12 初配信!
社長と配信の相談をしてから2日後、現在私はダンジョンの中で準備を進めていた。
そろそろ配信の予定時間になるから凄く緊張していてちょっとやめたい気持ちになっているけど、予約している配信枠にはすでに待機している人が数百人もいるため今更なしにすることはできない。
「ヨルさんは大丈夫そ?」
「ぎゃう?」
「うん。大丈夫そうだね」
ヨルさんに声をかけると同時にヨルさん自慢の羽毛? に触れて心を落ち着かせる。
今回も撮影係として連れてきているヨルさんはすでに準備万端な状態だ。あの時みたいに尻尾が映りこまないように注意してもらっている。
カメラはあの時と同じようにヨルさんに持たせているので映像は問題ないとして、コメントを映すようのタブレットをあらかじめ起動しておいて、と。
それからいくつか確認しているうちに予定していた時間になったので、タブレットでニーチューブのアカウントを操作して配信を開始した。
配信が始めたことで、タブレットにチャット欄にコメントが表示され始めた。
[始まった]
[時間通りだな]
[初配信って書いてあるけど、実質これ2回目だよね?]
[ここどこじゃ]
[ダンジョンの中っぽいけど、どこのダンジョンだろ]
流れてくるコメント的にしっかり配信出来ているようだ。
「ちゃんと映っていますかね? こっちからだとコメントしか確認できなくて」
[来たわね]
[映ってるぞ]
[問題ない]
[あの配信について詳しく]
[きちゃ]
[あのスキルってユニーク?]
私が声を出したことでチャットの動きが早くなった。いくつか気の早いコメントが見えたけど、とりあえずしっかり映っていることは確認できた。
「えっと、それじゃあ始めますね」
[映ってるけど、配信者本人は映ってないぞ]
[背景のみで草]
「ん!? え、あ!」
コメントの指摘を見て、ヨルさんが別の方向を向いていることに気づく。
タブレットに表示されていたコメントを気にしていたせいでヨルさんの確認をするのを忘れていた。どうやら配信が始まっていることにヨルさんが気づいていなかったことで、カメラも同じように別の方向を映してしまっていたようだ。
すぐにヨルさんに指示を出して私が映るように修正する。
「こ、これで大丈夫そうかな」
[あれ意図してたわけじゃないのか]
[画面外から登場するのかと]
[初手PON]
[慣れていない感じが何とも言えんよね]
[焦ってる顔がかわいい]
「ははは。始めますね」
チャットのコメントを見て乾いた笑が漏れる。
ある程度失敗することは想定していたけど、まさかこんなに早く失敗するとは思っていなかった。恥ずかしさで少し顔が熱い気がする。
「えっと、この配信を見てくれている方、初めまして。朱鳥って言います」
私の名前を出した瞬間、一気にチャット欄に流れていたコメントの速度が上がった。どうしてそうなったのかコメントを何とか追っていると純粋に心配するコメントが多かった。
[名前出しちゃって大丈夫なんか?]
[akemitoriって言うと思ったら、普通に名前言い出したよこの子]
[本名ですか?]
「本名ですよ。名出しは別に調べればすぐにわかると思うので大丈夫です」
会社のサイトにある社員名簿に登録されているし、ギルドの臨時職員としても登録されているから、しっかり調べた人は多分たどり着いていると思う。
それに普段の活動も名前を出してしているから、知っている人は知っているって感じなんだよね。ここで出さなかったとしても近い内にたどり着いていた人は多いと思う。
「おそらくこの配信を見に来ている人はあの配信の切り抜きを見てきてくれたのだと思うので、とりあえずその話からしますね」
[ある程度まとめてきたんか]
[まあいちいちコメント拾って説明するのは取っ散らかりそうだし、最初から答えてくれるなら全然いい]
[これ、絶対答える気ない部分もあるだろ]
[フェイク動画の説明とか聞く価値ねぇよな?]
ちょくちょく荒らしのようなコメントも目に映るけど、全体を見れば受け入れられているみたいなので、この対応で問題はなさそうだ。
「それであの配信なんですけど、あれはギルド側から依頼を受けてやったものです。最初からあの動画の展開になることが分かっていたうえで依頼を受けているので、無理やりやらされたとかではないです。ちゃんと報酬も貰いましたし」
社長に言われてから荒れているって話題を確認してみたんだけど、本当にないことばかり書きこまれていて意味不明だった。
無理やり危険な任務に就かされたとか、何も知らない状態で囮にしたとか。根も葉もない噂があたかも本当のことみたいに書き込まれていて、ネットって怖いなってなったよね。
[言わされてない。これ?]
[庇うじゃん]
[報酬があるからって危険なところに送るのはどうかと思う]
「あー、それなんですが、何か私が無理やりやらされているって情報が本当のことみたいに出てますけど、それは完全に嘘ですからね?」
本当に信じている人は少ないと思うけど、中には信じてしまっている人もいるかもしれないから強めに否定する。
「さっきの名出しの話に繋がるんですが、私ギルドの臨時職員として登録しているので、時々ああいう依頼が来るんですよ。過去にも違法採掘者を捕まえる依頼を受けたこともあります」
あの時は相手の逃げ足が速くて面倒だったんだよね。そのうえ無駄に隠れるのも上手かったから本当に大変だったな。
[それでも、深層に向かう任務を君みたいな女の子に任せるのはどうかと思う]
「心配してくれるのはありがたいんですけど、奥多摩ダンジョンの深層の20くらいまでならソロで潜ってもどうにかなるので、あれくらいなら余程気を抜かなければ問題ないです」
チャット欄に流れてくるコメントを拾うのにも慣れてきて、ちょくちょくコメントに対して答えを返していく。
[ギルドの臨時職員って18歳以上じゃないとなれなかったはずだけど]
[あすかちゃん。見た目的にまだ高校生くらいだよね?]
[下手すると中学生に見えなくもない?]
「は? 私大学生なんですけど。え、何ですか? 私の見た目がちんちくりんとでも言いたいんですか?」
周囲の女の子に比べても確かに私は小柄だし、あまり女性らしい体つきをしてないのは自覚している。しかし、いちいちそこを他人に指摘されるのは嫌なのだ。
[そこまでは言ってないw]
[そこ地雷だったか]
[何かごめんね]
[キレた顔もかわいいね♡]
私の反応が面白かったのか、茶化すようなコメントが一気に流れていく。多分こういうやり取りも配信を見ている人たちにとっては面白いと感じているんだろうな。