メリーさんの背中に回ると
プルルル。プルルル
スマホの電話がなっている。
僕は机の上においていたスマホを手に取り、電話に出た。
「はい、上野です。」
「私、メリーさん。今、大白町にいるの。」
「え?」
僕は驚きのあまり、声が出なくなった。
大白町は僕の家がある町だ。
そして、メリーさんという子も知らない。
「フフフ」
電話の向こうから少女の笑い声が聞こえてきた。
「今からそっちに行くね♪」
そんな恐ろしいことを告げてから電話が切れた。
僕は震える手でスマホを机の上に置くと、自室の窓側に向かって後退りをする。
僕の知り合いにメリーさんはいない。
ただ、メリーさんという妖怪?というか都市伝説のことは知っている。
何度も電話がかかってきて、そのたびに、メリーさんという少女が話してくる。
「今、〇〇にいるの」と
そして〇〇の場所は段々と自分の近くになっていって、最後には、「あなたの後ろにいる」と言われる。
...そして後ろを振り返ると俺は死ぬ。
いたずらかもしれないが、もし本当だったらと思うと、背筋が冷える。
そんなことを考えていると、またスマホの着信音が鳴った。
またも電話に出る気にはなれないが、着信音が鳴り続けているため、ゆっくりと手を伸ばし、スマホの画面を見た。
着信先を見ると「メリーさん」と表示されていた。
僕は迷わず、通話ボタンを押した。
「私、メリーさん。今、あなたのアパートの前にいるの。」
電話はすぐに切れて、そしてまたすぐに着信が来る。
「私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの。」
「トントン」
電話が切れると同時に、玄関をノックする音が聞こえる。
あ、もう?
どうする、部屋の電気消すか?窓から逃げるか?
「トントン」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
と思った瞬間、一つ無謀な考えが思い浮かぶ。
と同時に、電話が鳴り出した。
僕は、電話に出る。
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの。」
その声は僕の真後ろから聞こえてきた。
あ……終わったのか?
僕は電話に出ると同時に、スマホをポケットにしまって後ろにでんぐり返しする。
体を起こすと、金髪のロリが僕の目前に立っていた。
メリーさんはこちらに振り返ろうとする。
だから僕は、メリーさんの背中に思いっきり抱きついた。
体ごと。おんぶされるみたいに。
メリーさんは、後ろを振り返ったが、そこに僕の姿は目視できなかった。
メリーさんは、僕を探して体をキョロキョロさせている。
メリーさんの体が揺れて落ちそうになる。
でも、僕は意地でもメリーさんの背中から離れなかった。
「え?どこ?」
メリーさんは、驚きの声を上げた。
メリーさんは左手のポケットからスマホを取り出して僕に電話をかけた。
同時に僕のスマホから着信音がなる。
...迷ったが、僕はあえて電話に出ることにした。
「私、メリーさん。あなたは、、どこに消えたの?」
「メリーさん、僕は今、あなたの後ろにいるよ。」
メリーさんは驚きの声を上げた。
そして彼女は後ろを振り向く、が背中にいる僕は当然見つからない。
「いないよ?」
僕はそんなメリーさんの体を思いっきり抱きしめる。
でもメリーさんは僕に気が付かなかった。
メリーさんは電話を切ってあるき始めた。
なるほど。
どうやら、真後ろにいればメリーさんには見つからないらしい。
今の状況を理解し、安全を確保した僕は一気に緊張が揺らいだ。
改めて今の状況を考えよう。
メリーさんの髪の毛からはいい匂いがする。
そして、メリーさんの体は柔らかい。腕もスベスベしていて気持ち良い。
体がちょっと小さいので乗っかるにはすこし安定しないけど、全体的にめちゃめちゃ居心地が良い。
……でも、メリーさんは僕の存在に気が付かない。
僕をおんぶしていることに気が付いていないから、振り向いても僕には気付かないのだろう。
メリーさんは部屋の中をぐるぐる回りながら、僕を探している。
時折スマホを開いて、位置情報アプリみたいなものを見ている。
最終的に、メリーさんは僕をおんぶしたまま家中のいたる場所を探索した。
とうとう彼女は疲れ果ててしまったのか、床に座り込んだ。
「はあ。」
彼女はため息をつくと、スマホを取り出し電話をかけた。
「私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの。」
なんというか、ずっと見ていると可哀想にすら見えてくる。
