82 配信開始
目的の階層に到着し、配信準備を進めていく。
すでに最初に採掘する予定のクレセント鉱石が露出している崖の前にスタンバイしており、そこで鞄の中から採掘用の道具と配信用のカメラを取り出す。
カメラはいつものようにヨルさんに預け、採掘用の装備を身に着けていく。
「装備大丈夫。ヨルさん大丈夫。周囲に人もいない……ね」
「がぅ」
しっかり順番に問題ないか指さし、このまま配信を開始しても問題ないことを確認してからスマホに表示されている配信開始ボタンをタップし、配信を開始した。
配信開ボタンを押す前から多少流れていたチャット欄のコメントが、配信の枠が開いたと同時に動きが早くなった。
[始まった!]
[ktkr]
[久しぶりの配信だーー]
[動画から]
[今日は何を採取するんだろうか]
「久しぶりの配信枠ですね。動画から来てくれた方は初めまして」
魔石の買い取り方法の動画を撮るまでに少し間が空いたため、前回の配信は1月以上前になる。
前回投稿した動画がきっかけで配信に来たっぽい人たちのコメントがちらほら確認できたので、その人たち用に挨拶を追加する。
評価的にはおじさんの配信に及ばなかったあの動画も、何だかんだ結構高評価を受けているしPVも伸びているので、あの動画きっかけで私のチャンネルを知ったという人もそれなりの人数が居るらしい。
[あ、チャンネル登録者数50万突破おめでとう]
[そうだったおめでとう]
[もうそんな数なんだはぇえな]
[むしろまだそのくらいなんだ。もっと行ってると思っていたんだけど]
[一応ニーチューブではトップクラスではあるんだけどね。配信者の括りにするとまだまだ上入るからなぁ]
「ありがとうございます」
1つお祝いコメントが流れていくと、それに続いていくつもお祝いコメントがチャット欄に流れていく。
ビャクさんの孵化配信あたりから一気に増えたチャンネル登録者だけど、前回投稿した動画から私のことを知ってくれた人たちが登録してくれたことで50万を超えた。
今までもチャンネル登録してくれる人たちがいたからじわじわと増えていて、あの配信の前は20万を少し超えるくらいだったはずなんだけど、いつの間にか6桁の後半まで来ていて何とも言えない気持ちになった。
コレクターの活動内容を知ってもらって、マイナスイメージを払拭してもらおうという私の活動方針からすればいいことではあるんだけど、動物系の動画が人気だってよくわかる動きだったよね。まあ、それ以外に珍しいからって理由もあるんだろうけど。
「今回の配信は鉱石採取になります。最初に採掘する鉱石はすでに後ろにあるので、さっそく採掘していこうと思います」
あれこれ話をするのもいいんだけど、時間をかけると他の人が来てしまうかもしれないので、さっさと配信を進めることにする。
[あっやっぱり]
[バックがグレーだと思ったらそういう事か]
[どこかで見た光景だ]
[それどこの勇者叔父コラボ回?]
[あいつとのコラボは一回しかしてないぞ~]
「今から採掘する鉱石はクレセント鉱石になります。知っている人も多いかもしれませんが、この鉱石は砕くと半月や三日月型になる少し変わった特徴を持っています」
こういう見た目がはっきりしている物って結構ネットでも情報があるから知っている人って多いんだよね。まあ、大半の人はあくまで見た目と鉱石名が一致する程度の知識量だろうけど。
[おもろい見た目の鉱石か]
[地上にも同じような物あるよな。砕けると同じような形になるやつ]
[方解石とかな]
[クレセント鉱石を砕くだけの動画とか結構再生されてるよね]
[砕いたときの音が結構好き]
「クレセント鉱石を砕いたときの音は私も好きです」
一定サイズ以上のクレセント鉱石を砕くと風鈴が揺れた時のような音が響くことがある。それもまたこの鉱石の魅力の1つだ。
採掘中もその音が時々鳴るので結構採掘するのが楽しい鉱石だね。
がつがつとクレセント鉱石が含まれている崖の斜面をツルハシで崩していく。その途中、ツルハシがクレセント鉱石を砕くたびに綺麗な音がダンジョンの中に響く。
[良い音ー]
[石が転がる音の中で風鈴が鳴っているような感じが何とも言えない]
[がらがらちりーん]
[ちりーんというよりはピーンとかキーンの方が近いかな]
今まで配信で採掘していた鉱石は、採掘した後すぐにカバンの中にしまっていたけれど、このクレセント鉱石はあまり劣化しない鉱石なので、まとまった量を砕き終わるまで地面にころがった状態で放置することになる。
[あれ、採掘したのそのままなん?]
