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第三話「贋花嫁」  作者: 和泉和佐
4/18

贋花嫁4

更新できました_(^^;)ゞ

―――――― 4 ―――――― 


「座頭、もう一度おちよさんに家族と話し合うように説得するわけには参りませぬか?」

 と言ったのは雪之丞。その横には文治の姿がある。

 贋花嫁の出番は婚礼の日と決まっているが、事前に調べることはいくらでもある。そんな時に活躍するのがこの文治という男だ。持ち前の突出したコミュニケーション能力でさまざまな情報をとってくる、贋物屋の陰のエースである。

 そして、今回の依頼においてもさまざまな情報を持ち帰ってきてくれた。その結果が上記の雪之丞の台詞となる。

「おちよさんが付き合っている駒吉という男ですが、まっとうな職にも就かないチンピラで―――とてもじゃねえですが、駆け落ちなんてさせてはあのお嬢さん、地獄にまっさかさまってとこでしょうや」

 とは文治の言葉だ。女関係においては百戦錬磨の彼にこう言わしめるのだから、駒吉というチンピラも中々のものである。駒吉と切れさえすれば伊勢屋の方も結婚話を無理に進めたりはしないのではないかというのが、雪之丞たちの意見である。

「―――と申しますか、おちよさんはとにかくもっと親御さんと話し合った方がいい」

 と苦虫を噛み潰したような顔だ。

 それというのも、雪之丞と文治の前に相対しているのが何故か深山一座の座頭であり贋物屋の元締めである惣右衛門ではなく、おことと菊弥の女性陣だったからである。正論をもって具申する雪之丞に対して呆れたような眼差しを二人して投げつけてくる。

「何言ってるのです、兄上。そもそもおちよさん本人が嫌がっているというのに縁談を進めてきているんですよ! その時点で話など通じませんでしょうに。おちよさんも言っていたではございませんか、大おかみが近江屋どのとの縁談に乗り気になってしまって無理強いしてくると」

 菊弥だ。彼女にして見れば自分も結婚を強要された経験があるだけに(しかも四十過ぎの変態(ロリコン)とだ)、他人事とは思えぬのであろう。

 さらにおこともそれに同調する構えを見せ、二人してこの依頼は引き受けるべきだと主張してくる。

 女子二人の連合軍に惣右衛門は部屋の隅で小さくなっているし、助三は菊弥の結婚話が初耳だったらしくに阿修羅のような顔で何気に座る位置が菊弥寄りに移動している。

 伊勢屋の大おかみといえばもちろん雪之丞の贔屓筋で、この場にいる誰もが彼女の人と為りは知っている。『おばあさまが乗り気で~』のくだりでは全員が遠い目になったようにとてつもなく強烈なキャラの婆さんで、確かに若い娘では対抗しようともしきれまい。(ただし、その若い娘も大黒屋巳之衛門と深山一座の惣右衛門を相手取って一歩も引かずに要求を押し通したという剛(強)の(キャ)()である)

 大おかみといいおちよといい一座の女性陣といい、今回の依頼はとにかく振り回されっぱなしの雪之丞なのである。

「ですが、幸いなことにおちよさんにはまだ深山一座(うち)のことは知られていないので、今から断ることも可能です」

 自分の祖母がファンクラブ会長を務めているにもかかわらずおちよには雪之丞たちが深山一座の者だとまだ気づかれていない。女装姿ではない雪之丞に気づかなかったのだ。たしかに大おかみに連れられて何度か深山一座の芝居を見に来ているが、大芝居ではないしょせんは宮地芝居の小芝居に祖母がそこまで入れあげるのを不思議に思うばかりで、大した興味もなかったのだろう。

