表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

仲間

 小林への態度を反省したイガちゃんは、三人で食事に行こうと言い出した。

 小林にそのことを話すと、「カップルと私の三人で食事するなんて、どんな罰ゲームよ。私すっごい邪魔じゃん。絶対に嫌だよ」と言うので、加藤達との飲み会に誘うことにした。

「高校時代の仲間との飲み会?」

「そう。小林の話をしたら、会ってみたいって言うから、一緒にどうかなと思って」

「私の話って……」

「大丈夫。大学の友達ってことしか言ってないよ。僕が人と親しくなるのは珍しいから、興味があるみたい。気が進まなければ無理しなくていいから」

 小林はちょっと迷っていたが、

「イチヤの友達に会ってみたいし、行こうかな」

 と言った。


 夏期講習中は、お盆の数日だけ休みが入るので、その期間に飲み会をすることにした。

 加藤達とは、たまにメールや電話で連絡を取り合っていたが、直接会うのは久しぶりだった。

 最後に五人で集まったのは春休み中だった。その場でイガちゃんが「イチヤと付き合い始めた」と交際宣言をしたため、僕は妙に気恥ずかしくて、それ以来みんなで集まる場には顔を出さなくなっていた。

「イチヤー!!」

 僕とイガちゃんが小林を連れて店に到着すると、加藤が大きく手を振って僕を呼んだ。

「久しぶりだな! イガちゃんと付き合い始めてから、全然顔を見せなくなっちゃったもんな」

 加藤が大声で言うと、

「そういうこと言うと、また顔を出してくれなくなっちゃうでしょ」

 と佐々木が嗜めた。

「イチヤ元気そうだね。その子が小林さん? 私、佐々木ミキ。で、こっちが吉野マユ。それから、大声出しててうるさいのが、私の彼氏の加藤」

 佐々木が相変わらずの面倒見の良さで、みんなを紹介する。

「小林サヤカです。イチヤと同じ大学で、五十嵐先生の塾でバイトしてます」

 小林が緊張気味に自己紹介すると、

「サヤカちゃんね。同い年だから、お互い敬語はやめよ!」

 と佐々木が親しみをこめた笑顔を向ける。隣にいた吉野も、微笑みながら小林に声を掛けた。

「私もサヤカちゃんって呼んでいいかな。あっ、イチヤ君、久しぶりに会えて嬉しいよ」

 吉野は少し痩せて、なんだか綺麗になっていた。

「吉野、ますます綺麗になったね」

 イガちゃんが言うと、吉野はやわらかく微笑んだ。


 僕達は席に着き、ビールで乾杯してから近況を語り合った。イガちゃんは時々集まりに顔を出していたので、話題は専ら僕と小林についてだった。

「それにしても、よくイチヤと仲良くなれたよな。俺と佐々木なんか、最初の頃は話しかけてもほとんど反応してもらえなくて、心が折れそうだったよ」

 加藤がボヤくと、

「確かに、イガちゃんみたいにメンタル強い人じゃないと厳しいよね」

 と佐々木も同意した。

 そこで小林は、きっかけになったゼミの飲み会での出来事を話した。

 聞き終えると、

「イチヤ君、カッコいいよ!」

 と、吉野が言葉に力を込める。

「そうだね。頑張ったじゃん」

 佐々木も優しい顔で言う。

 加藤は何も言わず、僕の肩にそっと手を置いた。

 僕の馬鹿げた行動に、みんなが「間違ってない」と言ってくれたような気がして、僕は泣きそうになった。

「ちょっとトイレ」

 僕は赤くなった目を見られないように、慌てて席を外した。

 トイレから出ると、入口の前に加藤が立っていて、

「タバコ付き合って」

 と声をかけてきた。

「吸わないんだけど。ていうか、席に戻って吸えよ」

「他のみんなが吸わないから、席じゃ吸いにくくて。あと……イチヤに話したいこともあるし」

 そう言われて、二人で店の外に出た。

 加藤はタバコに火をつけると、ゆっくり吸い始めた。

「イガちゃんとは順調?」

「まあ、いろいろあるけど、なんとか続いてる」

「そっか」

「お前らは? 将来結婚すんの?」

 僕が訊ねると、加藤は煙を吐き出しながら、深いため息をついた。

「この前、佐々木の親に会ったんだ。長く付き合っているし、大学を卒業したら結婚しようって約束してるから、一度両親にも挨拶しておこうと思って」

「でも、行かなきゃよかったよ。交際も結婚も反対だって、はっきり言われた。俺のことだけじゃなくて、俺の親のことも気に入らないみたいでさ。親の仕事のことを馬鹿にされた。『ゴミ集めを仕事にしているような家に、娘はやれない』だってさ」

