ep4.悪女のち〇〇
「一体どう言うことだ!」
今は父がアルバート義兄様を問い詰めていると言うなんとも珍しい光景。そして何故か私までここにいる。
私関連のことだから私もこの場に付き合わされているんだろうけど、正直早く戻りたい。
「どういうことも何もありません。義父上だってコイツに手を焼いていたではありませんか。隣国から女を寄越せとの指示もありましたし丁度良いでしょう」
「それでも、言って良いことと悪いことがある!」
父は何をそんなに必死そうに訴えているのだろうと、私自身上の空である。
「今更義父上がまともずらする理由はなんです?コイツを離れに置いたのは父上ではありませんか」
「…っ、それは、…まだ整理がつかなかったんだ」
「あの」
しょうもない言い争いから早くも退出したかった私は2人の争いに割って入った。
「もう戻ってもよろしいですか?私、これから隣国へ行く準備をしなければいけないのですが」
私としては至極真っ当な意見だと思ったのだが、2人からするとどうやらそうではなかったらしい。
「…っ、お前はそれで良いのか!残虐で有名なティラノ帝国の元へ行かないといけないんだぞ!」
…お父様は何も分かっていない。
それが何だと言うのだろう。
これから家で飼い殺される人生より余程マシなことに、お父様は気付いているだろうか?
いや、気づいていれば、先みたいな発言はしないはずだ。
「構いません。これはアルバート義兄様…いえ、次期公爵様の意思でもありますが、私の意思でもありますので。ですからアルバート義兄様を攻めないでくださましね。私は準備をしてきますわ」
とにかくその場から逃げたかったのでそれっぽいことを言い言い争いの場から逃げた。
これほど意味のない争いに時間を割くほど優しい人間ではない。
そこからはなるべく人に会わずに離れまで戻った。
「はぁ、良かった。上手くいって」
この日のために、私はアルバート義兄様からの怒りを買い続けていた。
長男であり次期公爵というプレッシャーと責任感への苛立ちを利用してしまったのは申し訳ないが、私も人の人生に気を遣ってられるほどの余裕はない。
「これでさよならよ。家族ごっこはもう終わり」
ベッドにバタンと倒れながら、そんなことを呟くのだった。
◇◇◇
隣国に嫁ぐための用意の準備期間は2週間で、あっという間に過ぎていった。
隣国までは馬車で1週間。
時折り休憩を挟みながら向かった。
話しかけようと試みたは良いものの、祖国での噂が隣国まで広がってしまっているのか、誰も私の声に返事をしようとする人はいなかった。
途中で私も話しかけるのをやめ、持ってきた本で暇を潰しながら隣国に着くまでの時間を過ごした。
やがて
「到着致しました」
「まあ、ありがとうございます。1週間もお疲れ様」
御者にお礼を言うと、自分で荷物を持って皇宮内に入った。
入ると、壇上には2つの豪華な装飾が施された椅子があり、そこには皇帝陛下と皇后陛下らしき人が座っていた。
そして周りに3人、息子と思える人が2人と娘が1人気品ある佇まいで立っていた。
「帝国の太陽とそのお妃様にご挨拶申し上げます。私、エヴァ・エルズリーと申します」
「…こちらへ来い。其方が隣国から来た婚約者か?」
皇帝陛下が私を見定めるような目で見る。
貴族の瞳だ。
「左様でございますわ。皇帝陛下。私ではがっかりでしょうか」
「まあ、そうだな。もう少し私の息子に相応しい相手が来ると思っていたのだが、残念だ」
冷めたような目で見られるのには慣れているので特段何も感じなかった。
ここに嫁ぐのが私でよかったと思う。
普通の令嬢からすれば、こんな屈辱耐えられなかっただろう。
私の婚約者、第一皇子も、私を品定めするような目で見た後、初耳な情報をさらりと言ってのけた。
「我が国の利益になる人を寄越せと言ったのにこんな悪女を送ってくるとは…、まあいいでしょう。所詮は人質です。あの国を我が国の物にするのは決定事項ですし、そうなればこのご令嬢は死刑です。そう残念がらないでおきましょう」
なんだろう。父親を慰めているのは分かるのだけど、私の前で人質やら死刑やらと国家機密レベルの情報をここでぶちまけるのは辞めて頂きたい。
しかしここの皇帝陛下と皇后陛下の子供は情報を隠すといことを知らないようだ。
当たり前のように私の目の前で秘密にするべきであろう会話を繰り広げてくる。
「私生児の分際で調子に乗っている、しかも悪女である女をここに送ってくるとは良い度胸ですね!今すぐに乗り込んで見ませんか?その方が面白そうだ」
第二皇子からは狂気さしか見えない。
なるべく関わらないようにしよう。
「ダメですわよマーク兄様。わたくしが一度じっくりとこの方とお話してみますわ」
ただならぬ気迫を感じるのは気のせいだろうか。
どうかやめて頂きたい。
私はここで悪女を卒業するつもりなので、何もしませんので、その気迫をどうか収めてほしい。
後ろに何かオーラらしきものが見える第一皇子、第二皇子、第一皇女の一方で、皇帝陛下と皇后陛下は【物腰だけは】優しかった。
「まあここに来たのならゆっくりしていくが良い」
「またゆっくりお茶でもしましょうか」
にこにこっとしているが、その笑顔が実は1番怖かったりする。
私はその気持ちをひた隠すように強気で言葉を発した。
「私がこの国の人質であるなら、最も価値ある人質になって見せます。楽しみにしていてくださいな」
◇◇◇
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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