 大店の娘たちにとって芝居とはあくまでも大芝居のことで―――桟敷(さじき)席(ボックス席)で一日どころか数日を過ごしその間にファッションショーのごとく何度も着物を取り替えたり(そのための部屋を芝居小屋の近くに借りている)、近くの店に仕出しを用意(幕の内弁当の起源)させたりと―――芝居とはそういうものを指すのであって金持ちの社交場の役割があった。西欧における舞踏会やオペラハウスのようなものである。特に元禄の頃(江戸のバブル期)にはその贅沢ぶりはすさまじいものがあったという。

 対して宮地芝居(小芝居)は純粋に芝居だけを見る小屋だ。建物もまさしく小屋で、現代で言うと夏の浜辺の海の家を想像すると分かりやすいだろう。期間限定で芝居が終われば取り壊すものなのである。深山一座では客からの強い要望により桟敷席も用意してあるが、あくまでもゆったりと座れる程度のもの。おちよは祖母に連れられて何度か観劇はしたものの彼女にとってそこは大芝居よりも一段格下の場なので、役者の顔などいちいち覚えていないのかもしれない。

 だからこそ断るのならばまだ間に合うというのが雪之丞の主張だ。今ならばまだいくらでもシラの切りようはある。大おかみ本人ならそうもいかないだろうが、さすがに孫娘のおちよならばどうとでも誤魔化せるだろう。

 だが、そんな雪之丞の金言も、

「親に無理強いされた縁談を振りきって、好いたお人との道行き(駆け落ち)なんて―――素敵だわァ~!」

 きゃーっ!という嬌声にかき消された。見れば、おことと菊弥は手を取り合って大はしゃぎしている。すっかり《道行きモノ》か何かだと勘違いしているようだ。道行き(駆け落ち・心中)といえば芝居の題材にもしばしば取り上げられており、深山一座は仇討ちモノが多いことで有名とはいえ道行きモノもそれなりに上演されており雪之丞も何度か演じたことがある。確かに女性客の評判が上々であることは知っていたが―――雪之丞は『頭痛が痛い』とでも言いたげな顔で頭を抱えた。

 そう、おちよの依頼をきっぱりと断れなかった理由にはこの二人の援護があったからである。おちよの話が進むごとに二人は隣室から雪之丞や惣右衛門に必死で目配せをしてきたのだ。おちよには襖の陰になっていて見えてはいなかっただろうが、惣右衛門と雪之丞にはばっちりと見えていた。惣右衛門が断ろうとする度に怖い顔を作ってブンブンと頭を振ってくる二人。おちよはおちよで、惣右衛門の態度にイケる!と思ったのか、ぐいぐいと攻め、しまいには泣き落としにかかって―――と、そういう経緯でこの依頼を引き受ける羽目になったのである。

 『雪さんも、わかるでしょ?!』とばかりにおことに顔を覗き込まれる、『うっ』と顔を逸らす雪之丞。

(近い近い…)

「…だって、チンピラじゃないですか…あんなの…遊び人ですよ」

 なけなしの抵抗でぽそぽそと言葉を紡いでみるが、

「っんも~、わかってないぁ、そこが! そこが! いいんじゃない」

 ますます菊弥もおこともヒートアップするだけであった。

「それまでは世を拗ねて生きてきた男が一人の少女に出会い変わっていく―――あー、もう! ステキぃ~」

 と、これはおことである。

「嫌な男と()()わせられそうになっているところに、颯爽と現れるって、最高です!」

 と、これは菊弥。彼女の場合はそんな男は現れなかった、その願望を投影している?の?かもしれない―――というか、そんな男が現れる隙もなにも、菊弥はさっさと単身で江戸にやって来てしまったのだが。

