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ep1.稀有な悪女エヴァ

「貴女、私の目の前に立たないでくださる?不愉快だわ」

「も…、申し訳ありません…!」


 公爵令嬢である私はどこかの伯爵令嬢に向かって、冷たく言い放った。だって、悪女とはこういうものでしょう?


 悪女になることを決めてもう5年が経った。

 お義母様が亡くなった日、私の人生は一瞬にして暗闇に染まった。


 もう、そんな暗闇に…自ら同じ場所に、浸っていたくなかった。

 だから私は、5年前に悪女になることを決意した。


 家にいる使用人は皆、私から遠ざけた。

 社交界には頻繁に顔を出し、貴族令嬢にも次期当主になる男性にも、平等に毒舌なところを見せた。


「そこの使用人、飲み物を持ってきて。毒なんか入れようものなら…分かってるわね?」

「っひ…!はい…!只今!」


 これで良いの。

 皆、私を怖がれば良い。


 今では稀有な悪女だと名の知れた悪女になっていた。


 『私生児の癖に生意気ね!』と言って、飲み物をかけてくる貴族令嬢がいた。


 その令嬢には、もちろん仕返しをした。

『公爵家の娘である私に向かって随分と生意気なお口を持っているのね?もう少し場所を弁えてはどうかしら。ここは社交の場で、しかも、今の一部始終を殿方もたくさん目撃したのではなくて?』


 私がそう言うと、貴族たちは次々にぷいっと目を逸らした。

 だが別に関係なかった。

 これで貴族令嬢が女性としてはしたない行動をしたと噂が回ることまで、全て計算したうえでの行動だったから。


 その貴族令嬢は、顔を真っ赤にした。

そして、『覚えていなさい!』と、いかにも悪役が発しそうなセリフを吐いて、扉の向こうへと消えて行ったことがあったのだ。


 あの時は、悪女らしく言うなら、とても愉快だった。

 自ら首を突っ込んで補欠を掘るとは、どれほど滑稽なことだろうかと。

 恨むなら、私ではなく貴方の教育係を恨みなさい。という言葉は、心の中で吐き捨てた。


「…あの、お飲み物、!お持ちいたしました」

「遅いわ。早くなさい。解雇されたくなければね」

「…!!!申し訳ありません…!」


 このやりとりを聞いていた貴族は、口々に言った。

「なんて心の狭い…」「あれが噂の悪女か…」「顔だけは良いな」「あんな露出の高いドレスなんか着ちゃって、誘っているのかしら?」「使用人にあんな態度じゃ誰も誘わないわよ」


 みんな、馬鹿馬鹿しい。

 私が言ったことの意味に、私の噂のせいで誰も気が付きはしない。

 先の言葉だって、別に意地悪で行ったわけではない。ただ悪女っぽく言うとこうなるだけで。


 私が言ったのは、本当に届けるまでに時間がかかっていたから。

 そして、仕事の出来ない使用人は、貴族からすれば雇う価値のない人間だ。


 貴族が求めているのは仕事の出来る人間。

 もし他に仕事が出来る人間が現れれば、すぐに解雇されるのは先ほど怯えていたあの使用人だ。


 まあ、そんなことに気がつく人なんているはずもなく。


 今はひたすらに、私が完璧な悪女になることを目指せたらそれで良い。むしろこの状況は好都合だ。


 完璧な悪女になって、家から出ることが出来たら


 そうすれば、あのクソ…間違えた。

 あの歪な家族から、仕事を履き違えた使用人たちから、離れることが出来る。


 そんな思いを胸に、パーティーで言葉をふるった。


◇◇◇


 馬車からの帰り、いつもと違う、門の前に【誰かがいる】ことに気がついた。


「あら、お父様!お出迎えですか?お気遣い痛み入りますわ」

「…違う。そんなんじゃない。……お前はまた、パーティーで何かしたのか…?」


 義母が亡くなったあの日から、私が誰かに迎えられることはなくなった。

 それどころか、私を離れに追いやった。


 だからなのかは定かではないが、あの7年前から、義父はいつも私と話す時、歯切れが悪くなる。


「私が何をしようとも、私の勝手ですわ。お義父様は口出ししないでくださいまし」


 もう言っちゃえば良いのにと何度思ったことか。

『私はお前のことが心底憎い』

 こう言えば良いのに。

 義父と義兄2人だけは、何も言わなかった。


 義弟は、言った。

『母上が亡くなったのは姉様のせいだ!』と。

 使用人たちもこそこそと言った。

『亡くなるべきは夫人ではなかったわ』と。


 義父も義兄も、そう言えば良かったのに。

そうすれば、もう少しちゃんと、自分の人生を捨てきれたのに。


「そういう訳にはいかない。お前は公爵家の娘なんだぞ。公爵家の体裁がある。義母に、申し訳ないとは思わないのか」

「……」


"は?"


"それを貴方が言うの?"


「お義父様こそ、娘を離れに追いやって、申し訳ないとは思わないのですか。どうして私が…、いえ、なんでもありません。とにかく、私はこの行動を辞めるつもりはありませんから」


 強い意思を持って言い放ち、面と向かっていた父の横を通り過ぎる。

 すると一言、義父から言葉が漏れた。


「…申し訳ないとは…思っている…。」


 なんとも歯切れの悪い父の言葉にまた腹が立ち、私は何も言わずに早歩きで離れへと戻った。

 


















ということで、新作品連載開始です!

最後まで読んで頂きありがとうございました!

前作品はたくさんの方が読んでくださって嬉しかったです!今作品も一気に読みたくなるような作品に出来るように頑張りますので温かい気持ちで見守ってくださると嬉しいです!


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