[劣化しちゃうんじゃね]
[はよしまった方がいいのでは?]
[いつもはすぐに回収するのにこれはしないのか]
これまでの配信ではすぐに回収していたのに、今回はすぐに回収する様子がないことに気づいたリスナーたちが、ちらほら[回収しないの?]といったコメントをしてきた。
「クレセント鉱石は放置していてもほとんど劣化しない鉱石なので、急いで回収しなくてもいいんですよ」
[そうなんだ]
[へぇ]
[それは知らないんだ]
[ちょっと重いけどこれがあるから高級包丁とかに使われたりしてる]
「お、詳しく知っている人もいるみたいですね」
採掘しながらチャット欄を眺めているとクレセント鉱石の使い道を知っているようなコメントが来たので反応を返す。
「このクレセント鉱石の劣化しにくい特性は地上に持ち出しても変わらないので、それを生かして劣化しにくい金属として使われることが多いです。特に包丁などの刃物に使われることが多いですね。
クレセント鉱石から作った包丁は、変形しにくい上に刃こぼれしにくく切れ味が良い、使っていてほぼ劣化しないということで高級品として扱われています」
陽彩がクレセント鉱石を使いたかった理由がこれ。ただ。陽彩がクレセント鉱石1種類で武器を作ろうとしなかったのは、クレセント鉱石って鉄よりも重いからなんだよね。
包丁くらいならそこまで気にならない差ではあるんだけど、日本刀くらいになると無視できない重さになってしまう。だから軽い金属であるフィア鉱石を混ぜて作るわけだ。
「それに包丁などの刃物を作る際に丁寧に鍛造して作ったものには、和柄の青海波のような刃文が浮き出てくるんですよね。まあ、こちらは工芸品寄りになるので一般にはあまり流通していないようですが」
クレセント鉱石から作ったクレセント鋼って叩いて形を形成すると、元の性質である砕くと三日月型になる特徴が反映されるらしくて半月型の模様が浮かび上がることがあるのだ。
これが和柄の青海波に似ていて、この模様が出ている包丁はクレセント鋼と青海波をもじって、月海波包丁って呼ばれたりしている。
[ま?]
[刃文が出るってのは知らない。本当?]
[クレセント鋼製の包丁調べたら普通に1本10万超えてて草]
[お高い包丁だけど、常識の範囲内ではある]
[お高いー]
[月海波の刃文いいよね。木目みたいなダマスカスもどきのやつより断然いい。クッソ高いけど]
「おそらく月海波か、月海波包丁で検索すると見つかると思います」
売っているかどうかは別として、画像くらいは見つかるはず。私が最初に見た月海波包丁の画像はインターネットにあった物だったし、それが削除されていなければ最低1枚以上存在しているのは確実。
[見たけど綺麗な波紋やん]
[波紋じゃなくて刃文だぞ。まあ、直接変換できないからただのご入力だともうが]
[1本50万してて草 誰がこれ買うんだよw]
[同じサイト見てるなら、値段の隣売り切れになってるから買った人がいるやで]
[こんなはっきり刃文が出るのかすごいな]
[思ってたよりも青海波に似てるな]
それからちょこちょこコメントを拾いながらクレセント鉱石を採掘し続け、最初に予定していた量よりも多めに採取したところで次の採掘ポイントへ移動し始めた。




