ダンジョンの時と同じように桜島ダンジョンを管理しているギルドで手続きを済ませないとダンジョンの中に入ることはできないので、ギルドの受付に行く前に申請書に必要事項を記入していく。
こっちは樹海ダンジョンほど頻繁に来ないというか、家から距離があるため簡単に来ることができないので、親しくしている職員の人はあまりいない。それに今回の依頼はギルドを通さず受けたので前回とは違って書類を一から記入して受付に提出した。
「書類受け取りました。ふむ、本日は下層の18まで潜る予定ということでよろしいですか?」
「はい」
「わかりました。はい、他の項目も問題ありませんね。樹海ダンジョンの件はご存じだと思いますが、こちらのダンジョンでも同じようなことが起きる可能性はあります。何か異変などを観測した場合はすぐにギルドに連絡したのち、直ちに地上へ帰還するようお願いします。それではお気をつけて」
「了解です。ありがとうございました」
樹海ダンジョンが変異し始めたのは数日前のことなので、どこのダンジョンでも同じように注意喚起されている。この桜島ダンジョンでも調査を続けているみたいだし、しばらくの間は警戒状態が続くだろう。
今まで一度安定したダンジョンがいきなり変異するなんて考えられていなかったし、今後はそのことを念頭に置いて探索することになるんだろうね。
まあ、ダンジョンの中では何が起こるかわからないのは昔から変わらないし、何に対しても常に警戒しておくのは当然のことではあるんだけどさ。
ギルドの受付から同じ建物内にある桜島ダンジョンの入り口へ向かう。
入り口に到着してそこにいた警備の人に会釈してからダンジョンの中に入り、入ってすぐのところでカバンの中からドローンを取り出し、スマホと接続して配信の準備を進める。
今回の配信は前回とは異なり、目的の階層に到着してから配信を始めるのではなく、最初から上層の1から下層の18まで移動するところも配信するつもりだ。
一層目から配信をする理由は、動きながらチャットに流れるコメントを読む練習と適当なコメントに返事をする練習をするためだ。
前回の配信でも多少コメントを追って少し返事もできていたけど、配信慣れしたニーチューバーと比べれば雲泥の差なのは間違いない。配信始めたばかりなんだから差があるのは当然だけどさ。
すぐにそのレベルになるのは無理でも、配信を見てくれる視聴者が少しでも不快にならないように、ある程度コメントを読んでそれに対して返事ができるようにはしておかないといけない。
見てくれる人が減ってしまったら私が配信をする意味がなくなってしまうしね。
あれこれ考えつつ、事前に決めていた段取りを思い返しながらスマホに登録しておいたドローンの設定を呼び出す。
一通り家で練習してきたとはいえ、外で準備をするのは初めてなので少しもたつきながら準備を進め、問題はないかの確認をしてから配信開始のボタンをタップして配信を開始した。




