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Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
1st day:Serial killer lurking in a strange world
6/141

可能性

「所長。ただいま戻りました」


 異界能力者(エリアンアビリター)に喧嘩を吹っ掛けられたりしたが、特務局に介入されてしまった以上、俺に現場でできることはもうない。

 風崎刑事とも別れた後、俺は予定通り事務所に戻り、姉村所長に報告しようとしたのだが――




「こっちのデータが――それで、これとの整合性が――」

「うわぁ……。所長が真面目モードになってる……」




 ――所長は超集中状態でパソコンに向かい、俺が帰ってきたことにも気付かないほどだった。

 パソコンを操作する時用の眼鏡をかけ、両目をガン開きにしながら画面とにらみ合いっこをしている。

 服は相変わらずだらしのないしわくちゃのワイシャツのままだが、いつもこれぐらい真面目に仕事をしてほしいものだ。


 ――その形相はかなり怖いが。


「所長。黒間です。戻りましたよ」

「やっぱりこっちが――あ、あれ? ツッ君? いつの間に帰って来たの?」

「ついさっきですよ。所長が集中しすぎてて、俺が声をかけても気付かなかったんじゃないですか」


 俺が所長の隣まで行って軽く肩を叩くと、ようやく反応してくれた。

 画面を見ると異界能力者(エリアンアビリター)について調べていたようだが、ここまで集中する必要がある情報とは、一体どういうものなのだろうか?


「所長。このデータは?」

「ツッ君に元々お願いしてた案件も私の方で先方に連絡を入れて一段落したし、ちょーっと情報を整理してたのよ。例の連続殺人事件で過去に殺された異界能力者(エリアンアビリター)と、私の方で目星をつけている異界能力者(エリアンアビリター)の情報だね」


 気になった俺が尋ねてみると、どうやら所長の方でも連続殺人事件を追ってくれていたようだ。

 元々は俺が今日やるはずだった仕事への対応ができていることにも驚きだが、所長はなんだかんだで優秀だ。

 パソコンに写ったデータベースの画面を見るだけでも、そこにはすべての異界能力者(エリアンアビリター)の情報が乗ってるんじゃないかと思えるほどのデータが載っている。

 これだけ膨大な異界能力者(エリアンアビリター)のデータを特務局でもない所長が個人で持っているなど、国のお偉いさんは想像もできないだろう。


 ――別に俺がいなくても、所長が本気を出せばこの事務所は回るんじゃないだろうか?


「調べてみたんだけど、殺された異界能力者(エリアンアビリター)は全員、何かしら素行に問題があったみたいだね。ウチの事務所に依頼されていた案件以外にも、結構いろんなところでトラブルを起こしてるよ」

「実は俺も丁度、そのことを所長に報告しようと思ってたんですよ。今回殺された異界能力者(エリアンアビリター)ですが、俺が今日向かうはずだった窃盗の疑いがある異界能力者(エリアンアビリター)でしたよ」

