ep10.悪女はお披露目される
「ねえ、エリー…」
「どうしましたか?」
「今からでも欠席するって言ったらダメ…?」
返答なんて分かりきってるものを、人は何故質問してしまうのだろう。
案の定と言うべきか予想通りの言葉が帰ってくる。
「ダメに決まってます。それに、ここまで用意したのに勿体無いですよ!」
「それはわかってるんだけど…、アルマとレティなら分かってくれるかもしれないわ!ダメ?」
普段話すエリーに加えて、今回は侍女1人では到底用意出来ないためエリーと同じく、侍女のアルマとレティにも用意を手伝ってもらうことになった。
離宮の侍女とは全体的に仲が良いため全く抵抗もなかった。
「そんなにお可愛く言われてもダメですよ、エヴァ様。これは必定の行事ごとなので我慢してください」
アルマが冷静にツッコミを入れてくる。
レティも器用に私のドレスの用意をしながら話す。
「私たちも侍女としてコソッとパーティーに参加するのでその時に少しだけバルコニーでお話ししましょう!これならエヴァ様も耐えられますか?」
「レティは私に甘くて嬉しいわ。2人もこれくらいなら良いのに」
「「だめです」」
そんなに声を揃えて言わなくても良いじゃない。
分かってるんだから。
見知った顔であっても、侍女と話すなどパーティー内では絶対にしてはいけないことだった。
パーティーは基本的に貴族として出席している者たちとの交流の場であって、例え貴族令嬢の侍女であったとしても命令する時以外は話してはいけない。
そういった決まりだ。
「じゃあ、明日一緒に昼食を食べてくれるなら頑張るわ」
「…はあ……、エヴァ様。本来は侍女と食事なんてダメなんですからね…?」
「分かってる!でもどうせここには誰も来ないんだから、お願い!」
「………分かりました。今回だけですよ?」
よかった。
粘ってお願いして本当に良かった。
「ありがとう!エリー!アルマ!レティ!」
◇◇◇
用意がひとしきり終わったので、私は第一皇子のいる待機場に向かった。
もう招待されている貴族のうちの過半数は来ているらしく、私たちの出番もそろそろだった。
「緊張しているか?」
まさかこんなことを第一皇子が聞いてくるなんて、珍しいこともあるものだと内心少し驚いた。
けれど目を逸らさず、妖艶な笑みを浮かべて言った。
「殿下は私が緊張するとお思いですか?」
「…!ああ、そうだったな。悪女。貴方は貴方の祖国で有名な悪女だったな。ならばパーティーなど慣れているか」
「その通りでございますわ。さあ、参りましょう殿下。また本日もお手に触れることをお許しくださいね。でなければせっかく練習したダンスが踊れなくなってしまいます」
皮肉を込めて言うと、それに気が付いたのか不機嫌そうな笑みを浮かべて「ああ、その通りだな」と言うだけだった。
割と会話が出来て気まずくないことに少し嬉しくなっていると、パーティーの司会者がついに私と第一皇子の名前を呼んだ。
「クラウス・ステュアート第一皇子殿下、エヴァ・ウェルズリー公爵令嬢の御成です!」
同時に大きな扉が開かれ、私たちは入場した。
大きな歓声と拍手、「おめでとうございます」「殿下に大きな幸福があらんことを!」と、辺りは一見祝福ムードに見えた。
私はその内側がよく見える。
だって皆、魔力の揺れが大きいのだ。
魔力と言うのは負の感情に反応して揺れが大きくなる。魔法を使うのなら負の感情を容易に出してはいけないし、感情に飲み込まれると魔力暴走が起きる可能性だってある。
だから魔法を扱うものは気を付けなければいけないのだ。
感情に支配されてしまわぬように、自分で感情をきちんと支配出来るように。
ざっと上から見る限り、揺れが大きいのはやはり貴族令嬢に多い。
それもそのはずだ。
貴族令嬢は皆、【第一皇子の婚約者】という立場を狙ってたはずだから。
それをいとも簡単に隣国の、しかも悪女と名高いらしい私に取られてしまったのだから、悔しくて堪らないのだろう。
「皆褒めてくださっていますわね。殿下」
「どうだろうな。口先だけのやつばかりだろう」
第一皇子も分かっているか試しに聞いてみたけど、やっぱり第一皇子も分かっていた。
「そうですわね。私もそう思います。それでは挨拶に回りましょうか。下の者は上の者から挨拶をしなければ話を出来ませんからね。下の者に一度のチャンスくらいは与えて差し上げましょう」
「随分と上から目線だな」
まあこれでも一応公爵令嬢なのだから、仕方がない。実際そうしなければいけないのだ。
自分より下の爵位の貴族が、上の貴族と繋がるチャンス。それが社交界なのだから。
今日は事前に懇意にしておきたい貴族のリストを貰っているのでその貴族の元へと挨拶に行く。
1人、2人と順番に挨拶に回って行った。
私は基本的に口を開くことはなく、第一皇子にも「立っているだけで良い」と言われているので実際に立つこと以外は名前を言うことしかしてない。
そして残り挨拶をする人が1人になったところで、それまで私に口を開かなかった第一皇子が口を開いた。
「これで最後の1人だ。気を緩めずに喋るんじゃないぞ」
「分かっていますわ。私はただ名前を名乗るだけでよろしいのですよね?」
「ああそうだ。ボロでも出たらかなわんからな」
ボロって…、私のことを隣国から回ってきた情報でしか知らない癖によくそんなことが言えるものだ。
私は内心呆れながら第一皇子の隣を歩いた。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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