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告白

 大学二年生の冬、成人式の案内が届いた。

 中学時代の知り合いには、今でも会いたくなかったから、僕は案内を机の引き出しの奥深くにしまった。

 週末、イガちゃんに会った時、

「イチヤは成人式に行く?」

 と聞かれた。

「行かない」

 と僕が答えると、

「俺も行かないから、成人式の日は一緒に過ごそうよ」

 と誘われた。

「何でお前まで成人式に行かないんだよ」

「一生に一度のことだから、イチヤと一緒にいたい」

「……お前、そんな恥ずかしいことよく言えるな」

「別に恥ずかしくない」

 イガちゃんの気持ちは、いつも真っ直ぐに僕へと向かってくる。

 それなのに、どうして僕はいつも自分の気持ちを上手く伝えられないんだろう。

「じゃあ、決まりね」

 イガちゃんの笑顔を見ながら、以前よりもずっとイガちゃんのことを好きになってしまっている自分に気が付いた。


 成人式の日、イガちゃんは急遽面談と補講が入ってしまったので、夕方から食事だけすることになった。

 仕事を終えてからそのまま来たようで、イガちゃんはスーツにコートを羽織った姿で待ち合わせ場所に現れた。

「ごめん、受験前でナーバスになった生徒と保護者がいて……どうしても対応しなくちゃいけなくて」

 とイガちゃんは申し訳なさそうな顔をする。

「大丈夫だよ。その代わり今日はおごれよ」

 と返しながら、イガちゃんが家族とよく行くというイタリアンレストランへと向かった。店に着くと、外まで長い行列ができている。

 その日、街は成人式を終えた若者達であふれていて、酒が飲める手頃な店は、どこも混雑していた。

「いつもは並ぶことなんかないから、予約してないや……」

 イガちゃんが困った表情を浮かべる。それから、エレベーター前の看板を見て言った。

「この建物の一番上にもレストランが入っているから、行ってみようか」

 促されてエレベーターに乗り込む。

 最上階に着いて扉が開くと、黒服を着た初老の男性が目の前に立っている。

「いらっしゃいませ。ご予約は」

「えっと、してません」

 イガちゃんが戸惑いながら答える。

「何名様ですか?」

「二人です」

「では、お席へご案内いたします」

 有無を言わさぬ雰囲気で僕達は店内へと導かれた。

 そこは見るからに高級レストランという感じで、僕らが案内された席からは、夜景がよく見えた。

 店内には、年配の男女や家族連れらしき客が数組いるくらいで、外の喧騒が嘘のように静かで落ち着いた空気が漂っていた。

 僕は、メニューを開いて絶句した。学生が気軽に入れるような価格の店ではない。

「おい、飲み物を一杯飲んだら出よう」

 僕が小声で言うと、

「今さら出られないよ。おごるから安心して」

 イガちゃんはそう言って、勝手にコース料理を注文した。ウェイターから勧められて、グラスのシャンパンまで追加している。

 緊張している僕をよそに、イガちゃんは楽しそうだった。

 外に面した壁は一面のガラス張りになっていて、それを見たイガちゃんは、

「これ、映画だったらヘリコプターが突っ込んでくるパターンだな」

 などとくだらないことを言っている。

「この夜景を見てそんな感想を言うのは、きっとお前くらいだよ」

 僕が呆れたように笑うと、イガちゃんも笑った。

 その後は、お酒も入ったせいか少しリラックスして食事が出来た。

 店を出る時、会計はイガちゃんがカードで支払った。

 僕が半分払おうとすると、

「大丈夫だって。その代わり、ちょっと付き合って」

 イガちゃんは、そう言って歩き出した。

 しばらく行くと人通りが少なくなり、大きな公園が見えて来た。

 イガちゃんは公園のベンチに腰掛けた。

「イチヤも座って」

 と言われて、僕もイガちゃんの隣に腰を下ろす。

「あのさ、俺……やっぱりイチヤの気持ちをちゃんと知りたい。俺のこと、どう思ってるの?」

 イガちゃんの真剣な顔を見ながら、今なら言えそうな気がした。

「そんなの……好きに決まってるだろ」

 やっと、言えた。

 そこからは止まらなかった。

「高校生の頃から、ずっと好きだった。学園祭の時も、駅のベンチで話したことも、家まで来てくれたことも、花火大会の日も、水族館で過ごした時間も、全部が大事な思い出だ」

「卒業式の帰り道、別れ際に好きだって伝えたかった。でも、迷惑だと思って言えなかった。オーストラリアに出発する日、見送りに行けなかったのは、行かないでくれって叫んでしまいそうだったからだ」

「お前からもらった世界地図や絵葉書は僕の宝物だ。一つ残らず大切にして、時々読み返したり眺めたりしてる。帰国した日に好きだって言われて、本当に嬉しかった。付き合いたいって言いたかった。だけど、僕といることでお前の未来を壊すんじゃないかって怖かった。それなのに諦めることも出来なくて、一緒にいたいと思ってしまう。昔も今も五十嵐のことが好きだ。これから先も、ずっとずっと好きでいると思う。」

 一気に言うと、僕は大きく息をついた。

「イチヤ」

 そう言って、イガちゃんは僕の首に手を回して抱き寄せた。

 顔が、近い。

 そう思った次の瞬間、イガちゃんの唇が僕の唇に重なった。

 時間が止まったような気がした。

「俺と付き合って」

 イガちゃんに言われて、僕は頷いた。

 温かい腕に包まれながら、いつまでもこのままでいたいと思った。


 それからは、二人きりの時にハグだけでなくキスもされるようになった。イガちゃんのことを好きになればなるほど、一緒に過ごす時間が幸せであればあるほど、未来への不安は募った。

 僕達の関係のゴールは、一体どこなんだろう。

 もしこの関係が明るみに出たら。

 家族は、生徒は、保護者は、どう思うんだろう。

 受け入れてもらえるとは、到底思えない。

 イガちゃんの仕事への影響もあるだろう。

 僕達だけの問題じゃない。

 もし噂が広がれば、塾長にまで迷惑をかけることになるかもしれない。

 そう思うと、この関係を続けていくことが、怖くてたまらなくなった。


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