僕はずっと君の背中にいるのだから、首を後ろに向ければ見つけられるのに、、なぜかこの子は気が付かない。
そこで僕は、彼女の耳元で囁いてみることにした。
「メリーさん、僕は今、君の後ろにいるよ。」
メリーさんは後ろを振り向く。でもそこには誰もいない。
「メリーさん、首だけ後ろに向けてみてよ。」
「..はあ?」
メリーさんは訝しげな声を上げたが、一応従ってくれた。
そして、僕はここで初めてメリーさんの顔を拝むことになる。
青い瞳と目が合う。
そして、メリーさんは驚いたような顔をした。
「……は?え?」
どうやら驚いているようだ。
そして、彼女は顔を赤くした。
いや、これは恥ずかしいというよりかは怒ってるのかもしれない。きっと僕を見つけたからだろう。
メリーさんはこちらを向いて叫んだ。
「え、ええ!」
「..私の背中から降りてくれない?」
メリーさんは僕に要求した。
「降りたら僕、君に殺されるでしょ。」
「うん。」
メリーさんは即答する。
「じゃあ降りないよ。僕が君の背中にいる限り僕を殺せないんでしょう?」
「……」
メリーさんは沈黙した。
「メリーさんはなぜ僕を殺しに来たの?」
とりあえず、一番気になったことを聞いてみる。
メリーさんは沈黙している。
「メリーさんは、僕が嫌い?」
彼女は沈黙を続けた。
「..じゃあこのまま僕を殺せなかったらどうなるの?」
「...」
「じゃあさ、僕と一緒に住まない?僕は君のことが好きだし、」
メリーさんはまた黙り込んだ。というか、反応していない。
...残念だけど、僕からの会話は拒絶されるらしい。
メリーさんは、ふと立ち上がると、そこからずっと動かない。
まるで人形のように固まっている。
あるいは、ゲーム内でバグ技を使ったら、NPCが動かなくなってしまったような感じか。
.....
.....
「メリーさん、大丈夫?」
僕がその沈黙に耐えられず声をかけた瞬間、彼女は口を開いた。
「私、メリーさん。今からあなたの家に住むことにするわ。」
「……え?」
僕は素っ頓狂な声を出した。
いや、……ん?あれ?さっきまでの拒絶はなんだったのだろう。もうすっかり僕を殺す気なんてなくなっているように見える。
でも、そんな考えは次のメリーさんの言葉で打ち消された。
「絶対にあなたを殺してやるから。」
メリーさんはそう僕に吐き捨てた後、また僕を背負ったまま部屋中を回り始めた。
そんなメリーさんの言葉に僕は驚きつつ、嬉しかった。
これでいつでもメリーさんと一緒に暮らせるのだ!……まあ、ずっとおんぶされてるけど。
とりあえず今はこの至福の時を満喫しようと思う。
メリーさんが布団の近くに来た時に、僕はメリーさんの足をかけて彼女を布団にダイブさせた。
そしてそのままメリーさんと一緒に僕は布団に包まる。
メリーさんは顔を赤くしている。そして、布団に包まれながら僕を何度も蹴ってくる。
でも僕はこの至福の時間を手放したくなかったので、蹴られても蹴られても蹴られても蹴られ続けた。
でももう嫌だー。痛いー。
「はあ……」
とメリーさんが諦めたのか、一息ついた時、僕は一言彼女に問いかける。
「その、、寝るときくらいは休戦しない..?」
「……」
メリーさんは相変わらず答えてくれない。
「いや、僕寝てたら、メリーさんが「今あなたの後ろにいるの~」って言っても気づけないよ?」
僕はメリーさんの弱点と思われるところを思いっきり攻めてみた。
「……」
メリーさんは沈黙している。そして、僕の体をつねってきた。
痛い痛い痛い痛い。でも僕も負けじとメリーさんの背中をつねり返す。
「……はあ」
メリーさんは大きなため息をついた後、僕に答えた。
「休戦するわ」
よっしゃー!交渉成功だ!これで僕は心置き無く至福の睡眠タイムを味わえる!
僕はメリーさんの背中から降りて、彼女と一緒に布団に包まった。
そして、彼女の背中を触りながら眠りについた。
...メリーさんが人を殺すには条件がある。
1. ターゲットの真後ろにいること
2. 「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」と言うこと。
……このルールがなかったら、僕はとっくに死んでいただろう。
これが僕が今生きていられる理由だ。
というか、なんでメリーさんは僕を襲いに来たんだ?人形捨てたわけでもないし...
ま、いっか。
...
翌朝、僕の身に何があったのかは、語るに忍びない。というか、語れない。
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