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Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
4th day:Warning for further danger
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深淵を知る者の警告

「か、風崎刑事? もしかして、わたし達のことをずっとつけてた?」

「悪いね、白峰ちゃん。少しの間、俺と黒間だけで話がしたい。先に帰っててくれるか?」


 俺と白峰のことをつけていたのは、ついさっき話題にも挙がっていた風崎刑事だった。

 白峰も不安そうに口を開くと、風崎刑事は優しく諭すように白峰だけ先に帰そうとする。


 ――どうやら、俺達がバーのマスターと会っていたこともバレているようだ。

 俺に視線を向け直した風崎刑事の表情は険しくなり、俺と二人だけで話をしたいのが見て取れる。

 マスターとの話の内容についても、おおよその検討は付けられているのが分かる。


「……大丈夫だ、白峰。風崎刑事の言う通り、先に帰っててくれ」

「で、でも……」

「安心しろ。風崎刑事が相手なら、殺されるということまではない」


 不安そうに俺のことを見る白峰に、風崎刑事の言葉に従うように促す。

 確かに『殺される』ということはないだろう。

 それでも、風崎刑事が俺をただで帰すようには到底見えない。


 ――マスターも言っていた『荒事に巻き込まれる』という話に、こんな形で出くわすとは思わなかった。


「そ、それじゃ、わたし、先に帰るね?」

「ああ。気をつけて帰れよ」


 白峰は最後まで不安そうだったが、ひとまずは俺の意志を尊重してくれた。

 何度かこちらを振り返りながらも、一人で帰路へとついてくれる。


 ――ここからは俺と風崎刑事の問題だ。

 俺の身勝手で、白峰まで巻き込むわけにはいかない。


「……その表情。俺が何を言いたいのか、お前も分かってんだろ?」

「そうですね。あらかたの検討は付きます」

「だったら、まずはおとなしくついてきてくれ。人のいないところで話がしてえ」


 一人残された俺は風崎刑事の言葉に従い、人のいない場所へと連れていかれる。

 この様子だと、やはりただ話をして終わりにはならなさそうだ。





「……よし。ここなら、聞き耳を立てる輩もいねえか」

「廃ビルの一室ですか……。まるで今から取り調べでも始めそうな雰囲気ですね」

「そいつは余裕でもかましてるのか? 今から本当に取り調べをするんだよ」


 俺が風崎刑事に連れられてやって来たのは、今は誰も使っていない廃ビルの一室だ。

 机が一つとパイプ椅子が二つ。窓からわずかな光は差し込むが、逃げ道などどこにもない。


「ほれ、座れ。早速だが、お前達が何をしてたのかについて、俺も話を聞かせてもらう」


 俺は風崎刑事に促され、机を挟んで向かい合ったパイプ椅子に座る。

 まさに取り調べによる尋問。本職の刑事が相手なのだから、そう思わずにはいられない。

 そして、風崎刑事が俺から聞き出そうとする話は――




「黒間。お前はあのバーで、真帝会について調べてたんだろ?」




 ――やはり、この話だ。

 風崎刑事もあのバーのマスターが真帝会について詳しいことは承知している。

 俺の眼前で机に肘をつきながら両手を組み合わせ、睨むような眼光をこちらに向けてくる。


「……想像の通りです。例の連続殺人事件を追うためには、どうしても真帝会の情報が必要でした」

「俺、お前に何回言ったっけ? 『真帝会には関わるな』ってよ? 俺の話を理解できなかったのか?」


 こちらの魂胆がバレている以上、隠し立てする意味もない。

 俺は風崎刑事の望む通り、バーで真帝会の話をマスターから聞いたことを正直に話した。


 ――その話を聞いた風崎刑事の表情は一層険しくなり、椅子から立ち上がって机に手をつきながら俺の方に迫ってくる。


「いくらお前が姉村便利事務所の調査員として連続殺人事件に協力してても、世間的に見れば二十一歳のまだまだガキだ。そんなガキが真帝会なんて裏の闇にまみれた組織に関わって、無事でいられると思ってんのか? ガキの遊びじゃねえんだぞ?」


 風崎刑事は俺も見たことのない剣幕で、俺に詰め寄ってくる。

 完全に尋問状態だ。風崎刑事は意地でも俺が真帝会に関わるのをやめさせたいのが分かる。


「風崎刑事の話は分かります。ですが、このままでは殺人犯に迫ることもできません。そもそも、風崎刑事がそこまで『俺が真帝会に関わることを拒む理由』の詳細を、話してはもらえませんか?」

「……質問してるのは俺だぞ?」

「俺がバーのマスターから聞いたのは『真帝会が創設十年ほどの極道組織である』ことと『噂されるフィクサーの後ろ盾で急成長した』という話です。……俺が調べたことについては話しました。今度は風崎刑事も質問に答えてください」

