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三題噺もどき2

中毒者の朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくにじゅうご。

 


 視界一面に暗闇が広がる。

 暗く、黒く。どこまでも。

 闇の支配する世界に、放り出されたような―



「……」

 あ、ちがうこれ。

 瞼をとじているだけか。

 どうりで、真っ暗というよりは若干の光が感じられる。

 瞼にどれほどの遮光性があるのかは知らないが、絵で見るような真黒にはならなさそうだ。

 それとも、これは起きたからそう感じるだけなんだろうか。

「……」

 その暗闇から逃れるために、閉じていたと気づいた瞼を開ける。

 視界がまだぼんやりとしている。

 部屋の中は少しだけ明るくなっているようだ。

「……」

 さて、今が一体何時なのか……。

 今日は特に用事もないからと思って、寝る気満々だったので。

 アラームが鳴ると面倒だし、何かの通知音が鳴っても嫌なので……携帯電話は電源を根元から切っている。

 一応、充電器には刺したはずだが、あの状態でも充電できるんだっけ?

「……」

 んん。ようやく。

 視界が、ほんの少しはっきりしてきた。

 ついでに思考もはっきりと。

 というかまぁ、思考のほうはだいぶ前から動いてはいる。

 今日ホントに用事なかったよなとか、昨日の事とか、今から内にしようかとか。

 余計なことを起きて早々に考えていた。ちゃんとバックミュージックつきで。

「……」

 これ、たまに気になるんだが。

 起きてすぐに、脳内BGMがかかりはじめるのって、あるあるなのだろうか。

 こういう話をすることもないし、聞くまでの事でもないから、分からないんだが……。

 アラームというより、こっちの脳内BGMで起きている節すらある気がする。

 同じような経験がある人って、いるんだろうか……。

「……」

 んん。

 こうやって、朝っぱらから余計なことを考えてしまうから疲れやすいんだろうか……。

 これが年々酷くなっている気がするし。

 特に、働きだしてから悪化したような気がしなくもない。

 まぁ、考えたくなくても考えてしまう事は沢山あるし。

 思いだしたくなくても、勝手に湧き出てくるものはある。

「……ふぁ」

 視界に広がる天井を、ぼうっと眺めながら。

 そんなことを、また考え始めたあたりで、ふいにあくびが漏れた。

 ジワリと涙があふれてきたのか、少し視界が歪む。ちょこっと、橋の方がぐにゃりとなっただけだが。

「……ぅぁ」

 おくびって、なんで、たいして眠くもないのに出てしまうんだろうな。

 確かにはっきり起きていたはずだし、そこまで眠気に襲われているわけでもない。

 でもなんだか、あくびをしたせいで、眠くなり始めている気がする。

 何かで、脳に酸素を送るためだとかなんとか聞いたことがあるんだが……それで眠くなったりするんだろうか。

「……」

 あー……。

 違う違う。またこれだよ。

 いらんことを思考すると、止まらなくなる癖を何とかしてくれ自分……。

 おかげで若干の眠気からは解放されたが、疲労がすごい。

 休みの朝からこんなに疲れたくないっての……。

「……」

 これ実は、まだ覚醒しきっていないのか……?

 そのせいで普段は効くはずのストッパーが使い物にならなくて、ダラダラといらんことを考えているんだろうか…。

 しかも、しょうもないことを。

「……はぁ」

 また、重ねていらんことを考え出したので。

 無理やり溜息と共に吐き出す。

 これが案外有効に効くのだ。朝は特に。

 大き目の声でやるとなおよし。

「……」

 さて、と。

 ようやく落ち着いてきたので、携帯電話で時間を確認することにしよう。

 この無駄な時間が、果たしてどれくらいだったかは知らないが。

 ま、特に用もないので、そこまでとやかくは言うまい。

「……」

「……」

「……?」

 身体を動かすのが面倒で、手だけで探る。

 が、昨夜置いたはずの場所に何もない。

 手触りというか、あのツルリとした感触が返ってこない。

 そこにあるはずのものがない。

「……??」

 ぺたぺた。

 ごそごそ。

 と、探る。

 探す。

「……???」

 くるりと、姿勢をかえて、置いていたはずのあたりを、ちゃんと視界に入れながら探す。

 視力は悪いが、あの黒塊を見逃すわけはあるまいよ。

「……????」

 探しながら、内心ものすごく焦りだしていた。

 酷く、不安に襲われていることに気づいた。

 心臓が、バクバクとうるさくなっている。

 なぜか冷や汗のようなものが伝っていく気がした。

 あれがないといけないような気がしてならない。

 あれがないと……あれがないと……

「――ぁ」

 焦りで忘れていた眼鏡をかけ、ベッドの下を探ろうと身を乗り出した時。

 自然と視界に入ってきた場所にあった。

 なんのことはない。

 少し離れたところにある、机の上に置いてあったのだ。

「……」

 それが視界に入った途端、心から安心した。

 つい数秒前まで考えていたあれこれの事なんてきれいさっぱり忘れてしまった。

「……」

 そんな調子の自分に遅ればせながら気づいて。

 まるで、中毒者みたいだと、思った。






 お題:携帯電話・中毒・涙

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