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Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
6th day: A place where disasters sleep
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復讐の足跡

「『これより復讐を開始する』……。これってもしかして……?」

「とりあえず、ファイルを開いてみるしかないね」


 鬼島さんが口にした、テキストファイルの名称――『Start revenge from this』

 その日本語訳は『これより復讐を開始する』

 その言葉を聞いた時、俺は一つの可能性にたどり着いた。姉村所長も俺と同じことを思ったのか、すぐにファイルを開いてくれる。




 ――もしかすると、これはあの連続殺人犯が残したメッセージではないだろうか?




「全部英語ですね……」

「鬼島さん、訳せる?」

「ちょいと待ってくれ。このレベルの長文やと、オレも時間がかかる」


 パソコンの画面に映ったファイルの中身を見ると、英語で長文が書かれていた。

 俺達には読めないが、鬼島さんは少しずつその内容を読み解いてくれる――



○ ○ ○



 これは私が計画の前に残すメッセージである。

 私は異界能力者(エリアンアビリター)の関係者により、実験台にさせられてしまった。

 祖国の軍もこのような実験をするとは思っていなかっただろう。この実験はあまりに非人道的だ。

 私を含む実験に参加した十人は、この施設で精神を改造された。


 他の人間の感情といった精神を、別の人間へと植え付ける実験だった。

 私が実験台になるより前に、すでに八人がその実験の犠牲になった。

 残されたのは私と私の姉だけ。八人目が死亡すると、次は姉が実験台にされてしまった。

 姉は一命こそ取り留めたが、その後に目を覚ますことはなかった。


 そして姉が眠り続ける中、私が最後の実験台となった。

 私の脳内に姉を含む九人分の精神が乗り移って来た。

 それはとても大きな怨嗟だった。それは耐えようのない憤怒だった。

 これまで犠牲になった九人の憎悪が、私の精神と一つになった。


 私も最初は耐え切れず、苦痛と絶望の中で意識を失った。


 だが、私は生きていた。

 私を含む十人分の憎悪を抱えてなお、私は息を吹き返した。

 私が目を覚ました時、この施設はもう誰も使っていなかった。

 異界能力者(エリアンアビリター)の関係者達も私のことを死んだと思ったのか、杜撰に地下深くのゴミ処理場へと捨てていた。

 そのおかげで、私はこうしてここに戻ってこれた。


 ただ、もう元の生活には戻れない。元の生活に戻る気もない。

 私の脳内に宿る十人分の憎悪が、私に復讐を促してくる。

 私は私をこうした人間を許せない。異界能力者(エリアンアビリター)を許すことなどできない。

 もう未来のことなど、どうでもいい。私にできるのはこの復讐心を晴らすことだけだ。


 だから私は復讐を決行する。ここで犠牲となった十人の無念を晴らすため、異界能力者(エリアンアビリター)を殺し続ける。

 道徳はいらない。倫理もいらない。未来もいらない。

 必要なのは殺戮のみだ。

 私は異界能力者(エリアンアビリター)を皆殺しにして、この世界から根絶やしにする。

 私達を殺した異界能力者(エリアンアビリター)を、許すことなどできない。


 これは私の人生をかけた復讐だ。

 このメッセージは私が復讐するための決意だ。


 私はこれより復讐を開始する。



○ ○ ○



「こ、この内容って、本当に……?」

「どうやら、本当に殺人犯が残したメッセージのようだな……」


 ――俺も予想した通り、このパソコンに残されていたのは殺人犯が残したものだった。

 それはまるで、これから異界能力者(エリアンアビリター)への復讐を決行する決意の表れ。しかもその憎悪のレベルは尋常じゃない。


 ――当然の話だ。殺人犯の正体は概ね予想通りだったが、その境遇は想像を絶していた。

 異界能力者(エリアンアビリター)特務局によって行われた非人道的な実験。その最中に死亡したと思われた九人の被験者のうち、一人だけ生き延びることができていた。

 だが、その過程でその一人は自分以外の九人分の憎悪をもその身に植え付けられていた。

 さらには死んだと判断された後、その体はゴミのように捨てられていた。

 実験中も実験後も、人間として扱われることはなかった。




 このテキストファイルから確信した。

 異界能力者(エリアンアビリター)連続殺人犯――異界能力者(エリアンアビリター)に対する復讐鬼の正体は、ここで行われた共同実験により死んだと思われ、十人分の憎悪を宿した被験者の一人だ。




「ほ、本当にこれって、あの殺人犯が書いたものなの? 別の人が書いたとかじゃなくて?」

「別の人間が書いたにしては生々しすぎる。それに、このファイルの更新日時は共同実験が行われた日付よりも後だ。この施設が閉鎖した後だろう」

「私もツッ君の考えに同意かな。別人がこんなファイルを用意する理由はない。とっくに閉鎖してる施設の電源を普及させる必要もない。こんなことをする意味があるのは、これを書いた後に復讐を実行に移そうとした人間――連続殺人犯ぐらいだね。これは殺人犯が自らの復讐心を足跡として残し、これからの決意を鈍らせないためのものなんだろうね……」