「チィ……。いけすかねえ奴だぜ」


 風崎刑事がただで納得するとは思えない。それならば、俺も包み隠さず全てを話し、逆に風崎刑事の隠している事情を聞き出す。

 俺の言葉を聞くと、風崎刑事は苦い顔をしながらも椅子へと座り直し、言葉を紡いだ。


「俺は今でこそ捜査一課にいるが、八年ぐらい前までは組織犯罪対策課にいたんだ」

「組織犯罪対策課……。所謂『マル暴』ってやつですか」

「ああ、そうだ。だから真帝会のことも、設立当時から知ってる」


 そこから少しずつ話してくれるのは、風崎刑事と真帝会に関する因縁話。

 風崎刑事がマル暴の出身ならば、極道組織である真帝会のことをよく知っているのにも納得だ。


「俺がまだマル暴に配属されていた当時、真帝会は指定暴力団に認定された」

「そうでしょうね。真帝会の組織力がその当時強大だったことは、当時を知らない俺でも分かります」

「だが、問題はここからだ。それこそが、俺が真帝会を危険視する最大の理由になってる」


 さらに話を続ける風崎刑事の表情は尚も険しい。

 俺にもようやく、ここまで関与を拒む理由を話してくれるのだが――




「警察データベースにおいて、真帝会が『指定暴力団であるという記載』そのものが、極秘裏に改ざんされてたんだ」

「警察の所持するデータが……改ざん!?」




 ――その話は俺の想像を超えていた。


「世間に出回るアングラ雑誌には、真帝会は『指定暴力団である』ことになったままだ。だが、警察のデータ上において、真帝会は『指定暴力団ではない』ことになってる」

「そ、それってつまり、警察内部やその上層部によって、事実が挿げ替えられていたということですか?」

「ああ。だから真帝会は他の極道組織と違い、暴対法による締め付けも緩かった。どれだけその裏にヤバいものが見えても、警察は公に動けなかった。データ上だけではなく、真帝会は実際の捜査の手からも逃れていた。……これが何を意味するかは、言わなくても分かるな?」


 さらに紡がれる風崎刑事の言葉によって、否応にも俺は理解してしまう。

 真帝会がフィクサーの後ろ盾を得ている可能性が高いことは知っていた。

 だが、風崎刑事が握っていた情報は、それを噂だけに終わらせず、完全に事実とする証明。警察をも動かしていたという真実。


 ――これまで俺は真帝会について、どこか噂レベルの話だと高をくくっているところがあった。

 それも風崎刑事の話を聞くと、一気に現実となってのしかかってくる。




 ――俺のような人間一人に、どうこうできる話ではない。




「これで分かったな? もう真帝会には関わるな。あそこのマスターにも近づくんじゃねえぞ。お前が渡ろうとしてる橋がどれだけヤバいものか――」

「……いいえ。俺は真帝会への捜査をやめる気にはなれません」

「……ハァ?」


 それでも、俺には真帝会を調べる理由がある。

 ここで俺の気持ちを断ち切ろうとした風崎刑事だったが、俺が拒絶したことで顔には明確な怒りがこみ上げている。


「真帝会の恐ろしさは分かりました。ですが、ここで調べることをやめれば、連続殺人も終わりません。このまま後手に回っていると、あの殺人犯による被害は拡大する一方です。それこそ、真帝会による被害以上に」

「連続殺人と真帝会を天秤にかけろと? 最もなことを言うようだが、それとこれは別の話だ」

「確かに形式上はそうかもしれません。ただ、俺はこんなところで投げ出したくないんです。今だって必要性が増しているからこそ、俺は真帝会のことを調べています」


 尚も俺は風崎刑事と押し問答を続けるが、こっちだって引く気はない。

 今のこの現状において、真帝会を調べることの必要性は以前とは大きく違う。




 ――ここで俺が折れてしまえば、連続殺人犯にもたどり着けない。

 そうなれば、いずれ一番危うくなるのは白峰だ。

 俺は自分に心の中で言い聞かせ、風崎刑事と睨み合う。




「……どうにも、折れる気はねえってことか」


 そうした睨み合いをしばらく続けていると、風崎刑事がパイプ椅子から立ち上がった。

 俺の話を聞いて諦めたわけじゃない。むしろ、強硬手段を使うような気配――




「立て、黒間。今回は俺も本気でやらせてもらう。お前をしばらくの間、捜査も何もできねえ体にしてやるよ……!」




 ――予想はできていたが、やはり荒事になった。

 風崎刑事は俺を手招きしながら、勝負を挑んでくる。


「現職の刑事が喧嘩を申し込むなんて……。これって、決闘罪じゃないですか?」

「安心しろ。そんな理由で逮捕はしねえ。ついでに言えば、公務執行妨害も気にする必要はねえさ」

「……本当に本気なんですね?」

「当たり前だ。お前の両手足をへし折れば、それでもう捜査はできねえだろ……!」


 現職の刑事とは思えないほど、粗暴極まりない物言い。

 それでも、この人は本当にやるつもりだし、それができるだけの実力がある。


 ――聞いた話になるが、風崎刑事は警察内部の柔術大会で、これまで何度も優勝する腕前を持っている。

 対して、俺は五年そこらで拳法を学んだレベル。単純な格闘勝負において、俺の実力など風崎刑事には本当にガキを相手にするものだ。




 ――それでも俺はパイプ椅子から立ち上がり、風崎刑事と向かい合って構える。

 俺だって、この殺人事件の捜査を『ガキの遊び』だなんて思ってはいない。

 本気で解決を望むからこそ、俺も本気でぶつかり合う。




「……覚悟はいいな? どんな結果になっても、恨むんじゃねえぞ?」

「それは覚悟の上です。俺だって、引けない理由がありますから……!」


 風崎刑事も俺に向かって構えを取り、互いに臨戦態勢に入る。

 俺も腹を括るしかない。事件の先を見るためにも、負けるわけにはいかない。




「俺の半分しか生きてねえガキが、知った口を利くんじゃねえぞぉお! 黒間ぁああ!!」

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