第3章 「初めてのキスは…何味?」
午後の情業が始まったのだが…どの授業も頭の中に入って来なかった…。
いつの間にか、放課後となり…教室は、それぞれ部活や帰宅で、生徒のほとんどは、いなくなっていた。
今日、1日中…疲れただけだった…午後からも授業を受ける気もなく、色々と考えていたのだが…。
これと言った良い策も見つからないまま、時間だけが過ぎていった…。
帰宅部の俺なら、すぐさま喜んで、家に帰るところなのだが…今日は、そんな気分には…なれなかった。
1人、席から動かずに…思い悩んでいると…。
「深雪~、一緒に帰るぞー」
あーそっか…朋成と一緒に帰る、約束をしてたんだったな…。
深雪って、呼ばれるのに…まだ慣れないし。
「あ!?ああ…」
いつもの親友と帰り道…。同性であれば、どこに行く?何をして遊ぶ?…と、
…楽しい会話も成立するだろうが…。
そんな気分には…到底なれないわけで…どうして、こうなったかも…答えが見つかっていない。
ただ無言で…朋成と並んで歩いていた…その姿を心配そうに…見つめる朋成が、口を開いた。
「深雪さ…ホントにどうしたんだよ?昨日と違って、今日のお前…変だぞ??」
「…さっぱり、わからないんだ…昨日の俺は、どうだったんだよ?教えてくれよー!」
「…てかさ?何なんだ、その口調は??男言葉だぞ…それは」
ふん!男の俺が、女言葉を使えるかーっての!
「…俺は…男だ!」
例え女の身体になっていても…心は男のままだ…そうだ、俺は男だ!
「はぁ!?何わけわかんねーことを言ってるんだ?昔から女じゃないか…いつの間に男になった?」
「ちっ違う!俺は…男…だった…はずだ…」
親友の朋成なら…分かってくれると信じてたのに…すごく…悲しくなってきた。
はっ!?…そうか!男だった時の俺のことを聞けば…何か思い出すかも知れない!
「そうだ、朋成!!お前の友達に…『良大』って奴は、いなかったか?」
「誰だよ!?それは…良大ってのは、知らないぞ…聞いたこともない」
「てかお前!…そいつのことが、気になっているのか??浮気は…絶対に許さないぞー!」
ショックだった…朋成でさえ…俺が男だったことが…分からないとは…。
え!?…何だ?何が起きたんだ??いきなり…朋成に抱きつかれた。
「へ!?あっちょっと待て!やめろ!抱きつくな~!!」
何てことだ…女ってこんなにも非力なのか…いくら抵抗しても、男である朋成の力には敵わない…。
男に抱きつかれるのは…気持ち悪すぎる…マジで、離れろよー!!
「深雪…ホントどうしたんだよ?…いつもの…可愛いお前は、どこに行ったんだよ…」
更に、智成が俺をきつく…だが、優しく抱きしめてくる…,
なんだ!?これは??…この湧き上がってくる感情は、いったい…。
「そっそんな…の…知る…かよ…」
俺なりに抵抗してみたのだが…なんだ…これは…?
身体に力が入らない…嫌な…はずなのに…身体は、安心しきって…朋成に預けてしまっている。
朋成が切なそうな顔をして…更に俺を抱きしめてくる…。
「そんなに…俺が頼りないのか?…もっと、俺を頼ってくれよ…」
やめろー!そんな顔して…そんな台詞を…吐かないでくれ…マジで、キモすぎるんだが!!
…だが、心とは裏腹に…俺の意志とは、違う言葉が…口から出てしまった。
「…うん…ごめん…なさい…」
はぁ!?ちょっと待てよ…俺は、何を言ってるんだ?…更に身体に力が入らない…。
ホント…どうしてしまったんだ?俺の身体は…。
「惚けた顔をしやがって…ホント、可愛い奴だな…」
朋成の顔が、いきなり近づいてきた!?と思っていたら…。
俺の…唇を奪われてしまった!?
「!?……んーんんっ!!……」
ただ、お互いの唇を重ねるだけの…簡単なキス…。
はっ!?…まじかよー!…こいつ…俺に…キスしやがった!!
嘘だろう…俺の…ファーストキスを、男に奪われるなんて…気持ちが…悪い。
そう思ってるはずなのに…心の奥底では…すごく喜んでいる…ようだった。
「深雪…少しは…落ち着いたか?」
更に俺の身体は…おかしくなってしまった…。
全く腰に力が入らない…立つ事さえも…満足に出来ないほどに…。
「…あ…あ…力が…はいら…ない…立ってられ…ない」
「…大丈夫か、深雪!?…少しあそこで座って休もう、さぁ…行くぞ」
朋成が指を指す方に、目を向けると…公園のベンチがあった。
休みたかった…頭を整理したかった…俺は頷く。
「…うん、分かった」
「…じゃあ、しっかり俺に、捕まっていろよ?」
いきなり朋成に、抱えられて…えっ!?これって…お姫様だっこじゃん!?
そのまま、抱えられたまま、ベンチへと向かう。
「深雪…お前、ホントに軽いな?ちゃんとご飯食べているのか??」
そう問いかけられるも…頭が混乱していて…俺は、顔を縦に振るしか出来なかった…。
体中が熱くて…恥ずかしいのやら…嬉しいのやら…気持ち悪いのやら…色んな感情が渦巻いている。
何が何だか…わからない状態だった…。
「とりあえず…ここに座って、休んでいこう」
公園のベンチに、そっと俺を座らせると…朋成が、隣に座って…俺の頭を自分の肩に寄せてきた…。
ありがたく、肩に…俺の頭を預けて、兎に角…落ち着こう…まずは、それからだ…。
呼吸を整えて…何とか落ち着くことができ、少しは、まともに考えれるようになった。
「深雪…大丈夫か?少しは…落ち着いたか?」
「あーうん…もう大丈夫…」
だが…このまま朋成の側にいると…何だか、おかしくなってしまう…。
ダメだ…頭が整理できない…兎に角、今は…家に帰ろう。
「おっ…わっ私…気分が悪いから…家に帰るね」
ちっ!女言葉は使いたくないのだが…ここを切り抜けるには…仕方がない。
だが…朋成は、更に心配そうな顔をしている…。
「本当か!?…本当に大丈夫か?家まで送っていくぞ??」
そこまで心配されるのは、心苦しいが…これ以上、自分がどうなるのか…すごく不安だった。
兎に角、ここから離れよう…家に帰って…ゆっくりと考えたい。
「もう…大丈夫だから…んじゃ、また明日ね」
「ああ…また明日…」
俺は…簡単な挨拶を交わし…朋成から逃げるように、この場所から走り去っていった…。




