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第三話「贋花嫁」  作者: 和泉和佐
5/18

贋花嫁5

更新できました_(^^;)ゞ

―――――― 5 ――――――


さて、それから一月後。

「………ホゥ」

 誰からともなく感嘆のため息がもれた。

―――雪のように白い衣装に身を包んだその美しさは想像のその遥か上をいっていた。着物も白く打ち掛けも白い。ただ掛下着の紅裏の《赤》だけが鮮烈に人の目を惹き付ける。髪は島田(未婚の女性の一般的な髪型)だが、一風変わっている。たぼ(襟足部分)がセキレイの尾のように長めに張り出して襟足の抜けるような白さを強調し、普通の島田髷よりも高めに結われた髷は優美さと凛とした清廉さを際立たせていた―――


 その無垢で清純な美しさはまるで天女のようであり(男だけど…)、

 その紅い口元と白い肌の匂いたつ妖艶さはまるで男を誘惑する妖婦(あやかし)のようであり(男だけど…)、


「―――なんです? 先程から視線がうるさいですよ、助さん」

 雪之丞はもったいなくもその美しさを綿帽子の中に隠しながら不機嫌に声を掛けた。助三はその声にハッと正気を取り戻し、

「いや、なにって―――おまえは化け物か(誉め言葉)」

 と呟いた。

「失礼ですね。……そんなにおかしいですか?」

 助三の言葉に頬を膨らませながらも途中で不安になったのか、振り返ってこてんと首を傾げた。

 振り返った先にはおことと菊弥。二人が真っ赤になった。

「………」

 おことは耳まで赤くしながら無言でブンブンと頭を振っているし、菊弥は、

(さすがです! 兄上! おていちゃんより可愛いかも!)

 国許の幼馴染みと比較して感激していた。

控えめに言ってある。 


 


 今夜は近江屋彦四郎と伊勢屋の末娘のおちよの祝言(結婚式)が行われる。

 早すぎる展開に贋物屋の面々は驚きを隠せないが、それもこれも伊勢屋の側がすごい勢いで外堀を埋めてきた所為である。

 江戸時代にはすでに仲人制度があったため通常の流れでは仲人が見合いの場をセッティングし、両家ともに異議がないとなって結納(婿の家から結納品が贈られてくる)が行われ、その後によき日を定めて婚礼となる―――のだが、それらすべてが怒濤の勢いで進められた。見合いから婚礼まで一月と経っていないというのだからすごい話である。おちよと駒吉が退()()きならない関係になってしまう前に!という伊勢屋の切羽詰まった心情が手に取るようにわかるというものである。

 だが、親には親の心があるように、子には子の言い分がある。おちよは親たち(とくに祖母)の横暴に大いに憤り猛攻勢の構えではあったが、親たちの方が一枚も二枚も上手で抵抗らしい抵抗も出来ず(してないとは言っていない)にこの日を迎えていた。猛女と評判の伊勢屋の大おかみの本気には勝てなかったようだ。

 そもそも見合いの当日が結納という非常識なまでの手回しの良さで、さすが伊勢屋の大おかみに抜かりはなかった。

 ただ、この辺りの強引さに贋物屋の面々(おもにおこととか菊弥とかおこととかである)がますますおちよの駆け落ちに肩入れするようになってしまったのは想定外だった。

 その雪之丞たちも祝言の日まで何もせずにいたわけではない。不承不承引き受けた依頼だろうともやると決めたからには仕掛けに手は抜かないのが贋物屋(プロ)としての矜持である。

 あれから雪之丞たちは近江屋彦四郎の身辺調査も入念に行ったし、伊勢屋の大おかみ(雪之丞の大ファン)を伝にするという大胆な真似をしてまで直接、近江屋に会って人柄を確かめるということまでしていた。その際に、大おかみがニヤリと笑って『助三に言いつけるわよ』と言ったことだけはどうにも不可解ではあったが……(解せぬ)

 もちろん、駆け落ちの相手である駒吉のことももう一度念入りに探ったし、なんなら駆け落ちの覚悟を聞くためにおちよと二人で呼び出したりもした。その上で雪之丞たちはより一層の不安を覚えたのだった。駒吉という男はとにかく軽いのだ、言葉も態度も何もかもが。ちなみに雪之丞が贋物屋として挨拶に行った時の駒吉の第一声は『チィーっす』で―――膝詰めで小一時間説教してやりたくなるような男であった。orz…   

 なのに女性陣ときたら、多少の頼りなさはあっても頑張ってしっかりしようとしているところが好感が持てると、相変わらずキャーキャー盛り上がっている。彼女たちの言い分としては、そもそもが雪之丞や助三といった男たちと比べるのは間違っているというのである。確かに贋物屋としての斬った張ったのやり取りも、秋山藩士として御家再興を目的に暗躍する覚悟も何もかも、一介の若者と違っていて当たり前なのだ。そう考えると駒吉が頼りない、というわけでは、ない、かもしれなくも、ない、の…だが。

