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第52話 後輩との出会い

「はあ……はあ」

 綾香が一輝の家に訪れて二週間程が経った日の夕方、一輝はすっかり日課になっていた家から公園までのマラソンを今日も続けていた。そして、

「……ふう、これで少しは体力が付いて来たかな」

 公園の入り口に辿り着いて、一輝は足を止めてそう言った。

 初めの内はこの公園に辿り着く頃には、一輝はかなり息が上がっていて、こんな風に独り言を言う余裕も無かったのだが。

 今では少し休めば、こんな独り言も言えるようになっていたので、一輝は着実に体力が付いて来ているのを自分の体で確かに感じていた。しかし、

「とはいえ、これくらいで満足をしていたら勝負には勝てないよな……いつも通り、お茶を飲んで少し休憩をしてから、また家まで走ろう」

 一輝はそう言うと、公園の中へ入り、奥の方にある自動販売機へと向かった。

 そして、一輝はペットボトルに入ったお茶を自動販売機で買って来て、入り口近くにあるベンチに座り、一人でお茶を飲んでいると。

「こんにちわ、先輩!!」

「……え?」

 唐突にそんな風に声を掛けられて、一輝が驚いて声が聞こえた右隣を振り返ってみると。

「あっ、いえ、正確には初めましてですね、佐藤一輝先輩」

 そこには、一輝の高校と同じ学生服をしているが、高校生にしては小柄で可愛らしい顔立ちをした、一人の女子生徒が立っていた。なので、

「……ええ、始めまして……えっと、貴方は一体?」

 一輝はそう挨拶を返したが、彼女が初めましてと言っている言葉の通り、一輝には彼女の顔に見覚えが一切無かったので、一輝はそう口にした。すると、

「私は一年B組の黒澤心愛(くろさわここあ)と言います、以後お見知りおきを」

 彼女はそう言って、自己紹介をした。

 そして、彼女のその挨拶を聞き終えた一輝は、心愛というのは少し変わった名前をしているなと、そう思いつつも。

 もっと凄い名前の人を実際に見たことがあるし、今の時代ならこれくらいは割と普通なのかもしれないと、自分の中で勝手に納得をした。

 しかし、一輝は名前以上に気になることがあった。なので、

「黒澤ということはもしかして、黒澤元生徒会長の妹さんですか?」

 一輝はストレートにそう質問をした。すると、

「ええ、そうですよ」

 彼女はあっさりと、一輝のその言葉を肯定した。なので、一輝は少し考えてから。

「えっと、それで黒澤さんは僕に対してどんな用事があってわざわざここまで来たのですか?」

 彼女に対してそう質問をした。しかし、

「いえ、私は特に先輩に対して何か用事があってここに来たわけではないですよ。ただ、強いて言えば先輩と少し雑談をしたくて、私はここまで来たんです」

 黒澤心愛はそんなことを言った。なので、

「雑談ですか?」

 一輝がそう言うと。

「ええ、そうです、幸い先輩は今休憩中のようですし、少し私とお話をしてもらってもいいですか?」

 彼女はそんなことを言った。なので、一輝は少し考えてから。

「ええ、別に構いませんよ」

 一輝はそう答えた。すると、

「そうですか、ありがとうございます!!」

 心愛は笑顔を浮かべてそう言ってから、少し距離を取ってベンチに座っている一輝の隣に座った。そして、

「それで、佐藤先輩のトレーニングは上手くいっていますか?」

 最初に黒澤心愛は一輝に向けてそう質問をしてきた。なので、一輝は少しだけ考えてから。

「そうですね、僕はトレーニングを始めてからずっと、自宅からこの公園の間を行き来しているのですが、初日に比べると公園に来るまでにそんなに疲れなくなっているので、走り始めた頃と比べると体力が付いていることは間違いなので、多少は成果が出ていると思いますよ」

 一輝はそう答えた。すると、

「そうですか、順調そうで何よりです」

 心愛はそう言った。なので、

「ありがとうございます……その、黒澤さんのお兄さんは、僕みたいにトレーニングをしているのですか?」

 一輝がそう質問をした。すると、

「ええ、勿論です、私の兄はかなりの負けず嫌いなので、佐藤先輩と同じように毎日家の近所を走っていて、しっかり体を鍛えていますよ」

 心愛はそう言った。なので、

「そうですか、でも、勝負を挑んできた以上、ちゃんとトレーニングを積むのは当然のことですよね」

 一輝はそう言った。そして、

「……あの、黒澤さん、お兄さんの事に付いて一つ質問をしてもいいですか?」

 一輝が心愛に向けてそう質問をすると。

「ええ、いいですよ、何ですか、佐藤先輩?」

 彼女は快くそう言った。なので、

「その……黒澤さんのお兄さんはどうして、僕と勝負をしてまで立花さんに告白をしたいと思ったんだと思いますか?」

 一輝がそう質問をすると。

「そんなに不思議なことですか? 彼氏と勝負をしてでも気になる女の人に告白をしたいと思うことが」

 心愛はそんなことを聞いて来た。なので、

「いえ、不思議では無いですが、僕にはその気持ちが分からないんです。例えば、今僕が綾香さんと付き合っていなくて、僕に好きな人が居たとしても、その人に彼氏が居ると分かったら、僕はその人のことは素直に諦めると思うので、彼氏が居ると分かっていても、女の人に告白する人や、黒澤さんのお兄さんみたいに彼氏と勝負をしてまで告白しようとする人の気持ちが分からないんです。彼氏が居るということは、今その女の人はきっと幸せなのに、好きな人の幸せを壊してまで自分がその女の人の彼氏になりたいとは、僕は思わないんです」

