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第8話「デート・ア・デッドⅡ」

『聞こえてるかな、彼氏くん?』

『聞こえてますけど、どうするんですか?』

『どうするも何も、測るしかないでしょ!隣の台にメジャー置いてあるから、私の言う通りに測ってみて』

『ちょっ!何を勝手なことを︙︙』

 気を利かせてこんな状況を作ってくれた店員さんには申し訳ないが、俺達はカップルでもないし兄弟でもない、誘拐犯と誘拐された少女という関係でしかないのだ。そんな赤の他人である俺に、会って数日しか経過していない少女の体のサイズを測れというのか。

「千春くん、そこに置いてあるメジャーで測ってくれないかしら?」

 美芽留は俺の躊躇いを軽く押しのけ、予想外な発言をした。

「い、良いのか?男に採寸されるのは嫌じゃないのか?」

「そうね。確かに抵抗はあるのだけれど、別に千春くんだし構わないわ」

 この時の俺は、今まで味わったことの無い胸の高鳴りを感じた。この照れを隠した言い回しは、俺に対して好意を抱いているに違いない。そうなってくると、これまでの冷たい態度も辻褄が合う。可愛いヤツめ、照れ隠しの為に暴言を吐いていたという訳か。

「それって︙︙」

「ああ、勘違いしないで欲しいのだけれど、千春くんに好意を抱いている訳では無くて、千春くんは私に手を出せるほど勇気を持ち合わせている人間では無いと分かっているからよ」

 勘違いをした挙句、酷い言われようをした俺は、もう一生女性と話すことは出来ない程の深い傷を負った。

「それに、私は待つことがこの上なく嫌いなの。どうせ最後にはくっつくことが見え見えなのに、友達以上恋人未満な展開をだらだらと続けて話数を稼ぐようなラブコメは嫌いだし、どうせ最後はラスボスを倒して平和が訪れることが分かりきっていのに、雑魚との戦闘がいつまで経っても終わらないようなバトル漫画も嫌いだわ」

「待つことがどれくらい嫌いかを表す為に、少女漫画と少年漫画を全否定するな」

「で、どうするの」

 美芽留は俺に選択する余地を与えているつもりなんだろうけど、さっきの畳み掛けを聞いた後じゃ、俺に選ばせる気なんて無いんじゃないかと思えてくる。

「分かったよ︙︙やるよ」

 そう宣言した俺は、台に置いてあるメジャーを手に取り、美芽留の手前へと近づいていく。

「なぁ、一つ聞きたいことがあるんだが、美芽留が今着ている下着︙︙」

「仕方ないでしょ、中学生の頃に着用していた物しか持っていないのだから」

 ああ、だからか。胸が窮屈そうであり、白い生地に熊のプリントが横に細長く伸びているのは。普通女性が下着姿になって現れた場合、ドギマギするのがお約束なのだろうが、電源が切れた機械製品のようにそんな気持ちは一瞬にして消え去った。そんなことを思いながらメジャーを手に取ると、見計らっていたように店員さんが指示を出してきた。

『じゃあ彼氏くんには、トップバストとアンダーバストを測ってもらえるかな?』

『それってどうやって測るんですか?』

『じゃ、私が説明するからその通りにやってみて!』

 そう促された俺は、店員さんに指示された通りに胸の膨らみの一番高い部分、胸の膨らみのすぐ下の部分を測った。

『じゃ、今出たトップバストからアンダーバストを引いて、引かれて出た差が彼女さんのカップサイズになるからね』

『えーっと、Eです︙︙』

『え?』

『え?』

『彼女さん︙︙大きすぎない?』

『︙︙ですね』

 そんな静かなやり取りが続いた後、美芽留が俺に向かって話し掛けてきた。

「千春くん、ありがとう。私が着替え終わったら、一緒に来て欲しい所があるのだけれど」

「ああ、全然構わないが︙︙」

 俺のハッキリとしない返事を聞いた美芽留は、レースを閉めてから着替え始めた。数分経った後、着替えを終えた美芽留が着いてきてと俺に話し掛け、美芽留のサイズが表記された商品の前へと連れていかれた。