 で、まあ、ようするに、

「「かぁっっこイイ~~d(≧∀≦)b」

 二人揃って声を合わせた。きゃいきゃいと駒吉とおちよの出会いのシーンを語る女子二人はひかえめに言って可愛かったが、雪之丞は一人ムスッと不機嫌な顔をしている。

「――――――そんなの――――――困っているおなごがいれば私だって―――そんなの……」

 怒ったように言って顔を背ける。ただし『駒吉なんかのどこが』とか『あんなの普通にチンピラなのに…』とかポソポソ呟いているところを見ると、どうやら拗ねているらしい。

 これまで話に入らずに黙って見ていた文治だったが、背けたその横顔が子供のようで可愛らしいなどと思いながら、堪らずにブフッと吹き出した。その声にパッと朱を散らしたように頬を染める雪之丞。かといって引っ込みもつかずにますますムキになって顔を背けた。

 文治などからしてみたらおことも菊弥も単に『リアル駆け落ち』騒動にワクテカしているだけで、雪之丞が懸念するように駒吉がどうとかはまるで考えてもいないだろうことは明白であった。ロマンチックな(文治や男連中にはとてもそうは思えないのだが)展開に萌えキュン♪という奴である。若い雪之丞にはそこの違いが理解できないらしい。年齢的には大して違わないのだが経験値(おもに女性関係)の差というものであろう。現に菊弥にほの字の助三は余裕の顔でちゃっかりと女性陣営に納まっている。

 文治はといえば、これでも一応は雪之丞の肩を持っている。実際におちよ・駒吉カップルの周辺調査をして回ったのは文治である。その彼に意見を求める人間がいるとしたら文治はこう答えるだろう、『ありゃー、糞だ』と。厄介なことになるのは目に見えているのでかかわり合いになるのはよした方がいいと主張する雪之丞に全面的に賛成だ、と。だがしかし、彼に意見を求める者はいなかったし、彼は沈黙を守った。経験上、キャッキャウフフとはしゃいでいる女性陣に水を差すような意見を聞かせたところで良いことなど一つもないとわかっているからだ。経験値。

 なので、意見を求められないように出来得るかぎり存在感を消して部屋の隅に縮こまることにしている。経験値。

 味方のいなくなった雪之丞はますます口元をへの字に曲げて、眉根も寄せて、完全にふてくされている。

「ね? 雪さん、お願いします」

 そんな雪之丞の顔を覗き込むようにして声をかけたのはおことだった。『ね、この通り』と言わんばかりに手を小さく合わせている。

「ヴァッ!?」

 雪之丞から変な声が出た。

 おことという少女はお嬢様気質の、いや、正真正銘のお姫様(城代家老の娘であり、その黒木家は遡れば藩主・浅川家とも血縁に連なる)なのである。家老の一人娘だというのにけっして偉ぶらず、器が大きく些事は気にせず寛大、それでいて普段は天然でほんわかしている。当たり前だが、市井に紛れて生活していこうとした初めの頃は本当に何もわからずに苦労の連続だった。米は水で炊くと飯になるということすら知らずにいた彼女が、初めて見たわと感動していたというのは笑い話として今でも語られている。お姫様気質が《傲慢》《わがまま》といった方向には1ミリも行かなかったのは元々の性格の良さであったろう。何もかも知らないことばかりであるにも関わらず、果敢に取り組みそこに楽しみすら見つけて毎日楽しそうに笑っている、それがおことという娘だった。

 雪之丞はそんなおことが江戸に現れた時には心底驚いた。

(だって考えても見てください)

 今は深山の惣右衛門と名乗っている黒木惣左衛門は江戸家老ではなく城代家老で。当然、国許に屋敷を構えていた。妻子も無論一緒だ。同じ国許に居たとはいえそんな大家のお姫様と面識を持つ機会などなかった雪之丞たちではあるが、黒木家に娘がいたことだけは知っていた。だから、その娘が単身、江戸に現れた時には本当に驚いた。娘一人で(さすがに供はついていただろうが)江戸まで出てくるなんて、どれ程の覚悟であっただろうか。―――それを言ったら菊弥も同じように江戸に出てきたわけだが、そこは子供の頃から剣術小町として名を馳せていた妹とは完全に別である。

 おこと自身はその旅路について言葉を濁して話そうとはしないが、

(きっと大変だったんだろうな)

