第7話「デート・ア・デッドⅠ」
駐車してある車に乗り込んだ俺達は、大型ショッピングモールまで車を走らせる。相変わらず頬をつき、外の景色を眺める美芽留だったが、信号で止まった時に確認すると、フロントドアのガラス越しに映る美芽留の顔は、どこか少年のように目を輝かせているように見えた。素直じゃないな。そんなことを思いながらも、目的地の大型ショッピングモールへと到着した。
「沢山人がいるのね」
駐車場に車を止め、車から降りた美芽留が車の台数を見てそう呟いた。それから沢山の車を目にしながら少し歩き、大型ショッピングモールの中へと入る。中には、子供連れの家族やカップルなどで溢れ返っていた。
「まだ、誘拐されたことについて報道されてないし、今は人目を気にせず買い物を楽しもうか!」
「ええそうね、早速服屋に向かいましょうか」
威勢よく美芽留を連れ出して来たのは良いものの、こっちに引っ越してきてから一度も大型ショッピングモールに入ったことは無かったので、どこに行けば良いのか分からなかった。
「︙︙分からん」
そんなことを思っていた折、丁度目の前に大型ショッピングモールのフロアマップがあったのだが、あちらこちらに服屋があり、結局どこに行けばいいのか分からずじまいだった。
「GUにでも行くか」
俺がいつも行っていた服屋にも、女性ものの服が売っていたはずなので、取り敢えずそこに行くことにした。マップによると、二階のフロアにあるとの事だったので、エスカレーターを使って二階へ行き、迷いながらもGUに到着することが出来た。店内に入ると、同年代ぐらいのカップルや友達同士でいる人達が、服を見ながら談笑していた。
「美芽留、どういう服を着たいとか見当はついているのか?」
女性ものの服があるコーナーに行き、眉をひそめながら服を睨んでいる美芽留にそう問いかけた。
「ついている訳ないでしょ。ついていたら、手に取ってもう見ているわ」
「まあ、確かにそうだけど︙︙」
だとしてもだ。だとしても、なぜ俺が怒られなければいけないのだ。そんなことを思っていると、最近のトレンドであろうファッションを着こなした若い男性の店員が満面の笑みで近づいてきていた。
「お客様〜、何かお困りでしょうか?」
俺と美芽留が服についてごたついている時、そのやり取りが目に入った店員が心配し、親切なことに声をかけてきたのだろう。
「あの、彼女に似合うようにコーディネートして欲しいんですけど︙︙」
「はい、全然構いませんよ!」
そう明るく受け入れた店員は、少々お待ちくださいと言い残し、軽やかな足取りで消えていった。
「お待たせ致しました〜」
店員がいなくなってから数分後に、手にコーディネートされているであろう服を持って現れた。
「彼女さんに合うような服を何着か見繕ってきたんですが、試着してみますか?」
そう促された俺たちは快く了承し、店員に案内されながら試着室前へと足を運んだ。
「また何かお困りの事が御座いましたら、またお呼びください!」
そう言って、ディズニーランドのキャストのような立ち居振る舞いで消えていった。
「じゃあ、早速試着してみようか」
「ええ、そうね」
そう相槌を打った美芽留は、恐る恐る試着室に入っていった。それから数分が経過すると、試着室のレースが開く音がした。
「どうかしら?」
少しぎこちない様子を見せながらも、店員さんに見繕って貰った服をバッチリと着こなした美芽留が出てきた。最初の一着目は黒のコンパクトTシャツ、ベージュのパンツ、金色のイヤリング、黒のヒールサンダルでコーディネートされた、大人の魅力を感じる綺麗めのスタイルだった。
「可愛いよ、美芽留」
「殺すわよ」
「おかしいだろ!」
初めてお洒落が出来た嬉しさからか、何故だか褒めると暴言を吐きかけてくる美芽留のファッションショーが始まった。
二着目は先程のイヤリング、白のネックタンクトップ、ベージュのシアーロングシャツ、茶色のストレートパンツ、ベージュのバブーシュでコーディネートされた、透け感がお洒落なファッションだった。
「似合っているよ、美芽留」
「潰すわよ」
「何でだよ!?」
三着目は先程のネックタンクトップ、淡い紫色のシアーオーバーシャツ、黒のフレアパンツ、先程のヒールサンダル、白のサークルイヤリングでコーディネートされた、着ただけで垢抜けて細見えするファッションだった。
「綺麗だよ、美芽留」
「売り飛ばすわよ」
「何だって!?」
こんな感じでファッションショーをした後、合計五種類ものコーディネートされた服を買い占めた。買い物を終え、店を出た俺は開放感と共に空腹感に襲われた。スマホの時間を確認すると、お昼には丁度いい時間であった。
「なぁ、美芽留。そろそろいい時間だし、何処かでご飯でも食べないか?」
「ええ、良いわよ︙︙」
美芽留から了解を得た俺は、美味しそうな飲食店を探す為に歩き始めようとした途端、美芽留に呼び止められた。
「千春くん︙︙昼食を摂るのは構わないのだけれど、その︙︙下着を買わせて欲しいの︙︙」
普段見せないような美芽留の照れに驚きつつ、美芽留に連れられながら下着が売っている専門店の中へと入った。華やかな店内には当たり前ではあるけれど、男性の客の様子は見当たらなく、大人びた女性達しかいない空間に肩身の狭い思いをしていた。
「ねぇ、千春くん」
「何だよ!?俺に構わないでく」
「どうしたの、千春くん。発情期の猿みたいに興奮して」
「いや、ごめん︙︙何でもない」
「そう」
あまりの緊張ののせいで、自分が自分でないような、そんなサイケデリックな気分に陥ってしまった。
「何かお困りの事は御座いましたか?」
話し込んでいる俺たちを見た綺麗めの女性店員さんが、親切に対応をしてきた。
「はい、自分のサイズが分からなくて採寸をお願いしたいのですけれど、よろしいでしょうか?」
「はい!それではこちらの方で採寸をしますので、こちらの方に来て下さい」
そう誘導された美芽留は、着衣室のようで違うような、そんな場所へと店員さんと歩いていった。一人になった俺は、恥ずかしさで胸がいっぱいになる前に店を出ようとすると、さっきとは別の可愛らしい女性店員さんが俺の肩を握り締め、胸元にある無線でやり取りを始めた。
『こちら佐藤、彼氏くんを確保。直ちにそちらへ誘導する、どうぞ』
『こちら鈴木、了解。メジャーを持って待機中、どうぞ』
『了解』
「行くよ、彼氏くん」
「いや、ちょっと!」
謎のやり取りを繰り広げていた店員さんに連行され、俺は訳の分からないまま美芽留が向かっていった方へと連れられた。到着すると、既に下着姿で待っている美芽留とメジャーを持った店員さんの姿があった。
「大変長らくお待たせいたしました〜」
「いえ、全然待っていま︙︙なんで千春くんがいるのかしら?」
それについては俺の方も知りたい。美芽留に睨まれた俺は、店員さんに助けを求めようと視線をやるとニヤニヤとしていたことから、何かを企んでいたことがようやく分かった。
「彼氏くん、これを耳につけて」
そう言われた俺は、店員さんから黒いワイヤレスイヤホンらしきものを渡された。
「なんですかこれ?」
「無線機ね。これで私達とやり取りをするから身に付けてね」
そう言い放った店員さん達は、他の用事があったのでまたお呼びくださいねと言い残して、早足で美芽留と俺を取り残して消えていった。