贋花嫁18
更新できました_(^^;)ゞ
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~~~♪ たかさごやぁぁぁ~
このうらふねにィほぉあげェてェ
つきもろともにいでしィおのォ
なみのあわじのしまかげやぁ
とおぉ~くんんなるおの~おきすぎてぇぇぇ
は~やすみのーえにーつきにけーりー
はやすみのえーーにつきにけーーーーりィィィー ~~~♪
朗々と歌い上げるは深山一座の座頭・惣右衛門。それに聞き入る男女は互いに寄り添いあい、時折目線を合わせては微笑みあい、手をそっと握り合う―――夫婦に扮した雪之丞と助三だった。
ここは芝神明の深山一座の芝居小屋、能の演目『高砂』を超アレンジした深山一座オリジナル脚本『高砂の松』が上演中なのである。
あらすじは住吉の松の化身である助三と高砂の松の化身である雪之丞の夫婦が、高砂の松の木陰を掃き清めながら遠距離恋愛の末のいさかいを起こし、そこへ通りかかった惣右衛門扮する九州阿蘇神社の神主である友成が仲裁に入りてんてこまいをするというコメディなのだが、まあ能と同じ夫婦和睦をテーマとしている話だ。
この演目は散々振り回された贋物屋から近江屋夫婦の再出発を祝う餞である。そう。近江屋夫婦への、だ。
あれから、雪之丞の手配した捕り方が御用提灯を持ってわらわらと現れ、駒吉や戸塚の長吉らを引っ立てていった。
駒吉は遠島(島流し)となった。誘拐は一発アウトの重罪で、町奉行の裁量にもよるだろうが基本は死罪である。それを思えば軽く済んだと言えるかもしれない。ただしおちよの場合は誘拐なのか詐欺なのか迷うところ(もっとも詐欺だとしても十両以上は死罪の重罪なのだが)で、それこそ町奉行の胸先三寸…現代で言うところの陪審員の心証次第というところがこの時代のお裁きにはあった。駒吉はおちよに見放されて以来すっかり大人しくなり、よっぽど町奉行の心証がよかったのだろう。死罪よりも一つ軽い流罪で済んだ。
一方、戸塚の長吉はと言えばこちらは死罪である。駒吉ともめる元となったおのれの妾であるおさだを殺害しすでに埋めてしまっていたということから処刑をまぬかれようもなかった。おさだも駒吉と関わり合いになったばかりに哀れなことである。
そして、おちよは―――
傷心のところを近江屋に慰められ、改めて夫婦になろうと約束を交わした。といって、一度祝言を上げているためもう一度、というわけにもいかない。おちよは花嫁衣装が着たかったとモヤモヤしているらしいがこれは自業自得であろう。それで言うなら祝言を上げた相手が男(雪之丞)だった近江屋の方がよほど気の毒である。
近江谷彦四郎、懐も器もでっかい漢であった。
ともあれ、雨降って地固まる。すべて世はこともなし。収まるものが収まるべきところへ収まって、大団円と相成り申し上げ候ォォ!
―――と言いたいところ、なの、だが。
「雪之丞さまぁぁぁぁー! ステキィィィィ!!!! こっちをお向きになってぇぇ」
今日はまた一段と黄色い声が舞台に直撃の勢いである。雪之丞がちらりと視線を投げれば、深山一座の数少ない桟敷席(普通の宮地芝居には桟敷席は設けられていない)を占領したおちよが満面の笑顔で手を振っている。雪之丞の視線に応えるようにブンブン!と手の振りが大きくなった。
あれ以来、おちよは深山一座の、いや雪之丞の贔屓筋筆頭となっている。
駒吉に愛想尽かしをさせるためにあれほど苦労したというのに―――
駆け落ちの夜に駒吉に別れを告げられた後、おちよは頑として家に帰ることを拒んだ。それを何とか説得しようと、文治と助三があの手この手でおちよを懐柔しようと努めたのだ。女には手練れの駒吉にタイプを寄せた助三が菊弥の目を気にしながらおちよの気を引いてみたり、顔に似合わず江戸一番のフェミニストの名を欲しいままにしている文治が懸命におちよの気を引いたり、深山一座の色男たちが手を変え品変えアピールしたにもかかわらず駒吉一筋だったおちよが―――
ちなみにその時点では堅物の雪之丞は駒吉とあまりにもタイプが違いすぎて戦力外通告を受けていたというのに―――
すがすがしいほどの手のひら返しである。
深山一座の色男たち(笑)は完全に読み間違えたのである。『駒吉のような…』という概念に対する認識の違いが、おちよと彼らでここまで大きかったとは誰が想像したろう。
だが、考えてみてほしい。駒吉とおちよの出会いは不良に絡まれていたところを助け出したこと、駒吉は普段は母性本能をくすぐる女に甘えるのが得意なタイプで。つまりは、そう。『ギャップ萌えは正義』なのである。
そして、雪之丞。
身代金受け渡しの際に見せた、バッタバッタと悪人どもをなぎ倒す強さ。おちよを支える腕の逞しさ。居並ぶ数十人のマッチョどもをちぎっては投げちぎっては投げしてくれた、おちよを守るために!!(※個人の感想です)
物堅く真面目で好きな女にアプローチの一つも出来ないヘタレで…そう思っていたのも、あら不思議。母性本能をくすぐる可愛らしさに脳内変換されていた。
つまりは―――『ギャップ萌え』。
「ギャァァァァー! 雪之丞さまぁぁぁぁー! 抱いてェぇぇぇーーー!!!!」
叫ぶような嬌声をあげるおちよのその隣りでニコニコと微笑み穏やかに見守る近江谷彦四郎。ほんっとうぉぉーに、懐も器もでっかい漢だった。
了
( ゜∀゜)人(゜∀゜ )オヒサー
亀更新、どころかミジンコ更新です。
ミジンコはぎりぎり肉眼で見えます。見えます、見えますよね? ね?