BattleⅡ:真帝会若衆 西原 雷作
姉村便利事務所調査員:黒間 次彦
第一世代異界能力者:白峰 香音
VS
真帝会若衆:西原 雷作
「シャァラァアアア!!」
真帝会若頭、鬼島 炎に会うための試験――真帝会若衆、西原 雷作とのガチンコ勝負。
この地下闘技場のリングの上で、俺と西原の勝負が幕を開けた。
白峰がセコンドに入っているとはいえ、実質的に俺と西原の一対一。
以前に一度戦ってるから分かるが、西原の腕っぷしはすさまじい。
激しい雄たけびを上げながら、俺を激しく攻め立ててくる。
「くっそ!? 攻撃する余裕もない!?」
「どぉしたぁ!? まぁた避けるばかりかぁ!? 今回は埠頭の時と同じ手は使えねぇけどなぁあ!!」
拳の一振りだけで、離れた俺にまで届く風圧。
一度西原に膝をつかせれば俺の勝ちとはいえ、それだけで有利とも言えない。
西原は何度も大振りに拳を繰り出し、俺へと激しく襲い掛かる。
――その一撃を食らえば、俺はそれだけでノックアウトしかねない。
俺は俺で西原に対し、一撃も食らうわけにはいかないギリギリの勝負を強いられている。
「このリングの上じゃ、埠頭の時みたいに壁蹴りも使えない……!」
さらに言えば、今回は完全にこちらのアウェーだ。
以前はコンテナを蹴って高く飛び、西原の頭上をとることができた。
だが、このリングには壁となるものがない。リングの周囲は一段下がり、リングアウトエリアになっている。
――正攻法しか許されない、余計なものが一切ない戦いのステージ。
俺にとって、それはこれ以上ないほど不都合な状況だ。
それでも俺は攻撃を掻い潜り、西原に攻撃を加えるのだが――
「ダーハハハ! てめぇの攻撃なんざ、俺には痒くもねぇなぁ! そんな貧弱な攻撃で、俺に勝てると思ってんのかぁあ!?」
ドゴォンッ!!
「ぐんぬぅ!?」
――西原にはまるで効いていない。
埠頭で戦った時もそうだったが、西原の武器はその馬鹿力だけでなく、異常なまでの打たれ強さにもある。
俺の全体重をかけた肘鉄にも耐えるレベル。俺がこの場で加えた攻撃なんて、西原には牽制にもならない。
それどころか逆に俺の攻撃に耐えきられ、間合いの詰まったところで西原が拳を叩き込んでくる。
寸前のところでガードするも、その衝撃で腕が痺れてしまうほどの威力。
――俺にハンデが与えられても、西原にはとても及ばない。
「く、黒間君……」
リングの外では白峰が不安そうに俺を眺めている。
俺のワガママに付き合わせるような形だったのに、ここで負ければそれも水の泡だ。
せっかく手掛かりを前にして、倒れるわけにもいかない。
「もうちょっとやると思ったんだが、この程度かぁ。オレも焦れってぇのは嫌いなんだぁ。鬼島のカシラにも会えず、ここで沈んじまいなぁあ!!」
だが、現状で俺に取れる手立てはない。
西原は勝負を仕掛けようと、一気に間合いを詰めて殴りかかってくる。
とにかく、この一撃を避けて――
「黒間君! 右のパンチの後! 左のパンチが横からくる!」
「白峰!?」
――そうして避けようとした時、リングの外から白峰の声が届いた。
まさかとは思うが、白峰には西原の攻撃が読めるのか?
そんなことを考える間もなく、俺は条件反射で西原の攻撃に対して体を動かすと――
――ブン! ブゥウン!!
「な、なんだってぇ!? なんで俺のパンチが読めたんだぁ!?」
――西原は右のパンチを放った後、本当に横から腹目がけて左の拳を振り抜いてきた。
西原は驚いて動きを止めているが、俺の方も予想外のことに驚いている。
「し、白峰? 西原の攻撃が読めるのか?」
「読めた! 今のわたし、あの人の次の攻撃の気配が分かる!」
「ほ、本当かよ……!?」
俺も慌てて白峰に確認すると、どうやら本当に白峰は西原の攻撃を読んでいたようだ。
気配を感知する魔法の力が『西原の攻撃の気配』まで感知したということか?
