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第51話 お別れのキス

 そして、一輝の姿が見えなくなると。

「本当に立花さんは一輝のことを大切に思ってくれているのね、私の夫も言っていたけど、一輝の初めての彼女が立花さんみたいな素敵な女の子で本当に良かったわ」

 一輝の母は綾香に向けてそんなことを言った。すると、

「そんな、私なんてどこにでもいる普通の女子高生ですよ」

 綾香はそんなことを言った。すると、

「これだけ美人なのにそんな風に謙虚な性格なのも、私はとても素晴らしいと思うわ。ただ、ごめんなさい、立花さん、家の一輝は女の子にあまり慣れしてなくて、立花さんには色々と失礼なことをしてしまうこともあるかもしれないけど、出来れば見捨てないで上げてね、一輝は頼りないけど悪い子ではないから」

 一輝の母は少し心配した口調でそう言った。すると、

「大丈夫ですよ、お母さま、私は一輝くんのことが大好きですから、一輝くんが別れてと言わないのなら、私は別れるつもりはありませんし、それに私も一輝くんが初めての彼氏で色々と分からないことが多いので、今後は一輝くんと一緒に支え合って、お互いに良い関係を築けたらいいなと、私はそう思っています」

 綾香はそう言った。すると、

「あら、そうなの? 立花さんは凄い美人だからてっきり何人かと付き合った経験があると思っていたから少し意外だわ、でも、そういう真面目な所も私は素敵だと思うわよ」

 一輝の母がそう言ったので。

「ありがとうございます、お母さま」

 綾香はそう言った。どうやら一輝の母は綾香のことを相当気に入っているようで、もはや綾香が何を言っても、彼女のことを全肯定しそうな勢いだった。すると、

「それなら立花さん、私で良かったら、恋人として長続きしそうなコツを何か話してあげようか? 別に私も妻も恋愛経験が豊富という訳ではないが、それでも結婚して二十年くらいは結婚生活を続けているから、少しくらいなら立花さんの役に立つ話が出来ると思うんだ」

 一輝の父が唐突にそんなことを言った。すると、

「えっと、それならお願いしてもいいですか? 私と一輝くんが付き合っていることは、今では割と多くの人が知っているのですが、私にはこういったことを相談できる人があまり居ないので、一輝くんのご両親が相談に乗って下さるのなら、私はとても助かります」

 綾香は笑顔を浮かべてそう答えた。すると、

「ええ、任せて頂戴!! 立花さんは将来、私たちの娘になるかもしれないのだから、立花さんに悩みがあるのなら、私たちはいつでも相談に乗るわよ!!」

 一輝の母はそんなことを言った。なので、

「母さん、それは幾ら何でもそれは気が早すぎるし、立花さんも反応に困ってしまうよ」

 一輝の父が綾香のことをフォローする様にそう突っ込みを入れた。しかし、

「ふふ、私としても将来、一輝くんとそのような関係になれたら嬉しいです」

 そんな言葉を受けても綾香は一切動じることもなく、笑ってそう答えたのだった。そして、



「ガラガラ」

 それから数十分経って、マラソンを終えた一輝が自宅へと戻って来て、玄関を開けて家の中へと入った。そして、

「ただいま」

 そう言って、一輝がリビングの扉を開けると。

「……これが私の思う恋人同士が長続きをする秘訣よ」

「成程、勉強になります」

 一輝の母が綾香に向けて何かを話していて、綾香も真面目な表情で机の上に置いたメモに何かを書き込んでいた。なので、

「えっと、綾香さん、何をしているのですか?」

 一輝が綾香に向けてそう質問をすると。

「えっ、あっ、一輝くん!? いえ、何でもないですよ!!」

 綾香が慌てた口調でそう言うと、彼女は急いでメモ帳を閉じた。すると、

「何でも無いわよ、それで一輝は家に帰って来たけど、立花さんはこれからどうするの? もしこの後も家で過ごすんなら、立花さんさえよかったら、晩御飯も四人分、私は用意するわよ」

 一輝の母親はそんなことを言った。しかし、

「あっ、いえ、そんな……私はこの後、一輝くんさえよかったら、一輝くんの部屋でゆっくり過ごそうと思っていますが、お昼ご飯までご馳走になったのに、さすがに夜ご飯までご馳走になるのは悪いので、夜ご飯は家で食べることにします」

 そう言って、綾香は一輝の母の提案を断った。すると、

「あら、そうなの? それは残念だけど、でも、分かったわ。立花さんに無理を言う訳にはいかないからね。でも、今後も立花さんが家に来ることがあれば、またご飯をご馳走するから、その時は遠慮せずに食べてね」

