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第三話「贋花嫁」  作者: 和泉和佐
10/18

贋花嫁10

更新できました_(^^;)ゞ

―――――― 10 ――――――


「そんな……。そ、そんなことに……?」

 おちよは絶句した後におずおずと言った。だが、雪之丞はおちよの言葉には返さず、

「誰かに駆け落ちのことを話しましたか」

 と質問で返した。

「! いいえ!」

 おちよは慌てて頭を振った。

 雪之丞の声音に詰問の響きがあったことに、多少の怯えが見られ―――

 スパン!

「イタッ! 何なさるんです、助さん!」

 叩かれた頭を押さえ振り向く雪之丞。

 助三に後頭部をどつかれたのである。

「おなごを怖がらせてどうするか、バカもん!」

 その声に雪之丞の表情がバツの悪そうなものに変わる。 

「そうですよ、おちよちゃん、大丈夫?」

 おことにも睨まれて、雪之丞はシュンと(犬)耳を垂らす。

「すみません。でも、腹がたって…」

 もちろんそれはおちよに向けての怒りではないが、さすがに無関係とも言いがたい。その未熟さも若さゆえ―――『認めたくないものだな』と先人も言っていることだし。

「…まあ、そりゃあ、な」

 項垂れた雪之丞の様子には助三もぽりぽりと顔を掻きながら苦笑する。身代金要求の犯人に対する怒りはこの場にいる全員共通の怒りだからだ。自分達が体よく営利誘拐の犯人に仕立てあげられそうになっているのだから当然ではある。菊弥や文治などあからさまにプンスコしている。逆に落ち着いて見えるのが意外にもおことで―――

「ね、おちよちゃん。雪さんの言葉が足りないのはいけないけど、これは大事なことなの。だから、よくよく考えて答えてほしいのだけれど…。贋物屋(私たち)のことはもちろん言ってないと信じてるけど―――それ以外―――例えば駆け落ちのことだけを、とか。誰かに話したりしてないかしら? 仲の良いお友達や、気安い下働きの娘とか?」

 雪之丞と助三のやりとり(イチャコラ)(←不本意)はいつものことなので全面的にスルーしたおことはおちよの手を取りながら優しく尋ねた。おちよの方が年上ではあるのだが、しっかりしているという点ではまるでおことの方が姉のような関係性がこの数日で出来上がっていた。

「あの、でも、本当に私誰にも…」

 聞かれたおちよも今度は当惑気味ながらも答えた。まあ、誰にも言っていないのが真実であろうと雪之丞たちにもわかってはいた。何と言っても贋物屋は裏家業ではあるし、依頼人にも同等のペナルティが課せられるのが当たり前である。御白州(法廷)に連座させられるのは困るだろう。それだけではなく、駆け落ちのことだけであったとしてもおちよが誰かに話すとは思えなかった。この計画の成否におちよは人生を賭けたのだ、誰の口から情報が漏れておじゃんになるかわからない、それを安易に話すことはないだろうと若い娘ながらその口の固さは信頼していた。


 だがしかし、脅迫状が伊勢屋に届けられたのは事実である。脅迫状を送った人間は確実におちよの駆け落ちを知っていたことになる。おちよが誰にも話していないというのなら残るは―――もう片方の当事者―――

「違います! 駒吉っつぁんはそんなことをする人じゃないわ!」

 おちよは誰もがその結論に帰着する前に、声を上げてそれを遮った。彼女としては当然のことだろう、憤慨の面持ちで駒吉の魅力を語り始めた。

「―――ですからね、その時に駒吉さんが颯爽と現れてぇ、だからね、その姿がとーってもとっても格好よくってェ、”勘彌(かんや)さま”も顔負けって感じでェ…ウフフ」

「「「「………」」」」

 延々と続くおちよのノロケ話に全員がうんざりとした。

 ちなみに”勘彌さま”というのは三代目森田勘彌のことでこの当時絶大な人気を誇っていた大芝居の役者である。助三や雪之丞とてそれなりに人気の役者ではあるが、あくまでも小芝居の―――それに比べれば森田一座の”森田勘彌”などは言うなればハリウッド俳優ばりの超絶人気の役者である。で、駒吉はそれの上をいくらしい。恋は盲目…痘痕(あばた)(えくぼ)…いや、何でもないです。

 ここら辺で雪之丞が白旗を上げた。おちよがやってきて二日の間にすでに何度も聞いた話である

「いや、結構。もう十分です。駒吉の話はわかりましたから」

 同じ話を五度も聞いたのだから堪え性がない、とは誰も責められまい。

「でもね、おちよさん」

 おことがやっと口を挟めたとばかりに、

「そうしたら、おちよさんが誰かに話を漏らしたってことなの? 駒吉さんではないって言うならそうなってしまうのよ?」 

 と言った。

 脅迫状を送っておいて、当人が家にいたのでは笑い話にもならぬ、そんなことであれば脅迫状なぞ鼻をかまれて捨てられるのがオチだろう。だから、この誘拐劇(正確には脅迫劇)の下手人は確実におちよが家にいないことを知っていたはずなのだ。

「あ、そ、それは…」

 言い澱むおちよ。

 おこと、雪之丞、助三に菊弥、文治にまで見つめられおちよはうつむいてしまった。自分が秘密を確実に守って決行日当日に挑んだというのは他の誰でもない自分自身が一番よくわかっている。では?となれば、それも一番よくわかっているのは自分である。どんなに惚れていても恋に目が眩んでいたとしても、駒吉がそういうチャラいところのある男だというのは否定しきれない。

「――――――もしかしたら――――――駒吉つぁんが…その…口を滑らしてしまったのかも……。駒吉つぁん、お酒、弱いから…」

 うつむいたままボソボソと呟いたおちよは、大層不本意そうではあった。

 



 さて、それから。おちよには知る限りの駒吉の情報をしゃべってもらった。何故かと言えば、事ここに至ってまで家に帰らないと駄々をこねたからである。

 駒吉が残した言葉で意固地になっているようだ。家族を裏切り裏家業の贋物屋にまで頼み駆け落ちをしたというのにその男にまで捨てられ(客観的に見ればそうとしか言えまい)―――相当に不安定になっていても仕方のないこの状況で、おちよは実に気丈だった。そして頑固だった。さすがは女金時の孫である。そっくりだ。

 雪之丞たちとしては家に帰ってもらうのが一番(まあ、本人はそりゃ帰りにくかろうが)なのだが、無理を通そうとは思わなかった。おことや菊弥とは別の視点から、秘密保持の観点からしてよろしくないという判断だ。おちよが納得する形で家に戻さないと、捨て鉢になったおちよにベラベラと何を言われるかわかったものではない―――ということだ。

 そうとなればとるべき道はただ一つ。


『売られた喧嘩は高値で買うタチなんです(ニッコリ)』

 ―――とは雪之丞。

 顔に似合わず血の気が多い。





( ゜∀゜)人(゜∀゜ )オヒサー

亀更新、どころかミジンコ更新です。

ミジンコはぎりぎり肉眼で見えます。見えます、見えますよね? ね?

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