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Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
12th day: Justice of the chosen one
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始まりと終わりの二人

 宮倉幹事長に幕川総理。フィクサーと真帝会会長。

 その二人からも話を聞き、これからの動きを決めた後、俺達は再び慣れ親しんだ街並みへと戻って来た。

 現在、最後の作戦に参加するメンバーは別々に準備を行っている。


 風崎刑事は警察署にも話を通し、裏で行われている異界能力者(エリアンアビリター)の暴動対策への確認を。

 西原さんは女神のもとに乗り込むために、五人乗れるバンの手配を。

 鬼島さんは俺が頼んだ、緑蓮寺対策となるある道具の準備を。


 ――そして俺は、最後の一人と話をつけるために、とある病院の屋上へとやって来た。




「わざわざこの病院まで、ご足労願えましたか」

「あんたが話を通してくれてたおかげで、俺もすんなりここに案内してもらえたよ」

「受付の人間も、米軍を通して自分とパイプがあります。こちらとしても、あなたから情報を得るためには、窓口が必要でしたので」




 少しの間、俺が屋上で夕陽を見ながら黄昏ていると、目的の人物も屋上へと上がって来た。

 こいつは昨日、俺に『家族と会ってくる』と言っていた。それはつまり『家族のいる場所で待っている』ということ。

 異界能力者(エリアンアビリター)のせいで植物状態となった姉のことを想い、殺人鬼となってもまだ近くにいようとする最大の犠牲者――




「ミスター黒間からこちらに来たということは、何か情報を掴めたということですね?」

「ああ。あんたの望む情報が手に入ったぞ。……ラルフル」




 ――ラルフル・ボルティアーク。

 俺はそいつの願望通りの情報を携えて、再びこの連続殺人犯と会うことになった。


「俺やその協力者の方で、異界能力者(エリアンアビリター)とも関係性の深いフィクサーの一派と接触できてな」

「フィクサー……ですか。それが事実ならば、さぞ価値のある情報なのでしょう」


 ラルフルと再会した俺は、まずはフィクサーに関する話を説明した。

 この際、真帝会会長である幕川総理や、フィクサーである宮倉幹事長の名前を出す許可も貰っている。

 ラルフルを動かすためには、情報の信憑性が鍵となる。

 あの二人も全ての事件に決着がついた後、政界からも引退する覚悟で、俺がラルフルを説得できるように取り計らってくれている。


 それらの事情も含めて、俺はラルフルへの説明を続けていく。


「……成程。それで、あなた方はその脳死状態の女神の生命維持装置を停止させ、異界能力者(エリアンアビリター)からその能力を奪ってしまうつもりなのですね」

「そういうことだ。その鍵となるのが、あんたも狙ってたこの姉村所長から託されたデバイスだ。そして、その作戦にはあんたの力も借りたい」

「わざわざそのために、ミス姉村が提案していた自分への超法規的措置を、そのフィクサーに願い出てまで……ですか」


 ラルフルは俺の説明を黙って聞き、理解を示してくれた。

 単純に考えれば、ラルフルのこれまでの殺人罪をもひっくり返すことができ、異界能力者(エリアンアビリター)への復讐も果たせるという、またとない機会。

 少しの間、ラルフルも考えるそぶりを見せるが――




「……いいでしょう。あなた方の作戦とやらに、自分も協力します」




 ――俺の願い通り、協力を容認してくれた。


「協力してくれることには感謝する。だが、この作戦は異界能力者(エリアンアビリター)を殺すことが目的じゃない。これまでみたいに、異界能力者(エリアンアビリター)を殺すような真似はするなよ?」

「それがミスター黒間とも因縁深い、正義四重奏ジャスティスクインテットの緑蓮寺であってもですか?」

「緑蓮寺が相手でもだ。どの道、この作戦が成功すれば、異界能力者(エリアンアビリター)の存在そのものが白紙に返る。命を奪う必要性はどこにもない」

「……あまり面白くはありませんね。異界能力者(エリアンアビリター)としての能力がなくなっても、その人間の罪がなくなるとは思えませんが……まあ、いいでしょう。自分もその作戦に参加させていただけるのならば、多少の不満も甘んじて受け入れます」