 一輝の母はそんなことを言った。なので、

「ありがとうございます、またお邪魔する時があればその時はよろしくお願いします」

 綾香はそう言った。

 その後、綾香は一輝の部屋で雑談をしたり、一緒にアニメを観たりして、数時間のんびりと過ごした。そして……



「それでは一輝くん、私はそろそろお家に帰りますね」

 太陽の日が大分傾いて来たころ、一輝の家の前で綾香は今朝、自分が乗って来た自分の自転車の隣に立って、一輝に向けてそう言った。なので、

「分かりました、それと立花さん、今日は僕のトレーニングに付き合ってもらっただけでなく、僕の両親の相手までしてくれてありがとうございました」

 一輝が綾香に向けてそうお礼を言うと。

「気にしないで下さい、運動をするのは私は嫌いではないですし、それに私は結構人見知りをする性格で、初対面の人とは中々直ぐには打ち解けられないのですが、一輝くんのご両親はとても話しやすくて、私に対してとても親切にして下さったので、仲良くなれそうで良かったです」

 綾香は笑顔を浮かべながらそう言った。なので、

「そうですか、それなら良かったです」

 一輝はそう言った。すると、

「そうですね、それで一輝くん、私が家に帰る前に一つだけ、一輝くんに聞いておきたいことがあるのですがいいですか?」

 綾香がそんなことを聞いて来た。なので、

「ええ、いいですよ、何ですか?」

 一輝は特に深く考えず、そう返事をした。すると、

「……その、一輝くんが寝ている私にキスをしようとしていたというのは本当ですか?」

「……え?」

 唐突に綾香にそんなことを聞かれて、一輝は思わずそう呟いた。そして、それから数秒経ってから。

「えっと……どうしてそのことを知っているのですか?」

 一輝がそう質問をすると。

「一輝くんがマラソンをしに出掛けた後、少ししてから一輝くんのお母さまが教えてくれました。お母さまが私たちを呼びに来た時に一輝くんが私にキスをしそうな体制をしていたと。そして、一輝くんの反応を観ると、どうやらお母さまのお話は本当のことだったみたいですね」

 綾香は納得した様子でそう言った。すると、

「すみませんでした!!」

 その言葉を聞いた一輝は大声でそう言うと、その場で素早く頭を下げた。なので、

「えっ……その、一輝くんはどうして謝っているのですか?」

 綾香は少し驚きながらそんなことを聞いて来た。なので、

「え? だって、幾ら恋人同士とはいえ、綾香さんの許可もなく勝手にキスをしようとしたのですから、謝るのは当然じゃないですか?」

 一輝が顔を上げて、綾香にそう言うと。

「別に謝る必要は無いですよ、確かに私が寝ている間にキスをしようとしていたのは少しだけ嫌でしたが……あ、でもそれは、一輝くんとキスをするのが嫌なのではなく、一輝くんが私に何も言わずにキスをしようとしていたのが嫌なんです。もし、一輝くんが私とキスをしたいのでしたら、正直に言ってくれたら、私はいつでも一輝くんとキスをしてあげますよ」

 綾香はそんなことを言った。すると、

「えっ、本当ですか!?」

 一輝は大声でそう言った。すると、

「あっ、いえ、すみません、流石に何時でもしてあげるという話は忘れて下さい、幾ら一輝くんのことが好きでも、四六時中求められたら私も大変なので。でも、ただ、そうですね……例えば今、一輝くんにキスをしたいとお願いされたら私は断らないと思いますよ」

 少し頬を染めながら、綾香はそんなことを言った。

 そして、そんな彼女の可愛らしい姿を観て、一輝は我慢できる筈もなく。

「……えっと、それなら綾香さん、僕とお別れのキスをしてもらってもいいですか?」

 少し緊張しながら、一輝がそう言うと。

「……ええ、勿論いいですよ」

 一輝の緊張が伝わったのか、綾香も少し硬い口調でそう言った。そして、

「えっと……それでは一輝くん、お願いします」

 そう言って、綾香はゆっくりと両目を閉じた。しかし、

「その、僕からキスをするのですか?」

 一輝が少し困った口調でそう質問をすると。

「はい、私からキスをするのは、正直まだ恥ずかしいので、出来れば一輝くんからお願いします」

 綾香は目を開けて、本当に恥ずかしそうな表情でそう言ったので、一輝は意を決すると。

「……分かりました、それでは綾香さん、いきますよ」

 綾香に向けてそう言った。すると、

「……ええ、お願いします」

 そう言って、綾香は再び目を閉じた。なので、一輝は少しずつ自分の唇を綾香の唇へと近づけて行った。そして……

「「……ん」」

 半分くらい沈んだ夕日を背に、二人の唇が静かに重なった。そして、数秒間経ってから、一輝はゆっくりと綾香から唇を離して、彼女から一歩距離を取ると。

「ふふ、ありがとうございます、一輝くん」

 頬を赤く染めながらも、綾香は満面の笑みを浮かべて、一輝に向けてそう言った。なので、

「あっ、いえ、こちらこそ、ありがとうございます、綾香さん」

 一輝もそう言って、綾香に言葉を返した。

 今日以降、一輝は一ヶ月後のマラソン対決に挑むために、毎日それなりに厳しいトレーニングを積むことになるのだが。

 今後も彼女のこんな笑顔を見る為なら僕は幾らでも頑張れると、一輝は心の中で強くそう思ったのだった。

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