ep41.婚約相手は新婚旅行を提案する
「エヴァ!私と新婚旅行に行こう!」
「はい!?」
まだ結婚してませんが?
多分それ婚前旅行です…
クラウス様が私を甘やかし始めてから早4ヶ月、私がティラノ帝国に来て2年半が経ったくらいだろうか。
クラウス様は変わらず私に愛を伝えてくれるし、それに慣れてきた私もいる。
そして急に、突然、今日、クラウス様はおかしなことを言い出した。
「エヴァはあれからまた社交界に仕事にと忙しくなってしまっただろう?しばらくは自身の身体を休めるようにと父上からも言伝を預かってる」
「え、あの、休むのは構わないのですが、そもそも私たち、結婚はまだ………」
途中で言うのが恥ずかしくなってしまった。
クラウス様はニヤリと笑みを浮かべた。
今更ながらに理解した。
敢えて新婚旅行と言ったのだ。私を揶揄うために…。
「まだ…、と言ったな?私の愛が少しずつ伝わってるようで嬉しいよ」
そう言ってクラウス様は私の額にキスをした。
確かに仕事は再開した。
皇后になる以上、学ばなければいけないことは他にもあるし、社交界にも頻繁に顔を出さなければいけない。
そのうえ、国民の声を聞いて、当然だが全てを叶えることは出来ないから、妥協しながらでも叶えられる方法を見つけていかないといけない。
それでも、私のしなければいけないことは私の人質時代と比べると随分少なくなった気がする。
理由は、私1人で考えなくても良くなったからか。
現皇帝陛下と皇后陛下の意見をもらえるから本を漁らなくても案外あっさりと解決策が見つかったりする。
「殿下…そろそろ降ろしてくれませんか?」
「いやだ。それに名前で呼んでくれとお願いした」
『いやだ』って、そんな即答しなくても…。
少なくとも次期皇帝が使う言葉ではない。
「…もしかして、この体勢辛い?それとも私のことが嫌になってしまったか?」
クラウス様は仕事の手を止めて私の肩に顔を預けた。
そんなしょげないでほしい。私はクラウス様に弱いのだから。
「…どちらもちがいます。私が殿…、クラウス様のお顔を見たくなったのです」
私が恥ずかしいながら言うと、クラウス様は後ろからギューっと優しく抱擁してきた。
本当に距離感がバグっているとは思いませんか…。
「嬉しいよエヴァ。じゃあ休憩にしよう。エヴァも疲れただろうしね。ついでに旅行の話もしようか」
「はい!」
私も先の先まで殿下の膝の上に座りながら書類を見ていた。
違和感があれば殿下に見てもらって問題があればその書類は要チェックの束へと追加される。
その仕事をする時は決まってお互いに言って隣で見るようにしてる。一応、見落としのないようにと言うのが名目上らしいけど、クラウス様はこっそり教えてくれた。
『本当は、エヴァと一緒にいたいだけ』と。嘘偽りなく教えてくれるのは嬉しいけど、そこまで教えてくれるから、結局いつもカッコつけていたことも可愛いになってしまっている。
「となりにおいで、エヴァ」
お茶をする時も、私が向かいに座ろうとすると必ず言われる。
少しだけ離れた位置に腰を下ろすと、クラウス様に距離を詰めて改めて座り直された。
「エヴァは、どこか行きたい場所はあるかな」
「…実家にいた時は、10歳に外出した以来殆ど外に出たことがなくて、観光スポットとかはあまりよく分からないんです。すみません…」
私が俯きがちに話すと、クラウス様はきまって私の頭を撫でて「大丈夫だよ」と言う。
「悪くないのにすぐに謝るのはエヴァのよくない癖だ。少しずつで良いから直していこうな。それから、エヴァがどこでも良いなら、国内にはなるが、この国のおすすめの場所へ連れて行かせてくれないか?私がエスコートしたい」
サラッとこんなことを言えるのだから、女性慣れしていてもなんら不思議ではないのに、クラウス様に聞くと今までの近くにいた貴族令嬢は外面でしか見ないから適当にあしらっていたようだ。
つまり、今のクラウス様が世に出れば、きっとどんな女性でも虜になっていただろう。
私が楽しめるように考えてくれてるのは全て分かっている。だからこそ申し訳なさが立つ。
「本当に、よろしいのですか?私はこの国の観光地をあまり知りませんが、殿下は知っているでしょう?これでは殿下がつまらないのでは…」
「ふふっ、そんなわけがない。私は既に楽しいよ?エヴァがそんなに私のことを思ってくれているのが嬉しいからね」
「な…、私は真面目にっ…!」
ついクラウス様の方を向いて言えば、本当に楽しそうにしている。
これでは私も何も言えないではないかと、少しおかしくなる。
「っふふ」
「?、どうしたの?エヴァ」
大丈夫?と顔で尋ねてくるので、私は優しく微笑んだ。
「いえ、クラウス様が笑顔で、私も嬉しくなっただけです」
「…!」
クラウス様は大きく目を見開いて私を抱きしめた。
これじゃお茶をしていない時とあまり変わらない。
「君はそういうことを平然と言うね。だから好きなんだけど」
「っ?!クラウス様?あの、そういうとことは?」
クラウス様は抱きしめるのをやめて顔を見合わせた。
それから幸せが溢れたような笑顔で、声を弾ませて言った。
「ふふ、あー、私の嫁は可愛すぎるなぁ。愛してるよエヴァ、これからも私と一緒にいてね」
「はい。クラウス様が望むならいくらでも」
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