 と雪之丞は思っている。

 そんな前向きで行動力抜群で明るく、ちょっとおきゃん(お転婆)なところもある天然娘に雪之丞は常に振り回されっぱなしなのだった。

 そして今、雪之丞はその天然娘に上に乗り上げそうなほどにまで詰め寄られていた。

(ヒィッ、近い近い近い近い)

 絶体絶命(笑)である。

「だって、雪さんもそう思うでしょ?」

「え、あの、その…何がですか」

「もう、話を聞いてなかったの?」

 プリプリと怒り出す様子も可愛い…いや、そうじゃない。

「好いたお人と一緒になるのが一番だって、雪さんだってそう思うでしょってことよ! っそりゃ、そうしなければいけない家も確かにあるかもしれないけどっ! おちよちゃんは違うじゃない。そんな家に生まれたわけでもないのに、何が悲しくてそんなオジさんと夫婦(めおと)にならなけりゃならないのよ、そんなのおかしいわよ!」

 余程おちよに思い入れているらしく夢中になってしゃべってくる。ぐいぐい来る。周りも見えずにぐいぐい来る。後退る雪之丞。周囲はとても生暖かい目で(一部、ニヤついた目で)二人を見ていた。

 後もう少し(何が?)―――というところだった。

「わ、私だけじゃありません。す、助さんだって、ねえ?」

 苦し紛れに助三の名を出す雪之丞。ヘタレである。ニヤついて見ていた助三にはとんだとばっちりだ。第一、助三はその座る位置からして女子二人寄り、というか菊弥寄りである。今更そんなことを言われても、という状態ではある。文治は部屋の隅で気配を消している。

 とはいえ、助三は贋物屋家業の仕掛け人筆頭、なくてはならない男だ。その意見が時として座頭の惣右衛門の意見よりも重視されることもまた事実である。

 そして、その助三がその座る位置とは別に、おちよの依頼に決して乗り気というわけではないことも周囲にはなんとなくわかっていた。というか、おことと菊弥以外はあまり乗り気ではない。

 だから、雪之丞の口からとっさに出た助三の名前に全員でくるりと首を振り向けたのは仕方のないことであったろう。思わぬところで注目を浴びた助三だが、人気役者のこの男にいまさら人目を気にする可愛げなどがある筈もない。

「おっと…」

 などと呟きながらおことの攻勢を軽く躱した。(自分でけしかけておきながらおことに詰め寄られる助三にギリィしていた雪之丞がいたとかいなかったとか)

 一気に不利となった女性陣だったが、そこで再び形勢逆転が起きた。菊弥がおことへの加勢にまわったのだ。手を組み合わせ上目使いで見やった先(攻撃目標)は―――

「ファ!?」

 助三だ。(クリティカルヒット①)

「お願いです、助三どの! 後生ですから、おちよちゃんを助けてあげて下さい」

 おことも天然だが、こちらも天性の末っ子気質(甘え上手)である。多少、国許の友人の言葉を参考にしているところもある―――存外効いたようで菊弥本人もびっくりだ。

(おていちゃん、すごい)

 助言をくれた幼馴染みに心の中で感嘆する。

 思いの外効いた攻撃に気を良くした菊弥、おことの真似も取り入れてずいずいと助三の方へ近寄ってみる。(クリティカルヒット②)

(近い近い近い近い…!)

 雪之丞の醜態を笑っていてすっかり他人事のように油断していた助三、ズザッと音がするほど飛び退いた。

「助三さまからも、兄上を説得してくださいまし」

 菊弥は渾身の《おねだり》を披露した(←末っ子、四人兄弟の)。


 

 

「……はぁ~……」

 誰のものかはわからぬ深いため息が聞こえた。




( ゜∀゜)人(゜∀゜ )オヒサー

亀更新、どころかミジンコ更新です。

ミジンコはぎりぎり肉眼で見えます。見えます、見えますよね? ね?

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