10 あの配信の切り抜き動画めっちゃ見られているらしい
社長はここへ入ってきた時にいじっていたタブレットを私の前に差し出してきて、その画面を見せてきた。
「それじゃあ、話を始めるわね」
「うん」
タブレットに表示されていたのはニーチューブに投稿されているあの配信の切り抜き動画だった。
「これがあの配信の切り抜きの中で一番再生されている切り抜きね。他も似たような切り抜きがあるけど、これが一番内容をしっかり解説出来ているから人気みたいね。書き込まれている感想も一番多いわ」
「はぇー」
動画の総再生数を見て、バカみたいな声が出てしまった。でもそうなってしまうのも無理はないと思う。その動画の再生回数は昨日投稿されたにもかかわらず、すでに30万を超えているのだから。
昨日調べた時に見た切り抜きはよくて1万再生行っていれば多いほうだったから、一晩でここまで増えているのはすごいことだと思う。
「それに有名人の動画以外の切り抜きで短時間でここまで伸びるのは滅多にないわね」
「そうなんだ」
何となくそれは理解できるけど、どうしてこの動画を見せてきたんだろう。
「とりあえずこの動画で言いたいのはね。元の動画は非公開にしていない方がいいってこと」
「切り抜き動画の再生数が伸びているから?」
「それもあるけど、書き込まれている感想の内容ね」
「コメント?」
タブレットのサイズの関係で動画の説明欄より下は表示されていなかったので、スワイプして動画の下にある感想欄を見てみる。
そこには何百個もの感想が書き込まれており、いくつか否定的な意見も存在していたが、それよりも私のスキルについての疑問に思っている感想が多く書き込まれていた。
「煽りとかフェイク動画扱いの荒らしコメもあるけど、大半は本人から説明してほしいとか、元の動画で確認したいって内容ね」
「だから元の動画は公開しておいた方がいいってこと?」
「そうね。それに今後配信活動をするなら、朱鳥ちゃんがどんなことをできるかっていう説明にもなるし、あの動画を目当てにやってきたリスナーがそのままの流れで配信を見てくれる可能性もあるからね」
配信をするなら多くの人に見てもらった方がいいから、社長の言うように呼び込み用にあの配信動画を公開しておいた方がよさそうかな。
「それじゃあ、今非公開にしてる動画はそのまま公開状態にすればいいか」
「うーん。それでもいいのだけどね」
「えっと?」
「そのままだと映すつもりがなかったものとか映り込んでいるでしょ? 多少編集してから新しく動画として公開した方がいいと思うのよね」
「あー、そういえばヨルさんのしっぽとか声がちょっと入っちゃってるかもしれないし、その確認はしたいかな。入っていたら消しておきたいし」
あの時撮影をお願いしていた子は日本どころかまだ世界的に珍しい存在だから、騒がれないようにあまり映したくないんだよね。感想とかを見る限り気づいている人はいないみたいだけど、多分それは切り抜き動画だからだろうし、元の動画をそのまま公開したら気づかれてしまうかもしれない。
「そういえばあの子は連れてきていないの?」
「他のダンジョンに潜りに行くわけじゃないし、ヨルさんは結構好奇心旺盛で外で何するかわからないんだよね。下手に外に行って他の人に見つかったりしたらどうなるかわからないし」
「そうなのね」
社長は前回ここに連れてきた時にヨルさんのことかなり気に入っていたから、私がいないと言うと残念といった表情をした。
「とりあえず朱鳥ちゃん。昨日のうちに伝えたけどあなたのノートパソコンは持って来ているわよね?」
「持ってきたけど、これで何をするの?」
普段はタブレットとスマホでほとんど足りているから、パソコンを使うことってほとんどないんだよね。昨日の配信をするとき使ったからすぐ持ってこれたけど、その前は押し入れの中に入っていたくらいだし。
「あの動画を編集して新しく上げるの。会社のPCを使ってもいいけど、これから配信するのは朱鳥ちゃんだし、やるならそっちでやったほうがいいでしょ」
「編集用のアプリとか入っていないんだけど」
動画の編集って専用のアプリが必要だったと思うんだけど。私のパソコンって買ってからあまりいじっていないんだよね。
これは大学に入ったときに買ったやつでスペックはそれなりでしかないし、あの配信をするために配信用のアプリは入れてあるけど、それ以外で必要ないものは何も入っていない状態。だから動画を編集できるようなアプリが入っているはずもない。
「それは私が配信をしていた時に使っていたやつを一式上げるわ。私はもう使わないし、そのまま放置しているよりはいいでしょ。まあ、ちょっと昔の物だから配信がうまくいったら自分で新しいやつを買った方がいいけどね」
「ちょっと?」
社長が会社を建てる前の物だろうから結構昔の物のような。もらえるなら貰うけども。
「ちょっとよ?」
「あ、はい」
嫌味で言ったわけじゃなかったんだけど、社長にはそう聞こえなかったようで短い言葉ながら結構な圧をかけられた。
「それじゃあ、先にアプリを入れちゃうからノートパソコン貸してちょうだい」
「どうぞ」
カバンの中からノートパソコンを取り出して社長に渡した。