 一輝はそう言った。すると、その言葉を聞き終えた心愛は、

「成程、佐藤先輩は随分と優しい性格をしているのですね」

 一輝に向けてそんなことを言った。しかし、

「でも、佐藤先輩がそんな感じだと、立花先輩の彼氏を続けることは不可能だと私は思いますよ」

 その後、心愛は直ぐにそんな冷たい言葉を言い放った。なので、

「……えっ」

 一輝は思わずそう言った。そして、

「えっと、どうしてそう思うのですか?」

 一輝がそう質問をすると。

「単純ですよ、佐藤先輩は立花先輩の傍にいるのでよく分かっていると思いますが、立花先輩はとても美人でスタイルも性格も良くて、その上、勉強も運動も出来るという非の打ちどころのない美少女です。そして、まともな男子ならそんな女性を観たら、どんなことをしてでも自分のモノにしたいと思うのは仕方のないことですし、彼氏である佐藤先輩は、そんな男の人たちから立花先輩を守らないといけません。それなのに、当の先輩が今みたいな感じだと、例え今回、家の兄から立花先輩を守り切ったとしても、そのうち誰かに佐藤先輩の大切な彼女を取られてしまいますよ」

 心愛はそう言った。なので、一輝はその言葉を聞いて少し怯みつつも。

「そんなことを言われても、仕方がないではないですか。僕としても、綾香さんが他の男性から告白されるのはとても嫌ですが、だからといって、僕に出来ることは何も無いのですから」

 一輝はそう言った。すると、

「まあ、普通はそうですよね。ただ、もし私が先輩の立場ならどんな手を使ってでも、彼女にちょっかいを掛けて来る男の人を排除しますが、先輩にはそんなことは出来ないでしょうね。でも、そんな先輩にも出来ることがあるとは思いませんか?」

 心愛はそんなことを言った。なので、

「えっと、何ですか? それは」

 一輝がそう質問をすると。

「そうですね、例えば今、私が佐藤先輩と同じ立場になったとして、立花先輩が誰かに告白されることになったとしたら、私は必ずその告白現場に同席にして、絶対に立花先輩が他の男子生徒に取られないように、彼女の傍でずっと見張っていますよ」

 心愛はそんなことを言った。しかし、

「えっと、流石にそれは告白相手の人に対して迷惑ではないですか?」

 その言葉を聞いた一輝はそんな疑問を口にしたが。

「別にいいじゃないですか、迷惑でも、確認しますが、佐藤先輩にとって立花先輩は大切な存在なんですよね?」

 心愛は一輝に向けてそんな質問をして来た。なので、

「ええ、それは当然です!!」

 一輝は力強くそう答えた。すると、

「それなら、これくらいのことはすべきだと私は思いますよ。自分にとって大切な人が誰かに取られるくらいなら、他人にどれだけ迷惑をかけることになったとしても、私はそれを絶対に阻止したいと思いますし、それに何より、恋人がいる人に対してちょっかいを掛けてくるような人なんかに気を遣う必要なんてないでしょう? 一番人に迷惑をかけているのは、恋人がいる立花先輩に告白をして来ている人たちで、そんな相手にいちいち気を遣う必要なんてないと、私はそう思いますよ」

 心愛ははっきりとそう言った。そして、そんな後輩の言葉を聞き終えた一輝は暫くの間、黙っていたが、自分なりの答えが見つかったのか。

「……黒澤さん、ありがとうございます、貴方の言葉で今後、僕がすべきことが分かった気がします」

 彼女に対してそうお礼を言った。すると、

「いえ、気にしないで下さい、私の兄がお二人に迷惑をかけたことに対するせめてものお詫びだと、私はそう思っていますから」

 心愛はそう言った。そして、その後二人は特に会話をすることなく、ベンチに座っていたが、数十秒経つと彼女はベンチから立ち上がり。

「それでは、もうお話をすることも無いようなので私は家に帰りますね、私の立場上、あまり表立っては言えませんが、私は佐藤先輩と立花先輩はお似合いだと思っているので、私の兄に大切な彼女を取られないよう、精々頑張って下さい」

 最後にそう言うと、心愛は一輝に背を向けて公園を後にした。そして、一輝はそんな心愛の背中を無言で見送ってから。

「今晩、綾香さんに言うべきことが一つ増えましたね」

 一輝は一人、公園でそう呟いたのだった。

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