表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
7th day:Tomorrow hoped from the end of despair
68/141

失意のどん底

新章。物語七日目。

〔絶望の果てから望む明日〕

 俺は一人、自分のアパートの一室で横になっていた。

 心が重すぎて、体を起こすことすらできない。

 昨日の一件が脳裏に焼き付き、俺の心を後悔で埋め尽くす。


「くっそぉ……! 白峰……!」


 俺は横になりながら、何度もその名を呼んで涙を流す。

 堪えることなどできない。今でも頭の中では白峰の最後の姿が浮かんでくる。


 ――これまでの連続殺人で殺された異界能力者(エリアンアビリター)と同じく、白峰も理解できない表情のまま、首を切られて事切れていた。


 今は姉村所長や風崎刑事が動き、白峰の遺体と部屋を管理してくれている。

 本来ならばいつものように特務局が出てくるが、今回は風崎刑事も情報を隠してくれている。

 昨日、俺達が特務局の施設で見た、殺人事件の被害者が収まったカプセル。あんなものを見た後で、白峰の遺体を渡せるはずがない。

 白峰をあそこで何かの実験台として、一緒に並べるわけにはいかない。



 トュルルル



「……もしもし」

『黒間か。風崎だ。……大丈夫か?』


 俺が一人で自室にいると、スマホに着信が入った。

 相手は風崎刑事だ。どこか元気のない声をしているが、俺のことを心配して電話をしてくれたようだ。


『白峰ちゃんのことは……その……残念だった。姉村の姉ちゃんも心配してるぞ?』

「……そうですか」

『鬼島と西原も今回の件は堪えてるらしくてな。話を聞くとわざわざ俺のところに来て、頭を下げてきた。……白峰ちゃんがこうなったのも、自分達が巻き込んだからだと責任を感じてる』

「……誰のせいかって言うなら、俺のせいです」


 風崎刑事は姉村所長達の話を出し、俺を慰めてくれる。

 その中で誰の責任かという話になるが、それは俺の責任だ。


 白峰も俺と関わらなければ、狙われることもなかった。

 俺と関わってしまったばかりに、白峰は命を落としてしまった。




 ――白峰が死んだのは俺のせいだ。




『……抱え込みすぎるなよ? 白峰ちゃんの件の捜査は、俺の方で個人的に進めておく。お前はまず、しっかり飯を食って体力をつけろ。いいな?』

「……はい」


 俺は風崎刑事の話を聞き終えると、電話を切ってそのまま横になり続けた。


 ――昨日に白峰の遺体を見てから、とても食べる意欲も起きない。

 水すら口にせず、ただひたすらに自室で横になっている。


「白峰にカレー……作ってやれなかったな……」


 それでも食べ物の話を聞くと、それにまつわる話が頭に浮かんでくる。

 白峰は俺の作るカレーを楽しみにしていたのに、もうそれも叶わない。


 なんで白峰が殺されなきゃいけなかったんだ?

 白峰が異界能力者(エリアンアビリター)だからか?

 殺人犯が異界能力者(エリアンアビリター)を強く憎んでいることは分かっていた。

 だが、白峰のように人畜無害で子供っぽい奴まで、殺されなければいけなかったのか?




 ――どうせなら、白峰よりも俺を殺して欲しかった。




「……もうこんな時間か」


 満足に眠りにつくこともできず、外を見れば夕陽が見え始めていた。

 こうやって丸一日横になるのも久しぶりだが、俺の体は重いままだ。疲れなど抜けるはずがない。


 ――少し前には白峰が押しかけてきて、休日なのに連れまわされていたことを思い出す。

 あの時は面倒だったが、そんな日はもう戻ってこない。


 姉村所長曰く、白峰は俺に好意を寄せていた。

 俺もおぼろげとはいえ、白峰のことは気になっていた。


 ――こんなことなら、もっと白峰に優しくすればよかった。

 俺も白峰も、どこかお互いに消化不良のままに引き裂かれてしまった。




 ――殺した犯人が憎くて仕方ない。




 ガチャ ガチャ



「ツッ君……。その様子だと、ご飯も食べてないよね?」

「姉村所長……」


 暗くなり始めた室内に、突如として来客が現れた。

 ノックもせずにドアを開けて入って来たのは姉村所長だった。

 何やら買い物カゴを携え、俺の断りも聞かずに部屋へと上がってくる。


「ツッ君が何も食べてないと思って、ご飯の材料を買ってきたよ。私が料理してあげるから、ちょっと台所を借りるね」

「…………」

「……いつものツッ君なら『所長が料理なんて無理でしょう?』って返すのに、それをする元気もないんだね……」


 姉村所長だって辛いはずなのに、健気に俺のことを心配してくれる。

 その厚意をありがたく思いながらも、俺はまともに返事も返せない。

 いつものように所長に言い返す気力も湧かない。


「……白峰は本当に死んだんですか?」

「うん……言いづらいけど。私の方でも調べたけど、あの出血量じゃ助かりっこなかった……」

「……そうですか」


 それどころか、俺は思わず白峰の安否について尋ねてしまった。もちろん、所長の答えは『ノー』だ。

 俺だって分かってる。あの時の白峰の姿を見れば、助かりようがないのは一目瞭然だ。

 俺にあの後の記憶はないが、姉村所長はあの後も白峰が殺された現場を調べてくれていた。


 ――俺にはもう、そんなことをする気力もない。

 一番守りたかった白峰が殺された今、現場である白峰の部屋に入る気も起きない。

 もう一度現場を見れば、俺はもう生きる気力さえ失う。




 ――連続殺人事件の調査も含めて、俺には先に踏み出す力さえ残っていない。




「……姉村所長。俺から一つだけ、お願いがあります」

「ん? どうしたのかな?」


 俺は重い体を起こしながら、部屋の台所に向かおうとする姉村所長を呼び止めた。

 こんな結末になってしまった以上、俺の存在は姉村所長達の邪魔になる。


 俺は自ら身を引く決意を固め、所長へと願い出た――




「俺を……姉村便利事務所から除名してください……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