26 安全確保と新モンス素材、わくわく
最初は本当に動かなくて間に合わなかったと思ったけど、どうやらただ眼をつむっていただけのようで、声をかけたところで女性が目を開けた。
しかし、目を開けてくれたものの混乱しているのか私の顔をまじまじと見つめるだけで、問いに対する言葉は返ってこなかった。
反応は返ってこなかったけど、とりあえず間に合ったみたいでよかった。
今回みたいにダンジョンの中で緊急信号を受信しすぐに助けに向かったとして、その相手を助けられるのはせいぜい1割から2割。多くの場合は間に合わず悲しい結果になってしまう。
それでも早めに到着すれば、遺品などの回収ができるので向かうに越したことはないのだが、今回はどうやら間一髪ではあったが間に合ったようだ。
しかし、しっかり彼女の状態を見れば片足が異様に青黒く変質してしまっていた。
これは普通の怪我じゃないよね。よく見れば近くにポーションのビンも落ちているし、普通のポーションじゃ回復しないタイプの毒を受けてしまっているのかもしれない。
「その足の怪我はあのモンスターから受けたものですか?」
周囲にいたモンスターをすべて倒したわけではないので、サクサク状況の確認を進めていく。
「え、あ、ええそうだけど」
まだ私がここへ来た状況が呑み込めていないのか、言葉に詰まりながらもそう返事をしてきた。
「ポーションの残りは」
「あと一本だったけど、落ちた時にどこかに行ったな」
「なるほど。では、とりあえずこちらを使ってください」
ポーチの中からポーションを数本取り出し渡す。
彼女がどういう毒を受けたかわからないけど、落ちた時に他の箇所も怪我をしている可能性が高いし、ポーションを使わない選択はない。
「あ、ありがと」
軽く投げ渡すような形でポーションを受け取った彼女はポーションと私の顔を交互に見てくれる。とりあえずこれは最低限として、あとは解毒用のポーションだね。
基本的にダンジョン内で受ける毒はポーションで回復することが可能なものが多い。しかし、ポーションでは回復しない特殊な毒も存在しているので、それ専用のポーションもいくつか存在している。
ポーションは使っていたみたいだし、彼女の足の状態からして腐食系の毒か、それとも細菌感染系か。
どちらも厄介な毒ではあるけど、より悪質なのは後者だ。腐食系の毒であれば解毒ポーションで効果がある。進行度合いによっては完全回復も可能だ。しかし、後者の細菌感染系はパッと見症状が現れていない部分でも実際は毒に侵されているパターンが多い。その上解毒ポーションの効果がほとんどなく、感染してしまった場合は助かる見込みがかなり低くなる。
「それとこっちは解毒ポーションです。半分は傷口に残りは飲んでください」
とはいえ、彼女の様子からして細菌系ではなさそうだし、腐食毒用の解毒ポーションを渡しておく。
これで効果がなかったら、地上に上がる前に処置しないと駄目だろうな。正直、見た感じ解毒ポーションが効いたとしても後遺症が残りそうな感じだし。
「え」
「まだ完全に安全を確保していないので少し待っててください」
「あのちょっと――」
モンスターが近づいてきている音が聞こえ始めたので、解毒用のポーションを渡し、彼女の返事を聞くよりも先に安全を確保するため、まだ処理していないモンスターを倒しに向かう。
倒れた樹の元から出ると周囲には先ほど倒した数と同じくらいのモンスターがまた集まってきていた。幸いと言うべきか、集まってきているモンスターはさっきも解体した一種類だけみたいなので、対処の仕方は先ほどと同じで大丈夫だろう。
近づいてくるサンショウウオ型のモンスターを解体していく。
こいつら動きが鈍くて処理するのはそこまで難しくないけど、足場が悪い上に数が多いので少々面倒くさい。
このモンスター地上にいるサンショウウオと同じように、気持ち悪いような少し愛嬌があるような見た目ではあるけど、体長は確実に2メートルを超えているし、よく見れば口の中には小さな牙が大量に生えていて、見れば見るほど不気味に思えてくるモンスターだった。
わらわらと湧いて出てくるそのモンスターを解体ナイフでサクサク解体し続け、しばらくしたところでこちらに向かってくる個体がいなくなった。
まだ水の中に潜んでいる可能性はあるけれど、そいつらをわざわざ解体しに行く必要はないだろう。無理に殲滅しようとして下手なことをするよりも、向かってこないのであれば放置が一番いい。
結構な数を解体したので周囲にはあのモンスターの素材が大量に散らばっている。泥水の中に沈んでしまっているものもあるので、すべてを回収することは難しいけれど、ギルドに今回のことを説明するときに使うため、いくつかは確保しておかなければならない。
彼女が毒を受けていることを考えれば、このモンスターの素材にも毒がある可能性が高い。そのため、毒素材を採取する際に使用する手袋を着け、専用の袋の中へ詰めていく。
「これは、毒袋かな?」
肉や骨、皮、牙などの素材に混ざって小さな液体が含まれている袋状の素材が落ちていた。この中身が毒なのかはわからないが、液体が入っている袋はかなり薄かったので慎重に扱わないと破れかねない。この素材は安全を考慮して別の容器にしまっておこう。
目に付いた素材をあらかた回収したところで、さらにモンスターが出てくる様子もなかったので、彼女のもとに戻ることにした。
 




