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第三話「贋花嫁」  作者: 和泉和佐
1/18

贋花嫁1

更新できました_(^^;)ゞ


一話完結の三話目です。

ちょっとベタなお話ですが(毎回、ベタなお話ですが)、今回はあまりアクションシーンはない感じです。




 雪之丞は女形(おやま)でございます。


 女形といえばおなごのニセモノ


 贋物屋(にせものや)に御用とあれば


 この雪之丞が承りましょう!





第三話「贋花嫁(はなよめ)




―――――― 1 ――――――


「イヤったらイヤよ! 私には好いた人がいるんだからッ! お嫁になんか行かないわ!」

「おちよ!」

「お待ちよ、どこへ行くの? お待ちったら」

 江戸日本橋の廻船問屋・伊勢屋の店先から娘が一人、勢いよく飛び出していく。それを追いかけて伊勢屋の主人とその御内儀が一瞬飛び出してきたものの、店の外を歩いていた通りすがりの人々の視線に負けて、愛想笑いと共に店の中へと引っ込んでいった。


 娘、おちよと呼ばれた伊勢屋の娘は最初こそプリプリと腹を立てたように早足だったが、その内に落ち着きを見せ―――と思ったら次にはだんだんと頬が緩み、今度ははやる気持ちを抑えられないとでもいったように再び早足になっていった。

 そこへ、

「おちよちゃん!」

 かけられた声におちよは満面の笑みで振り返った。

駒吉(こまき)っつぁん!」

「待ったかい?」

 やってきたのは若い男であった。おちよよりもいくつかは年上であっても十分に若い、恐らくは二十歳をそういくつも出ていまい。シュッとして細身ながらそれなりに筋肉もついていて中々に精悍な面立ちのその男は駒吉といった。生業は、ない。特にこれいという仕事はしていないのだ。その日暮らしで、物売りもやれば人足仕事をやることもあるし、様々な仕事を渡り歩いては日銭を稼いでいる。博打で儲けた時には月の半分も働かずに遊んでいるような男だ。

 そう聞くととんでもないぐうたら者のように思えるが、実はこんなフリーターは江戸の町にはゴロゴロしている。今でこそ日本人の代名詞と言えば勤勉や働き者といったものが挙げられるが、それは戦後の復興期に日本人に求められた性質であってその本質とは異なっているのではないだろうか。少なくとも、江戸っ子たちにはその代名詞はまったくもって当てはまらない。『宵越しの金は持たない』のが江戸っ子だ。あればあるだけ使いきる。これは江戸の町に火事が多かった所為もある。ひとたび半鐘(はんしょう)が鳴れば(火災の発生を知らせる合図)、いかに溜め込もうともすべて無に帰す『おジャンになる』(ジャン=半鐘の音)のが江戸の町。これでは勤勉に働くことがバカらしくなるのも道理と言えば道理である。だからといって、さすがに駒吉のようなフリーターが推奨されていたかと言うとそうでもないのだが―――

 おちよは駒吉のもとに駆け寄ると、嬉しそうにその腕にぶら下がった。駒吉が相好を崩す。

「ねえ、今日は何処へ行くの?」

「―――そうさなぁ……おちよちゃんは何処へ行きたい?」

「そうねえ…。駒吉さんといられるなら何処へ行こうと私は楽しいんだけどぉ…」

 おちよが言えば、

「俺だって。おちよちゃんさえいれば何処だって!」

「やだぁー! もうぉぉー!」

 おちよが袖で顔を隠しながら、駒吉の腕をパシパシと叩いた。通りすがった見ず知らずの親父が『ケッ』と道端に唾を吐いて去っていく。

 おちよが駒吉と出会ったのはほんの二月(ふたつき)前のことであった。ちんぴらどもに絡まれていたおちよを駒吉が助けた、それが縁だった。颯爽と現れた駒吉におちよは一目でぽーっとなったのである。

 駒吉がおちよを助けたのはほんの気まぐれであったが、『かっこいい! ステキ!』と目をハートにされて悪い気がするわけもない。本当のところ駒吉自身も追い払った男らと同じで箸にも棒にもかからぬようなちんぴらだったが、おちよの前でだけは頼りがいのある格好いいヒーローなのだ。

 駒吉とおちよは結局、さんざんにいちゃつきながら浅草寺にお詣りに行き出店を冷やかし、甘味処で汁粉を食べ、存分にデートを楽しんだ。その帰り道、駒吉がおちよを家まで送ろうとしていた時である。

「おい、駒吉じゃねえか? 何やってんだよ、こんなところで」

 一人の男に声をかけられた。

「おお、何って―――ハハ、野暮は言うねえな」

 そう言って駒吉がおちよの肩を引き寄せた。おちよが頬を染める。男はそれを見て察したようにニヤリと笑い、

「お安くないねえ」

「ま、と言ってももう帰るところよ」

 親しげに話す二人を見ておちよがつんつんと駒吉の袖を引く。気づいた駒吉が、友達らしい男におちよを紹介した。男はあまりおちよには興味なさげではあったが、おちよは初めて駒吉の友達に紹介してもらえたとご満悦である。

「おお、そうだ、駒吉。帰り道ってならこの後はおまえ、暇なんだろ?―――行くかい?」

 言いながら男は緩く何かを握るような手つきで、それを振り上げてから降ろして見せた。丁半博打のツボ振りの仕草である。どうやらこの男、駒吉とは博打仲間らしい。男から誘いを受けた駒吉は目に見えてそわそわしだした。

「あー、いや、その、俺はおちよを……」

 言い惑いながらもその誘いを断ろうとしてくれている駒吉におちよは苦笑を浮かべた。

「―――いいわよ。いってらっしゃいな。ここまで来たらもうすぐそこだもの」

 おちよは言った。『しょうがないなぁ』という副音声が聞こえてきそうである。駒吉のこういうところが母性本能をくすぐるのだろう。

 駒吉はさんざん手を合わせ謝り倒しておちよと別れ、男と連れだって行きつけの賭場へと足を向けた。

 別れたおちよの方を振り返りもせず。すでに心は賭け(勝負)の世界へと飛び立っている。かえって連れの男の方がおちよの背中を窺っている。

「―――ありゃあおまえのレコ(●●)の一人かい?」

 小指を立てて見せた。

「いいご身分だねえ。女の金で飲み食いかよ、羨ましいねェ」

 男の言葉に駒吉は眉根をぎゅっとしかめ、

「んなこたぁしねえよ、全部俺が払ってんだよ」

「その女から搾り取った金でな」

 間髪いれない男の言葉にさすがの駒吉も口を閉じる。

「人聞きの悪いこというんじゃねえよ―――あいつが勝手に寄越すだけだぜ?」ニヤリ

「悪い男だね、まったく」

 男と駒吉はくつくつと笑い合い、

「んなことより、さっさと行こうぜ」

 そろって足を早めた。


( ゜∀゜)人(゜∀゜ )オヒサー

亀更新、どころかミジンコ更新です。

ミジンコはぎりぎり肉眼で見えます。見えます、見えますよね? ね?

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