ep8.悪女、仲良くなりました
「…これは………」
「どうされましたか?」
いやまあ、私生児だし人質だし後の死刑囚だし、婚約者の待遇は受けられないことはもちろん分かっていたのだけど。
一応婚約は結んだのにも関わらず結婚式も開かれず、披露するのは2ヶ月後のパーティーのみ。
2ヶ月後なんて、ちょうど第一皇子が結婚したことを忘れつつある頃だろうし。
初夜も迎えず2日前のあの日以来顔も合わせてないし次会うのは多分そのパーティーの時だろうし。
少しくらい、見せたって良いわよね?
ほんの少しの仕返しだ。
どうか寛大な目で見て欲しい。
「エリーも見る?」
「えっ!?良いのですか?」
「ええ、良いわよ。目に焼き付ける勢いで見ちゃって」
私がとんでもないことを平然と言うものだから流石のエリーも戸惑ったらしい。
けれど、意を決したのか「失礼します…!」とグイッとこちらに顔を寄せて見た。
「…っ!これは…酷すぎます…!」
「まあ、うん。落ち着いて」
「これはだめです!今すぐに直談判しに行きましょう!」
「うん、落ち着いて?」
封筒の中を見せたことを少し後悔した。
エリーを宥めてから、私はもう一度封筒の中に入ってる契約書に目を通した。
【1.エヴァ・ウェルズリーとの結婚は一時的なもので あり、隣国の侵略を終えれば、死刑囚としての扱い をする。
2.私生児であるエヴァ・ウェルズリーとの結婚は白 い結婚であり、後々は無かったものにする。
3.皇宮の印象を悪くしないこと、体裁を守ることは 嫁ぐ上での義務とする。
4.必定で出なければいけない行事には必ず参加する こととする。
5.婚約者としての教養を身につけるため家庭教師を 後日送り、勉強は必ずすることとする。
6.以上のことを守ればお金は常識の範囲内でなら使 っても構わないこととする。 】
なるほど、としか言いようがなかった。
けど、よくよく考えてみれば、人の目をあまり気にする必要もないので言葉遣いに気を付ける必要もなく、基本的には自由で過ごす時間も確保されている。
しかもこの離宮、大きな図書館並みの本が置いてある場所があるので魔法書も読み放題研究もし放題…。
あら?
あらら?
最高じゃないの…
「…一通り読んだし、サインをするからこれを第一皇子殿下に渡してきてくれる?」
「えっ!?サインなんてしなくても…!これはあまりにもエヴァ様を蔑ろにするないようではないですか…」
やっぱり普通はそう思うらしい。
私が特殊なだけ?
「うーん、ある程度の自由は保証されてるし、こうしてエリーたちともたくさん話せるから、私的には全く問題ないのよね」
「…エヴァ様……、失礼なことをお伺いしても良いですか…?」
表情は崩さず、エリーは私に聞いた。
「うん。大丈夫だけど、どうしたの?」
「エヴァ様は、どこからがエヴァ様にとっての幸せなのですか」
「私にとっての幸せ…」
私にとっての幸せなんて、そんなの、分かりきっていた。
「そうね…、普通にご飯を食べて、ふかふかなベッドで寝て、こうやってお話を出来るのが、私にとっての幸せ。殿下はその幸せを保証してくれてるし、私はこの契約で充分。だからエリーも怒らないで、第一皇子殿下に契約書を渡してくれる?」
「…分かりました……」
素直に言うことを聞いてくれてよかった…
私は心の底から思った。
◇◇◇
第一皇子に契約書を渡されて1ヶ月と半月が経った。
その間に、私は離宮で働く人たちとめっちゃ仲良くなれた。
正直、この生活が一生続けば良いと思う。
だって楽しいのだ。
1人でいる時間も、魔法の勉強をする時間も、たくさんの侍女とティータイムを一緒にすることも、家庭教師に新しいことを教えてもらえることも、全部が新鮮で楽しかった。
侍女はエリーから始まり、どんどんと輪が広まっていって、今ではティータイムの時間を一緒に食べて過ごすようになっている。
家庭教師にも、最初はビクビクされながら教えてられていたけど、1ヶ月と半月も経てば私が噂通りの人ではないことが分かったのだろう。
私は基本的な所作も知識もあったので、より細かいところまで指導してもらい、結局1ヶ月も経たないうちに必要な教育が終わってしまった。
こんなことは異例だと驚かれたけど、先生はとても褒めてくれた。
褒められるのなんていつぶりだろうかと少し胸が熱くなったのを覚えている。
次に何か知りたいことはあるかと聞かれたので先生に魔法を使えるか聞いたところ、まさかの本職は魔法師らしく、先生に色んな魔法を教えてもらった。
私の魔法属性は少し特殊なため、本で学ぶと言っても限界があったのでとても嬉しかった。
そんなこんなで気が付けばあっという間に2ヶ月経ちそうになっていたのだ。
そして今日、今日は久しぶりに憂鬱な気分を迎えている。
今日は今まで一度も会うことのなかった第一皇子とダンスの打ち合わせをするからである。
私個人は先生に男性パートを踊ってもらい練習をしていた。おそらく向こうも同様だ。今日はダンスを合わせるために一度踊るとのこと。
そう、一度だけで良い。
何度も繰り返し踊る必要はない。
一度で先生に完璧と言わせれば良いのだ。
「…やってやりますよ」
1人部屋の中、そんなことを唱えてからダンスをする部屋へと移動するのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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