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第58話 ラストスパート

 その後、黒澤務と一輝の二人は黙ってグラウンドの周りをかなりの時間、走り続けていたのだが。

「……はあ、はあ」

 グラウンドを数十周して、大分疲れが溜まって来て、一輝は少し息を乱して来ていた。すると、

「どうした、佐藤くん、もう限界か?」

 一輝の一メートル程先を走っていた黒澤務は一輝の方をチラリと振り返ると、再び前を向いてそんなことを言った。

 そして、そんな言葉を聞いた一輝は、あまり体力を使いたくないので、これ以上、余計な言葉を発したくは無かったのだが。

 流石にそれだと、情けなさ過ぎると自分はそう思ったので。

「はあ、はあ……そんなことは無いです、まだまだ走れますよ」

 少し苦しいと思いつつも、一輝はそんな言葉を発した。すると、

「そうか……まあ、そんなことを言えるのなら、まだ大丈夫そうだな」

 黒澤務はそう呟くと、何を思ったのか、更に走るペースを上げて、一輝との距離を離しにかかったのだった。

 なので、一輝は黒澤務にそんな体力が残っていることに、内心かなり動揺しつつも。

(……負けませんよ)

 心の中でそう呟くと、一輝も走るペースを上げて、再び務との距離を一メートル程に詰めた。

 ただ、この勝負のルール上、一輝はこのまま自分のペースで走っても何の問題も無いのだが。

 ここまで来ると、ルール違反かどうかは関係がなく、絶対に黒澤務には置いて行かれないという意地だけで、一輝は走り続けていた。そして、

「……一輝くん」

 そんな一輝の様子を心配そうな様子で、立花綾香は人混みの中で心配そうに見守っていた。すると、

「何というか、面白そうだから観に来たけど、思ったより観ていて退屈だな」

 一人の男子生徒がそんなことを言った。すると、

「まあ、そうだな、マラソン対決をするって話だったから、単純に足の速さを競うのかと思っていたけど、どうやら持久力勝負みたいだしな。それにこの様子だと、まだまだ時間が掛りそうだな」

 彼の隣に居た男子生徒が続けてそう言った。なので、

「そうだな……結果はかなり気になるけど、この調子だとまだ時間が掛りそうだから俺はもう帰るわ、結果が分かったら後で教えてくれ」

 男子生徒は隣の男子にそう告げると、グラウンドに背を向けて、自転車置き場へと向かって行った。すると、

「私も帰ろうかな、勝負の結果は気になるけど、どうせ明日にはこの勝負の結果の話は広がって、嫌でも耳に入るだろうからね」

 彼らの傍に居た一人の女子生徒もそう言って、グラウンドに背を向けて歩き始め、その様子を見て、他にも帰り始める生徒が十数名現れ始めた。

 そして、そんな様子を見た颯太は、隣に立っている黒澤心愛の方を見て。

「おい、いいのか? 見物人が何人も帰り始めているぞ」

 少し心配そうな口調でそう言った。

 何故なら、この作戦を成功させる為には、多くの生徒にこの勝負を最後まで見届けてもらう必要があるからだ。しかし、

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、確かに何人かの生徒は飽きて帰ってしまうでしょうが、それでも私たち位の年頃の人は好奇心旺盛な生き物ですからね、絶対に数十人はこの結果を知りたくて最後まで残り続けますよ、だから私たちは何も心配をせず、この勝負を最後まで見届けましょう」

 それでも、この作戦を提案した心愛は一切慌てることがなく、グラウンドを走っている二人を見つめたままそう言った。なので、

「……そうか、まあ、お前がそういうのなら、その言葉を信じるよ」

 颯太がそう言うと。

「ええ、そうして下さい」

 心愛は普段通りの口調でそう言ったので、颯太はその言葉を信じて、二人の勝負を見守り続けることにした。



 その後、更に数十分間、一輝と務の二人は黙って走り続けていたのだが。

「はあ、はあ……」

 一輝は体力的にかなりきつくなって来ていて、少しふら付きながらも、何とか気合だけで前を走っている務にくらい付いていた。

 しかし、体力的にきつくなって来ていたのは、一輝だけでは無かった。

(……くそ、思ったより粘って来るな!!)