だが、白峰はこれまでそんなことができた様子はない。
一体どうして、こんな突然に――
「黒間君! がんばって! わたしも手伝う! 相手の攻撃を読んで伝えるから、応戦して!」
「……そう言えば、異界能力者の能力は感情によって大きく変化するんだったか?」
――そんな疑問がよぎったが、白峰の様子を見て一つの可能性にたどり着く。
俺を応援すことで、白峰の異界能力者としての能力が高まったという可能性。
なんとも理解不能な力だが、今の白峰の様子を見るとそれ以外に考えられない。
――そう感じてしまうほど、白峰は必死に俺のことを応援してくれている。
「本当に……異界能力者の能力ってのは、おとぎ話の魔法みたいなものだな。なんともお約束な話だが、悪い気もしないか」
つくづく異界能力者の使う魔法には、これまでの常識が通用しないことを思い知る。
それでもこれは俺にとって、まさに千歳一遇の好機だ。
忌々しい異界能力者の能力であっても、白峰が俺のために頑張ってくれているのなら使わない手はない。
もとより、こちらは『俺と白峰の二人がかりで構わない』と西原も言っていた。
白峰の援護を受け、俺は西原を倒してみせる。
「クソがぁ……! オレの攻撃を読んだぐれぇで、勝てると思ってんじゃねぇぞぉお!!」
少しの動揺を見せる西原だが、攻め方はこれまでと変わらない。
自らのパワーに絶対の信頼を置き、両腕を大振りに振り回してくる。
「上から右パンチ! 下から左パンチ!」
ヒュン ヒュン
「ク、クソがぁ! 当たらねぇ!?」
だが、西原の攻撃は俺に当たらない。
これまでよりも間を置かずに連撃を仕掛けてくるが、俺は白峰の言葉通りに素早く躱す。
西原は以前に戦った時もそうだったが、パワーに偏り過ぎて一撃自体の返しは遅い。
白峰に次の一手を読んでもらえば、回避することは問題ない。
それどころか、攻め手を考える余裕もできる。
「だったら……これはどぉだ――」
「右足のキック!」
西原も攻め手を変え、蹴り技も交えてくる。
だがそれも、白峰が読んで教えてくれる。
俺はその言葉を聞き、大きくしゃがんで回避をする。
――生憎、こちらには『床に膝や手をついてはいけない』というルールはない。
ガンッ!! ダンッ!!
「ぬぐあぁ!? あ、足払いだとぉ!? 小癪なぁあ!!」
そしてしゃがんだと同時に、俺は足払いを仕掛ける。
それでも西原の膝をつかせるには至らず、すぐさま蹴り上げた右足を床につき、踏ん張られてしまう。
――俺の方もここまでは予測できた。この足払いは勝つための布石に過ぎない。
白峰が西原の攻撃を読んでくれたおかげで、俺にも落ち着いて攻撃できるチャンスが訪れた。
俺は床に手をつき、体を大きく回しながら倒立させる。
上に行った右足で狙うのは、隙だらけとなった西原の顎――
「終わりだぁああ!!」
ズゴォオンッ!!
「んがぁあ!?」
――全身で遠心力をかけた状態から、右足のカカトが西原の顎へと直撃する。
こいつは脳天にまともに肘鉄を食らっても、まだ立っていられるほどタフだ。
それでも、足払いでバランスを崩した状態で、顎にこの一撃が決まったのならばタダでは済まない。
どれだけタフでも人間である以上、顎への一撃は脳震盪へと繋がる。
「ば、馬鹿なぁ……!? このオレがぁ……!?」
攻撃を完全に読まれて隙を作り、脳まで揺さぶられれば、いくら西原でも耐えきることはできない。
俺の目論見通り、西原の体は大きく崩れ――
ダンッ
――リングの上に膝をついた。




