金魚の世界は僕にはまだ早いようです
「あれ?金太郎がいない」
朝起きて金魚の金太郎にゴハンをあげようとしたら、金魚鉢からいなくなっていた。金太郎は、5年前お祭りの金魚すくいですくった金魚だ。
「どこいったんだろ?金太郎~?」
俺は金魚鉢の傍を細かく探すが、やはり金太郎はいない。
「もしかして猫に食われた?でも、どうやって?」
俺は猫は飼ってないし、それにここはマンションの6階で、野良猫が入ってきたとは考えられない。
「金太郎~お~…い?」
俺は金太郎の名前を呼びながら、何とはなしに入り口のドアを開けた。すると。
「は…?え?金魚…?」
いつも見る街並みや景色。だけど、違う。人や車がいない。そのかわり…イロトリドリの巨大な金魚がたくさん泳いでいた。
俺は目を見開かせながら、ドアの外に出た。すると、俺より少し小さい出目金が、俺の目の前に現れた。
「うわっ!」
俺は驚いた声を上げながら、身構えて後ずさりした。が、その出目金は。
「コンニチハ」
と会釈して、俺の横を泳ぎすぎていった。
「え…え?」
俺は身構えたまま、後ろを見た。泳ぎすぎていった出目金は俺の部屋の隣の部屋に入っていった。
「あの出目金…もしかして隣の田代さんか?確かにあの人、出目金みたいに目のでかいおばちゃんだったけども…って、なわけないか。それにあの人、去年病気で亡くなってるし」
俺はどぎまぎさせながら、エレベーターを降りてマンションから出た。
「おお…すげぇ」
街を歩く─いや、街を泳ぐイロトリドリの金魚たち。歩道から泳ぐ金魚。車道からまるで車が走るように泳いでいく金魚。天高く空で泳ぐ金魚。いつもの街に、金魚が溢れていた。
その不思議な光景を、俺は息を呑みながら見ていた。すると突然。
「危ないっっ!!」
右横から声がして。その方を見ると、巨大な黒い金魚が俺に向かってきていた。
「うわーーー!!」
その黒い金魚にまたぶつかる─と思いながら目を瞑った、時。
「…あれ?」
体が浮いた感覚と、誰かに抱かれてる感覚がして。目を開くとそこには。
「…金太郎?」
俺より大きい金魚の金太郎が、俺のことをお姫様抱っこしていた。そして。
「アナタハマダココニクルベキジャナイ。ソシテ、ボクヲタイセツニソダテテクレタオレイ」
「え…ええ!?」
そう言って金太郎は、俺を空にぶん投げた。
「─は!」
目が覚めると、俺は病院のベッドにいた。事故に遭い俺は生死を彷徨っていたそうだ。
目覚めたと同時に、金太郎が一昨日亡くなったことを思い出した。