 ともあれ、どれ程雪之丞たちが酷評しようとも、当のおちよが駒吉が良いと言うのだから仕方がないだろう。まあ―――駆け落ちをさせた後も二人のことはよくよく見張って、駒吉を無理にでも正業に就かせてしまえばよいかと雪之丞は割りきることにした。

 ともあれ、今夜がおちよと近江屋彦四郎の祝言の日であった。

 この時代の結婚の習慣というのは今とは違いほとんど宗教色はない。強いて言うならば、現代で言うところの人前式に近いものがある。『式三献』と呼ばれる儀式(いわゆる三三九度)は人前ではなく夫婦となる二人だけで行われ、お色直しの後で親戚縁者へのお披露目となる。三献の儀をもって『祝言』とするのだが、やはりお披露目の宴がない祝言は祝言ではないと人の(そし)りを受ける元となるので、なるべくは避けるべきとされている。ちなみに『仮祝言』というのは三三九度もなしお披露目もなしのお床入り(初夜)のみを行うことである。これは戦時中の出征前夜など危急の場合にのみ行われるもので、滅多にあるものではない。


 さて、婚礼衣装に身を包んだ雪之丞は真っ白の綿帽子を目深に被り、しずしずと近江屋彦四郎の手を取った。

「………」

 嫁入りの駕籠が近江屋へ入ったところでおちよと入れ替わった雪之丞だが、彼に気づく者は誰もいない。その手を握る近江屋とておちよと会ったのは本日が二度目(見合いの日以来)である。

 そもそも婚礼というのは夜に執り行うものであるため、嫁入りの駕籠が近江屋に到着したのも宵闇が迫る時刻であり、雪之丞としては大いに助けられている。

「さ、こちらへ」

 近江屋は花嫁(雪之丞)を部屋へと案内した。見た目がいくら美しかろうとも雪之丞は男で、その手は堅く剣だこのあるような手で、この日のために必死に香油を塗りまくって整えたとはいえしっかりと握られてはあまりよろしくない。雪之丞は手を袖の中に引っ込め、近江屋へは指先だけをそっと預けた。その際に、ポッと頬を赤めることも忘れない―――プロである。

 いくら三献の儀(三三九度のこと)が夫婦二人だけの儀式とはいえ、酒を注ぐ女中や花嫁の着物を直す者など複数人いてこれを見ている。そんな女中たちにも『なんて奥ゆかしい娘さんなんだろう』とおおむね好意的に受け入れられたようで何よりである。

 この度の婚姻についてはあまりにも強引に進めたことでおちよ側だけでなく近江屋側にもなにがしかのわだかまりを残した。特にごり押しをされている近江屋の家の者たちの中には多少不満な部分もあったようだが、それが消えてなくなった瞬間であった。この点で雪之丞はよい仕事をしたと思われる。

実のところ近江屋彦四郎は再婚(これもおちよが近江屋を嫌がる理由の一つなのだが)ではあったが、男やもめというカテゴリーに入れてはダメだろうというぐらいにはイケメンだった。伊勢屋の大おかみがべた褒めなのも当然である。おちよにしてみれば《おじさん》なのかもしれないが、おじさんはおじさんでも《イケオジ》なのである。年齢は二十八というから、現代の感覚からいうとそもそもが《おじさん》のカテゴリーに入れることさえ出来ない。仕事の出来るイケメンで面倒見がよく、奉公人(女中たちだけでなく手代や丁稚(でっち)ら含め)にも好かれているという人格者だ。

 それだけに三献の儀で給仕についた女中たちの目は厳しかった。だが、雪之丞の活躍(?)でそれも少しは和らいで―――という頃合い、

(さて……)

 花嫁は丹田(たんでん)に力を込め直した。美しい花嫁(雪之丞)は花婿に手を引かれてしずしずと居並ぶ親類縁者に向けて綿帽子に隠された(おもて)を下げた。


~~~♪ たかさごやぁぁぁ~

     このうらふねにィほぉあげェてェ

     つきもろともにいでしィおのォ

     なみのあわじのしまかげやぁ

     とおぉ~くんんなるおの~おきすぎてぇぇぇ

     は~やすみのーえにーつきにけーりー

     はやすみのえーーにつきにけーーーーりィィィー       ~~~♪




( ゜∀゜)人(゜∀゜ )オヒサー

亀更新、どころかミジンコ更新です。

ミジンコはぎりぎり肉眼で見えます。見えます、見えますよね? ね?

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