選ばれなかった代わりの力
俺にいちゃもんをつけて殴りかかって来た異界能力者だが、俺はその拳を軽々と捌くことができた。
姉村所長に教えてもらった拳法のおかげだが、この異界能力者自身も大した実力ではない。
「なあ、君達は第二世代の異界能力者か?」
「ああ、そうだ! お前らみたいな一般人と違って、偉大なる女神様から特別な力を授かったんだよ!」
「力は授かったのかもしれないけど、格闘センスに関しては凡人だな。何より基本ができてない」
「はぁ!? 力も持たない一般人が、異界能力者に楯突くんじゃねえぞ!?」
俺は襲ってきた異界能力者に対し、軽く忠告を交えながら言い返した。
どうやら俺もワルぶってた時の習慣が抜けきっていないらしく、異界能力者の態度に嫌気が差していたのが表に出てしまったようだ。
「おい! この革ジャン野郎をぶちのめしちまおうぜ!」
「ああ! 見たところ第一世代の異界能力者と同じ年代なのに一般人ってことは、ただの落ちこぼれみたいだしな!」
そんな俺の態度が、この二人の異界能力者の怒りに火をつけてしまったらしい。
『俺が異界能力者に選ばれなかった者』という図星を言い当てつつ、さらに挑発するように手招きしてくる。
「……風崎刑事。今から俺がやることはオフレコでいいですか?」
「どの道、警察じゃ異界能力者のやることに介入できねえよ。黒間も適当にあしらって、さっさと終わらせろ」
流石の俺も挑まれたら無視できないが、今は警察の目もある。
風崎刑事にも了承を求めたが、気だるそうに認めてくれた。
――風崎刑事自身も鬱憤がたまっていたのだろう。
「何を余裕ぶっこいてんだぁ!? そのスカした態度ごと、燃やし尽くしてやんよ! ハァアアア――」
そんな俺の態度にますます腹を立てたのか、異界能力者の内の一人が両手を胸元で合わせ、何やら力を込め始める。
これが異界能力者の能力――もとい、魔法を使うための溜め動作というものだ。
合わせられた両手の間から、少しずつ炎が生まれてくるのが見えるが――
「ほらよ」
バギンッ!
「ガハッ!?」
――その隙だらけな頬に一発、俺の拳をぶち込む。
「な、何しやがんだ!? 人が魔法の準備をしてる時に!?」
「こっちがそんなの悠長に待ってるわけないだろ。第一世代ならそんな隙も見せないけど、第二世代はやっぱそこらへんが劣ってるな」
「な……舐めやがってぇええ!! ハァアアア!!」
俺の反論にさらに腹を立てたのか、相手はもう一度両手の間に炎を生み出し始める。
だが何度やっても無意味だ。魔法を使えると言っても、こいつの力量じゃそれを使うまでの隙が大きすぎる。
ボゴンッ!
「ガッハァ……!? や、野郎……! 人が準備してるときに手を出すとか、下品な野郎だ……!」
「喧嘩するのに下品も上品もないだろ? 隙を見せる奴が悪い」
俺は今度は相手の腹に膝蹴りを撃ち込み、大きくのけぞらせる。
異界能力者の能力は確かに恐ろしいが、俺のような一般人でも対処できないわけじゃない。
そもそも異界能力者の魔法は多数相手に一気に殲滅することには向いているが、個人を相手取るときはそうもいかない。
魔法の規模が大きすぎたり、準備のための時間がかかったりで、破壊力はあっても万能じゃない。
おまけに魔法の扱いを鍛えるばかりで、体の使い方は素人のそれだ。
だから俺もこうして姉村所長に教えてもらった拳法があれば、異界能力者にもある程度は対抗することができる。
第一世代を相手にするのは厳しいが、第二世代のスペックは低い。
それに最近誕生したばかりで実戦経験も少ない奴ならば、俺一人でも軽く手玉に取ることはできる。
「どうだ? もう観念するか?」
「くっそ……! お、おい! お前もぼさっと見てねえで、手を貸せぇ!」
「分かってるっつの!」
これで懲りてくれればよかったのだが、異界能力者の連中はおとなしく引き下がってくれない。
これまで様子を伺っていたもう一人も加勢に入り、流石に俺一人では分が悪いと思ったが――
ギチチチ!