 前を走っている黒澤務は声には出さす心の中でそう呟いた。

 務としては、一輝が中学、高校と帰宅部だったということを知っていたので、幾ら一か月間鍛えたとしても、数十分間走れば直ぐにばてるだろうと、務は思っていたのだが。

 一輝が予想以上に粘るので、務も負けまいと走り続けていたのだが。

 最初の内は余裕を持って走っていた務も今ではかなりきつくなっていて、このままのペースで走り続けていたら、務は後数分ほどで倒れてしまいそうだった。しかし、

(……いや、俺はこんなところで負ける訳にはいかない!! 例え最終的に振られることになるとしても、せめてこの勝負には勝って、その上で振られるんだ!! それくらいの意地を見せないと、俺の真の目的は果たすこと何て出来ないはずだ!!)

 黒澤務は心の奥底で強くそう思うと、少しふら付きながら走っていた自分の足に改めて力を籠めて再び体制を立て直すと、かなり落ちていた走るペースを再び上げて、一輝との距離を離した。

 そして、そんな務の背中を見た一輝は、

(ここに来て更にペースを上げるのか!?)

 心の中で思わずそう呟いた。しかし、ここで距離を離されてしまうと、もう勝てないと思った一輝は何とかペースを上げようとしたのだが。

(っつ!! 足が動かない!!)

 一輝の体力はとっくに尽きかけていて、何とか足を速く動かそうとしてもいう事を聞かず。

 それどころか、早く走ろうとすればする程、段々と歩調が乱れてどんどんペースが落ちて行った。なので、

(……ああ、結局僕はこのまま情けなく負けるのか)

 一輝はそう思った。恐らくこのまま走り続けると、一輝はその内、足をもつれさせてからグラウンドに倒れてしまうだろうが。

(……でも、仕方が無いか、これだけ努力をして無理なら最初から勝てない勝負だったんだろう、それに多分、綾香さんは先輩の告白を断ってくれるだろうし、これだけ走ればもう十分だろう)

 一輝は心の内でそんな弱気な発言をした。

 しかし、例え負けても綾香が先輩の告白を断ってくれたら、例えこの勝負に負けても最終的には何の問題も無いだろうと思い、一輝はそのままペースを落としそうになったのだが。

(本当にお前はそれでいいのか?)

(えっ?)

 ふとそんな声が聞こえた気がして顔を上げてみると、一輝の目には自分のことを見ている颯太の顔が見えた。そして、

(確かにお前の言う通り、ここでお前が負けたとしても、立花さんは先輩の告白を断ってはくれるだろう。でも、それじゃお前は今までの頼りない彼氏のままだし、そんなのじゃあ、ここに居る人達も、お前が立花さんの彼氏に相応しいなんて認めないだろうな)

 この距離だと聞こえる筈はないし、事実、颯太はそんな言葉は一切口にしていないのだが、一輝は親友からそんな言葉を投げられた気がした。そして、

(そうですね、確かにそんな情けない佐藤先輩が立花先輩の彼氏に相応しいとは私も思えませんし、そんなのではその内、立花先輩から愛想を付かれてしまうと私は思いますよ)

 颯太の隣に立っている黒澤心愛からもそんなことを言われた気がした。しかし、

(……でも、僕はもう体力の限界なんだ、それに例え今、無理をして頑張ったとしても、結局は先輩に勝てないだろうし……)

 そんな言葉を投げかけられた気がしても、既に体力が付きかけていた一輝はその声に答えることは出来ず、心の中で思わずそう呟いた。すると、

(そんなことはありませんよ)

(えっ?)

 大好きな人のそんな声が聞こえて一輝が思わず顔を上げると、未だに残っている生徒たちの人ごみに紛れている綾香と一瞬だけ目が合った。

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