ep3.悪女が待ち望んでいた結末
「姉様、いい加減幼稚な行動は控えてくださいませんか?今の姉様の行為は、母上にも失礼です」
側から見れば、私は義弟に至極真っ当なことを言われているように見えるだろう。
けれど実際のところはどうだろうか?
その命を粗末に扱っているのはどちらだろうか
『お前のせいで母上は死んだ』と嘆いたのは誰だろうか
…全部、そっちじゃないの
「あっそう。貴方から見たら、私の行動が幼稚に見えるのね」
「当然ですが」
私はそこまで頭の悪い人間だと思われているようで悲しくなった。
今の私を知る人は、この世で誰もいない。
「そうなのね。なら、これが自分自身を守る最善の手段だったと言えば、貴方は納得する?」
「守る?またそうやって逃げようとするのですか」
「また…?」
『また』とは何だろうかと思考を巡らせていると、そんなことも思い付かないのかと言うように冷たい声音で言った。
「貴方は母上に守られたことで生きているではありませんか。姉様はまだご自分を守らないと気が済まないようですね」
あまりにもデリカシーのないルークの発言に、つい睨んでしまいそうになる。
そうだ。私は義母が守ってくれたことで生きている。そんなこと、私が1番身に染みて分かっている。
あの冷え切った体温を、青白い顔を、真っ青な唇を、冷たい手を、止まっている心臓を、忘れられるわけがないでしょう?
お義母様が亡くなるまでは居心地の良かった場所が、今では大っ嫌いだ。
お父様も、お義兄様も義弟も、使用人も、皆大っ嫌い。
だから早く、終わりにしないと。
もう何でも良い。
取り敢えず、今ある地獄よりも苦しいところなど滅多にない。
逃げたい
この家から
家族から
お義母様の思い出から
全て、忘れられたら良かったものを
しかし残念ながら私の記憶の中には、抱きしめてくれているお義母様の体温が、徐々に下がっていき、人が死に近づいていく過程をしっかり覚えている。
「貴方は相変わらず随分と私を嫌いなようね」
「お母様の仇のような人ですからね」
「そう。でも残念。貴方より、私の方が私を嫌いだわ。誰よりもね」
「え…、それはどういう「じゃあねルーク。久しぶりに話せて良かったわ」」
「待ってください!姉様!」
もちろんのこと待つわけはない。
私はルークの言葉を無視して自室へと入った。そのままベッドへと顔を埋める。
まさかいきなり、家族全員と対峙するなんて思ってなかった。
私が悪女になると決めた理由を知っているのは、たまたま知ってしまったイーサン義兄様だけ。
イーサン義兄様以外は、私の事情など知る由もない。
だって、一度も離れの様子を見に来なかったのだから。
離れでどんなふうに暮らしていたか、どんな部屋を使っていたか、どんな食事をしていたか、彼らは何1つ知らない。
その上で勝手なことを言うのだから、腹が立っても仕方ないのではと正直思う。
あの時、自分の居場所をつくろうとする行動すら許されなかった。
その前に、…いや、やめておこう。これは思い出す価値すらもない思い出だ。
「それよりも、ようやくね」
アルバート義兄様が来月で成人する。
成人をするにあたって、我が家は公爵家なのでパーティーを開かれる。
そこで、私の目的は達成される予定だ。
【この地獄から抜け出す】
5年前から決意して、悪女になってからずっと目標だった。
仮にここから抜け出した先が同じように、それ以上に地獄であろうとも、それは私の決めた道だから後悔はない。
それよりも、ここからずっと抜け出せず、同じ苦しみを引きずるのが何よりも地獄で嫌なことだった。
「早くこんな口調ともおさらばしたいし、今だけはアルバート義兄様に縋るしかないわ…」
そんなことを思いながら、私の意識は微睡んでいった。
◇◇◇
アルバート義兄様の成人式まで、あっという間に期間は過ぎていった。
そして当日。
やはり公爵家と皇族が主体のパーティは規模が大きかった。
男爵から同じ公爵まで、様々な家紋の貴族が集まった。
パーティが賑わい、皇帝陛下も到着し、ある程度パーティを楽しんだ頃、皇帝はアルバート義兄様に尋ねた。
「我が国を支える公爵家の後継者が成人したこと、とても喜ばしく思う。よって、私の叶えられる範囲でなら、其方の願いを1つ叶えてあげよう」
待ちに待った言葉を、私は聞くことが出来た。
「では、ウェルズリー公爵家のエヴァ・ウェルズリーを、友好関係を築くため、隣国、戦闘国家でもあるティラノ帝国第一皇子の婚約者として嫁いでもらいたいです。」
会場はざわついた。
それはそうだろう。
あの戦闘国家に嫁に行けということは、死んでこいと言っているようなものだった。
流石の陛下も、少し躊躇っている様子だった。
「…それは誠か……?本当にその願いで良いのか」
予定通りだ。
皇帝陛下は私の方をチラリと見た。
陛下も私の悪評は知っているため、どうしたものかと悩んでいた。
普通の令嬢であれば、嫌だと喚いて懇願するだろう。でも私の場合、陛下に悩まれては困る。
この日のために私は今まで悪女でいたのに、今日を潰されてしまっては元も子もない。
「陛下、発言をお許しください」
「…発言を許可する」
「ありがとうございます。陛下、私を隣国へ置いてくださいまし。今までの行動を考えれば私は隣国へ行くべきですわ。アルバート次期公爵閣下のご命令、喜んでお引き受けする所存です」
「…そうか。其方が良いのなら、隣国と関係を築くためにも嫁いでもらおう。まあ…あの国には丁度いいだろう」
今の皮肉、しっかりと聞こえましたよ?
「かしこまりました。陛下、次期公爵様、ありがとうございます」
みんな、なんのお礼かは分かっていないだろうけど、取り敢えず私の悲願は達成された。
この先がどうなろうと、今よりも地獄ではないことを、私は確信していた。
あの家族たちも、私がいなくなることで清々するだろう。この断罪劇はお互いに取ってWIN-WINだったのだ。
こうして、成人式は終わりを迎えた。
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