「ほらほら。一般人一人相手にこれ以上醜態をさらしたら、それこそ異界能力者の名折れになっちまうぞ?」
「い、いでぇ!? な、なんだよ、おっさん!? あんた刑事だろ!? 高校生にこんなことしていいのかよ!?」
「普通の高校生にはしねえけど、異界能力者なら話は別だ。お前らの能力で下手に暴れられても困るし、そもそも警察の手が届かないなら、俺が何したって構わねえだろ?」
――どうやら、風崎刑事が止めてくれたようだ。
もう一人の異界能力者の腕の関節を極め、身動きが取れないようにしている。
単純に個々の体術勝負になった場合、この二人の異界能力者に勝ち目があるようには見えない。
そもそも体術に関してだけ言えば、俺より警察で柔術も覚えている風崎刑事の方が上だろう。
「く、くっそぉお! 俺達にこんなことして、タダで済むと思ってんのか!?」
「だったら素直に特務局にでも報告すればいいじゃん? 『一般人に喧嘩を吹っ掛けたら、返り討ちに遭いました』ってね」
「ウハハハ! そりゃあいいな! そうすれば特務局の連中も、こっちに注意を入れてくれるかもな! それよりもお前らが叱られそうだけどよ!」
結局俺と風崎刑事にいいようにやられた異界能力者の二人だが、なんとも無様な醜態ばかり晒している。
俺の悪意満点の提案と風崎刑事の爆笑する姿を見聞きして、これまで好き放題に言っていた異界能力者は顔を真っ赤にしている。
それはさっきまでの怒りによるものと言うより、恥ずかしさによるものだろう。
『魔法の力を授けられた、誰よりも強い異界能力者』というプライドを、真正面から叩き壊されたことになるのだから当然だ。
「お、おい! もう引き上げるぞ!」
「お、覚えてろよ!」
「いつの時代の三流悪役だよ……」
そんな醜態ばかり晒していた高校生の第二世代異界能力者の二人だが、なんともお約束な捨て台詞を吐いて、その場から逃げ出していった。
――こういうこと自体は俺も姉村便利事務所の仕事をする中で、何度も出くわすことはある。
そのたびに喧嘩を吹っ掛けられることもあるが、姉村所長が護身術として教えてくれた拳法が役に立っている。
異界能力者の能力は強大だが、強大すぎるゆえに使いどころは限られてくる。
作戦を立てたうえでそれぞれの能力を活かし、犯罪を鎮圧することが主となっているが、個人での喧嘩ではさっきのように格闘技の覚えがある人間ならば対処のしようがある。
それに魔法という力に溺れているのか、まともな対人戦の訓練を受けている様子も少ない。
「ああいう姿を見てると、俺は異界能力者に選ばれなくてよかったなー、とも思いますね」
「異界能力者の力を手に入れたのは、その時点で中学生や高校生の連中だ。まだまだ世間知らずのガキが身に余る力を手にしても、使い方なんてわかりゃしねえんだろ」
「……まあ、俺も五年前は似たような感じの不良でしたけど。それに、俺も世間的に見ればまだまだガキでしょう」
「……黒間。お前、不良から更生はしたけど、どこか違う方向に擦れてるな」
俺は内心で思っていたことを風崎刑事に語りながら、ついでに憐れむような眼で見られてしまう。
確かに擦れてるのかもしれないが、このスタンスの方が俺の心は安定する。
言うなれば、昔の俺とは真逆に位置する今の俺のスタンス。
もしも俺の心が昔と同じままだったら、さっきの異界能力者と似たような人生を送りそうで怖い。
姉村所長に拾ってもらい、そこから立ち直り、異界能力者になれなかった代わりに努力することで手に入れた今の俺の力。
今の俺にはこの力が必要だし、それを無闇に振るうつもりもない。
――力は使いどころを間違えれば、人を不幸にしてしまう。
そのことを両親の死から、俺は嫌というほど学んでる。