「何だよそれ」

 僕は怒りがこみあげてきた。

「酷いだろ? 佐々木も怒ってくれてさ、親には二度と会わなくていいし、結婚式にも呼ばなくていいって言ってた。でも、そういうわけにはいかないだろ。佐々木にとっては大事な親なんだから」

 加藤はうなだれながら話を続けた。

「佐々木のことは好きだし、もちろん結婚だってしたいと思ってる。だけど、どうすればいいのか分からなくなっちゃってさ」

 加藤が再び深いため息をつく。

「付き合っているだけなら、自分達の気持ちだけを考えていればよかったけど、結婚したらそうはいかないじゃん。それに、俺は、親の仕事を馬鹿にした人間を、お義父さんって呼べる自信がないんだよね」

 加藤の心の痛みが、僕の中にも流れ込んでくるような気がした。力になってやりたいのに、言うべき言葉が見つからない。

「ごめんな、こんな話して」

 加藤は力なく笑う。

「僕こそ、何も言えなくてごめん」

 僕は唇を噛みしめた。

「イチヤはさ、黙って話を聞いてくれるだけでも、俺に力をくれてるよ」

「そんなことないだろ」

「イチヤはあまり喋らないけど、俺たちのことを大事に思ってくれてるのは、ちゃんと伝わってくる。それに、イチヤはどんな時でも味方でいてくれるだろうなって、信じられる」

「僕も、加藤のことは信じられる」

 僕が言うと、加藤は嬉しそうに笑った。


 店の中に戻ると、小林達はすっかり打ち解けていて、女子三人で遊びに行く計画を立てていた。

「二人ともトイレ長すぎなんだけど」

 僕と加藤を見て佐々木が笑う。

 イガちゃんは、

「俺のイチヤと二人きりになるなよ」

 と加藤に文句を言った。

「席外してごめんな。大丈夫だったか?」

 僕が小林に声をかけると、

「ミキちゃんとマユちゃんが仲良くしてくれたから大丈夫。イガちゃんも優しかったし」

 と弾んだ声が返ってきた。

 「五十嵐先生」から「イガちゃん」へと呼び方が変わっていることに気付いて、二人の間にあった壁が取り払われたことを知り、僕は胸を撫で下ろした。


 帰り際にイガちゃんから、飲み会の後で少し二人きりになりたいと言われた。

 小林が「みんなと帰るから大丈夫」と言うので、駅まで送らずに店の前で解散した。

 みんなの姿が見えなくなると、イガちゃんが僕の手を握った。

「人がいるだろ」

 僕はふりほどこうとしたが、

「地元じゃないし、暗いから大丈夫だよ」

 と言って、離してくれない。そのまま手を引かれて歩いた。

「加藤と何話してたの?」

とイガちゃんに聞かれて、

「いろいろ」

と僕は答えた。

「佐々木の親の話?」

「何だ、知ってたのか」

「二人がいない間に、佐々木もこっちでその話をしてたんだよ」

「結婚となると、二人だけの問題じゃないから難しいよな」

「そう? 結婚するのは二人なんだから、周りは関係ないと思うけど」

 イガちゃんの言葉に、僕は少し苛立った。

「関係あるだろ」

 僕が怒ったように言うと、

「じゃあ、イチヤは親に反対されたら俺と別れるの?」

 と聞いてきた。

 反対されたら……というか、そもそも知られたくない。母さんはイガちゃんのことを気に入っているが、それはあくまで息子の友人としての話だ。もし息子の恋人だと知ったら、どんなにショックを受けるだろう。だから、親には絶対に言えない。

「お前はどうなんだよ」

 僕が訊ね返すと、イガちゃんは

「ちゃんと根回しするから大丈夫」

 と自信満々に答えた。

 その時、僕はイガちゃんのこの言葉を軽く聞き流してしまった。

 夏の夜、繋いだ手は汗ばんでいたが、時折吹く風がとても心地良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