「それ、ほんと?」


 本来は俺の方から姉村所長にお願いしようと思っていた被害者の調査だが、先に所長自身で進めてくれていたようだ。

 俺も今回の被害者について報告するが、それと同時に風崎刑事とした犯人像の推理についても、信憑性が出てくる。


「風崎刑事とも話したんですが、犯人は『異界能力者(エリアンアビリター)に恨みを持つ人間』じゃないでしょうか?」

「やっぱり、その線が強いよね。そう考えると、今日は先延ばしにしちゃった案件を洗った方がいいかもね」


 姉村所長も俺と風崎刑事の推察に同意してくれている。

 早速パソコンに向かい直し、その線で他の素行に問題のある異界能力者(エリアンアビリター)について調べてくれるようだ。


「あっ、やっぱりちょっと待って。私からツッ君にお願いしたいことがあるの」


 そうやって期待した矢先、姉村所長はかけていた眼鏡を外し、デスクの上で腕組を始めた。

 何やら真剣な表情をしているが、俺に何か重大な指示でも――




「ツッ君、ご飯作って」

「さっきまでの真剣モードはどこに行ったんですか?」

「腹が減っては戦ができぬだよ。私も疲れたし、先にご飯を食べよう」




 ――どうやら、所長は俺の料理をご所望のようだ。

 いつもなら適当にカップ麺でも漁ってくれるのだが、時々こうして俺に料理を依頼してくる。

 まあ、こちらとしてもいつもカップ麺ばかりでは、所長の健康が不安になってくる。


「ハァ、分かりましたよ。それじゃあ俺は台所に行くので、所長は少し休んでてください」

「よかったら私も手伝おうか?」

「料理スキルが『カップ麺にお湯を注ぐ』レベル止まりの所長がいても、正直邪魔です。おとなしく待っててください」


 この事務所の家事全般は俺の担当だ。

 姉村所長は家事に関するスキルは本当に壊滅レベルなので、俺がやるしかない。

 所長の邪魔を制した俺は、一人で台所へと向かった。


 ――やはり、この事務所は所長一人では回らなさそうだ。特に生活面で。




「所長。料理はできましたけど、冷蔵庫にまともな材料がありませんよ? あり合わせでハンバーグぐらいなら作れましたけど」

「いいじゃん。私はツッ君のハンバーグ大好きだよ?」

「そういう問題ではありません。そのハンバーグを作る材料も足りなくなってます。今度材料を買いに行くので、予算の準備をお願いします」


 しばらく時間が経つと、俺は出来上がったハンバーグを持ちながら姉村所長の待つ、いつもの仕事部屋へと戻って来た。

 出来上がったハンバーグは鶏肉に豆腐を混ぜ合わせた雑なものだが、所長はこのハンバーグがお気に入りらしい。

 元々は材料が足りない時の料理なので、もう少し冷蔵庫の中身を充実させてほしい気はする。


 ――もっとも、所長が料理なんてするはずもないので、あまり大量に買いだめしても腐らせてしまいかねない。


「ハグハグ……。ツッ君って、料理上手だよね。これも私の教育のおかげかな?」

「そうですね。所長がずぼらすぎるので、俺が頑張らないといけなくなってますから」

「ツッ君のひねくれ者なところだけは、昔から変わらないよね。……あっ、そうだった。ちょっとツッ君のスマホにデータを送るね」

「データ?」


 俺と所長はそれぞれ向かい合ったソファーに座り、無駄話をしながらハンバーグを食べていると、所長が自分のスマホをいじって俺のスマホに何かのデータを送って来た。

 俺もハンバーグをつついていた箸を止め、スマホを確認してみる。


「これって、俺が今日受けるはずだった恐喝案件の対象になってる、異界能力者(エリアンアビリター)の情報ですか?」

「そうだよ。もしもこれまでと同じように素行に問題のある異界能力者(エリアンアビリター)が狙われてるなら、容姿とかも含めて先に知っておいた方がいいと思ってね。料理を作ってもらってる間に用意しておいたよ」


 人に料理を作らせていた姉村所長だが、どうやらただ待っていただけではないようだ。

 俺が今日の殺人現場でも使ったアプリだと、氏名などの簡単な情報しか確認できない。

 容姿まで載せてしまうと、こちらの動きを異界能力者(エリアンアビリター)に変に勘繰られてしまう可能性も出てくる。

 その心配から俺のアプリにはそれらの詳細情報は載っていなかったのだが、今回の話を聞いて所長も嫌な予感でも感じたのか、特別に俺のアプリでも見れるようにしてくれたようだ。


 そしてその容姿を見て、俺はあることに気がついた。


「この二人の男子高校生……。さっき俺が風崎刑事と事件現場にいた時、喧嘩吹っ掛けてきた連中ですよ」

「え? そんなことがあったの? だとしたら、急いだほうがいいのかも……」


 顔写真を見て気付いたが間違いない。事件現場で会った異界能力者(エリアンアビリター)の二人だ。

 そのことを俺が述べると、姉村所長もハンバーグを食べる手を止め、真剣な表情で悩み始めた。


「この連続殺人事件なんだけど、犯行現場と日時を見る限り、犯人は特に場所や周期を決めて相手を狙ってるわけじゃなく、見つけ次第で手当たり次第に襲ってるみたいなんだよ」

「すると、今も犯人は今回の現場の近くで、この二人をつけ狙っている可能性があると?」

「その線は十分にあるね。ツッ君、帰ってきてご飯の途中で申し訳ないんだけど、すぐにでもこの二人の身元を確保してくれないかな?」


 姉村所長との話の中で、俺も同じことが心配になった。

 いくら俺に喧嘩を吹っ掛けてきた相手で、気に食わない異界能力者(エリアンアビリター)であっても、このまま見殺しにするのは気分がよくない。

 もしも本当に犯人がまだ近くにいるならば、この二人が狙われる可能性は高い。


「所長。その二人の居所は分かりますか?」

「正確には分からないけど、この二人は恐喝をするときはこの地図にある廃倉庫を使ってるらしいよ。ここに行けば会えるかもしれない」

「ここって、さっきの現場の近くじゃないですか……!」


 姉村所長が自身のスマホに写しだした地図の場所を見ると、風崎刑事に呼ばれた事件現場の目と鼻の先だ。

 どうにも嫌な予感がする。これまでの推理が当たっていれば、本当に犯人はこの倉庫に姿を現しそうだ。


「私も風崎刑事に連絡を入れておく! ツッ君は急いでその倉庫に向かって!」

「分かりました!」


 姉村所長も嫌な予感がしたのか、珍しく声を荒げながら俺を目的地へと急がせた。

 俺もその言葉に応えるべく、走りながら事務所の外へと出ていった。




 いくらあの異界能力者(エリアンアビリター)の二人が嫌な奴でも、ここで俺が迷うわけにはいかない。

 こんなところで迷って足を止めれば、俺の両親の死を黙殺した連中と同じになってしまう。

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