「突然なのだけれど、女性の下着ってどういう物が良いのかしら?」

「まぁ確かに、熊のプリントの奴しか持ってないもんな」

「吊るすわよ」

 美芽留の眼差しは、本気(マジ)だった。おふざけが過ぎたのかもしれない。

「そういうのって、男子である俺に聞くものなのか?」

 これまた女性と一度も付き合ったことの無い俺からしてみれば、勘違いが生まれてもおかしくは無い台詞だが、先程の恥ずかしい失敗もあったので慎重に言葉を選んだ。

「しょうがないじゃない、私と同じ女子高生が着ている『普通』の下着というものが分からないのだから」

「俺だって女性経験とかないし、分からないよ。それに、俺みたいな男じゃなくって友達とかにき────」

「友達なんて呼べる存在なんかいないわよ」

「︙︙そうか、悪かったな」

 何か聞いてはいけないような事を聞いてしまったんではないだろうか。家出の件や父親の件もあるし、美芽留には俺の浅はかな考えでは想像がつかないような、何かしらの深い事情があるのだろう。

「別に謝る必要なんて無いわ。私は自分が望んでそういう関係を築こうと考えていないだけよ」

 これは多分、強がりだ。自分と仲良くなったせいで、その子達に何らかの悪い影響を与えてしまうのを避けるため、自分からクラスメイトを遠ざけていたのだろう。

「ほら、よく言うでしょう。腐った蜜柑があると箱の中で菌が繁殖し、周りの蜜柑も腐らせてしまうって。それと同じで、クラスの腐った蜜柑達と関係を築けば、私の栄光あるこの先の長い人生も腐ってしまう恐れがあるから、友達なんていう己の私利私欲の為に相手を利用しようとする卑劣な関係を築こうとはしなかっただけよ」

「︙︙︙︙」

 美芽留の気持ちを聞いて、逆に美芽留には人を近づけてはいけないという事が分かった。そんな美芽留の人間に対する考え方を聞いて、恐怖で足がすくんでいた俺に気がつくことも無く、先程の質問へと戻された。

「で、どれがいいと思う?」

 これが良いと思う!なんて決められるはずもくなく、俺は無線機で繋がっている店員さん達に救いを求めようとした時、突如として無線機の向こう側から警告音が鳴り響いた。

『彼女さんの精神状態に変化があります!』

『解析用AIが反応、選択肢表示されます!』

『出たわね、各自選択!』

『ちょ、どんなのが良いのか早く教えてくださいよ!』

 俺の焦りなど露知らず、店員さん達は無線機を使って謎のやり取りをしていた。俺は焦っていることを隠しながら、臨機応変に悩んでいるフリをしながら指示を待っていた。

『彼氏くん、聞こえてる?私が今言うことと同じことを彼女さんに言ってね』

『︙︙はい、分かりました』

 店員さん達の中で話し合われた結果、ようやく答えが出たようだ。これでひとまずは乗り越えられそうだ。

『君には黒のガーターベルトがお似合いだよ』

『いや、さっきからやり取りデート・ア・ライブか!てか、ガーターベルトとか言える訳ないでしょ!』

「さっきからブツブツと変よ、千春くん。それに、私にガーターベルトなんて勧めようとしていたなんて、さらに失望したわ」

「さらに!?」

 何で俺の評価が現在進行形で悪くなっていってるんだ。評価が悪いのは、間違いなく店員さん達のせいだ。多分。

『ごめん、ふざけすぎちゃったね。次は人気の商品教えるからさ、許してよ』

『無理です』

 その後、店員さんに謝られながら、お勧めされた商品をあたかも自分の意見のように、美芽留に次々と話していった。

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