 白峰は別人の可能性も考えるが、俺も姉村所長と同意見だ。

 こんなものを残す意味のある人間なんて、殺人犯以外に考えられない。




 このファイルが作られた時から、殺人犯の復讐計画――異界能力者(エリアンアビリター)連続殺人事件が始まっていた。




「なんや、想像以上にとんでもない話やな。そもそもこれらがホンマの話なら、殺人犯は十人分の復讐心で動いとるってことやろ? もうその時点で、異界能力者(エリアンアビリター)よりもよっぽどバケモンやろ」

「こんなことを平然とやる特務局もバケモノですけどね。特務局は情報管理能力どころか、倫理感さえもなかったってことですか……」


 鬼島さんが殺人犯に抱く印象とは別に、俺は特務局や国に対して吐き気を覚えずにはいられない。

 異界能力者(エリアンアビリター)という未曽有の力を前にして、国も目が曇ったなんてレベルじゃない。

 ここで行われた実験だけでも、国民どころか世界中から非難されてもおかしくない。

 あまりに強欲で、あまりに周囲を省みない狂気の実験――


 ――米軍もこの国から脱出したがるわけだ。




「わ、わた、わたしと同じ力のせいで、こんな犠牲があったの? エ、異界能力者(エリアンアビリター)のせいで?」

「白峰……」


 これらの話を聞き終えて、白峰は目を見開きながら両手で頭を抱え、全身を震わせている。

 白峰からしてみれば、自分と同じ異界能力者(エリアンアビリター)による被害が事の発端となっている話だ。


 ――白峰の優しい性格を考えると、罪悪感で潰されそうになっているのも分かる。


「大丈夫だ、白峰。お前は悪くない。お前だって、異世界の女神に勝手に異界能力者(エリアンアビリター)にされたんだろ? そういう意味じゃ、お前だって被害者だ」

「く、黒間君……?」


 それを理解した俺は、両腕で白峰の体を抱きかかえながら、優しく諭すように声をかける。


「殺人犯を復讐に駆り立てたのも、元をただせば異界能力者(エリアンアビリター)を重宝した国や特務局の責任だ。もっと言えば、こんな力をいきなり無責任に与えた女神のせいだ。白峰に罪はない」

「ううぅ……うん。ありがとう。えっぐ、えっぐ……」


 俺の腕の中で、白峰は不安から泣き出してしまった。

 こいつは本当に優しい奴だ。おそらくは殺人犯の方に同情している。俺だってその気持ちは分かる。


 ――ただ、それでも殺人犯は止めないといけない。

 これらの話を統計すると、殺人犯は完全に復讐という狂気だけで動いている。異界能力者(エリアンアビリター)を根絶やしにするその日まで、止まることはないだろう。

 そうなると、白峰もいつかは命を狙われる。




 ――そうならないためにも、俺はより一層殺人犯を追う気持ちが強くなる。




「二人の世界に入り浸ってるところ悪いんやが、こっからさらに調べていかんと、殺人犯の尻尾は掴めへんで?」

「鬼島さんの言う通りだね。殺人犯が在日米軍基地にいた被験者だってことは分かったけど、まだ誰かまでは絞れてないからね。ツッ君も白峰ちゃんとのラブラブ展開については、ひとまず後にしてくれないかな?」

「……えっ? あっ、はい」


 俺が白峰が落ち着くまで抱きしめていると、その様子を伺っていた鬼島さんと姉村所長に口を挟まれてしまった。

 所長の方は相変わらず俺と白峰のことをカップリングで見てくるが、俺は不思議とそのことを言い返せなかった。


 ――なぜだろうか? それを否定してしまうと、ものすごく白峰に申し訳ない気がしてしまった。


「……まあ、今は俺も調査に戻りましょう。ただ、ここからどうやって調べますか?」

「このメッセージからだと、殺人犯のお姉さんも実験に参加してた? そして、その人があの病院にいる生き残り?」

「十中八九そうだろうね。となると、生き残った被験者の素性を洗うか、被験者のリストを見つけるか……」


 ともかく今は調査が優先だ。俺も気持ちを切り替え、白峰や姉村所長と次のことを考える。

 これが殺人犯のメッセージならば、同じく実験に参加していた姉の存在が読み取れる。

 そしてその姉こそ、俺と白峰が訪れた病院で植物状態となって眠っている、記録上の生き残りだ。殺人犯はその人の弟となる。


 ここから調べる方法だが、その姉の方を直接調べるのは難しい。

 俺達が接触しようにも、米軍が許すはずがない。たとえ会えても、本人から話を聞くこともできない。

 そうなると、被験者十名のリストを入手し、そこから洗い出すのが妥当だろう。

 この場所を深く調べれば、そのデータも見つかりそうだが――




「ゼェ、ゼェ! お、鬼島のカシラぁ! すんませんが、こっちに来てくだせぇ!」




 ――調べようとした矢先、別の場所を調べていた西原さんが俺達のもとへと駆け込んできた。

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