 協力してくれるとはいっても、ラルフルも完全に納得してくれたわけじゃない。

 その身に宿る膨大な復讐心ゆえか、異界能力者(エリアンアビリター)の能力が奪われるだけでは飽き足らず、あくまで殺すことに固執している様子が伺える。

 それでも一つの妥協点なのか、俺の望む通りに殺すことはしないと口では述べてくれている。


 ――そうは言っても、ラルフルは以前に正義四重奏ジャスティスクインテットの赤森を俺がいる場で殺害している。

 俺を守るためだったとはいえ、あのような事態は勘弁願いたい。


「それじゃあ、以前に俺達とも落ち合った高速道路のサービスエリアに、明日の午前一時に来てくれ。そこで全員と合流して、緑蓮寺の後を追うように、女神の居場所へと突入する」

「いいでしょう。自分の方でも準備はしておきます。相手はこれまでの異界能力者(エリアンアビリター)の中でも最強です。かつてない激戦を予想しておいてください」

「そんなこと、言われなくても分かってる」


 俺はラルフルに集合場所と時間を伝えると、足早にその場を後にしようとした。


 ――ここでした説明の中に『女神の肉体を吹き飛ばせば、異界能力者(エリアンアビリター)は死に絶える』ことについては触れていない。

 そんなことを伝えてしまえば、俺の選択など関係なく、ラルフルはそちらを選ぶだろう。

 誰よりも異界能力者(エリアンアビリター)によって人生を狂わされたラルフルにならば、俺と同じように選択する権利はある。

 だからといってその権利を与えてしまうと、俺の選択とここまで繋いでくれた人々の思いが無駄になる。


 ――俺にとっては、姉村所長や白峰が繋いでくれたこの道を、もう曲げるようなことはしたくない。




「……ミスター黒間。最後に一つだけ、自分からの質問に答えてくれませんか?」




 そんな思いを抱きながら俺が屋上の出口へ向かうと、背中の方からラルフルが声をかけてきた。

 俺は何か嫌な予感を感じながら、背を向けたままその質問に耳を向けるが――




「なぜ、女神の生命維持装置を停止させるなどという、回りくどい真似をするのですか? 脳死状態の女神を肉体的にも殺すだけならば、その身を吹き飛ばしてしまっても良いのではありませんか?」




 ――俺が一番聞かれたくなかったことを、ラルフルは尋ねてきた。


「……場所的に、そんな簡単な話じゃない。こちらも女神のいる施設の状況が分からないし、デバイスの停止コードを使うのが一番確実だ」

「そのデバイスや停止コードにしても、本当に必要なものですか? どうせ女神のもとまで行くならば、その場で爆薬を使って吹き飛ばすのも、同じことだと思いますが? それとも、何か別の『爆薬が使えない』理由でもあるのですか?」


 俺はラルフルに背を向けたままだが、その口ぶりから『女神の肉体がなくなることでの影響』に感づいているのは分かる。

 恐ろしくなりながらも、俺はラルフルの方へと振り向いて言葉を交わす。


「……異界能力者(エリアンアビリター)との決着を優先するなら、今は黙って俺の言葉に従ってくれ」

「そのように言うということは、女神の肉体自体にも何かしらの因果関係があるということで?」

「俺からは何も言えない。それでも、どうかこの作戦を成功させるためにも、その力は貸して欲しい。……頼む!」


 俺はただただ頭を下げ、ラルフルがこれ以上の言及をしないように頼んだ。

 俺から本当のことは言えない。そんなことを言えば、ラルフルは間違いなく女神の肉体をも処分しようとする。

 当初の目的が果たされないという思いもあるが、ラルフルと俺の境遇は似通っている。

 俺もラルフルも、異界能力者(エリアンアビリター)によって不幸のどん底に叩き落された立場の人間だ。




 ――俺はそんなラルフルにこれ以上、人殺しをさせたくない。

 姉村所長の願いをも託された今、その思いは強くなっている。




「……仕方ありませんね。ひとまずはミスター黒間達の作戦に従いましょう。……『ひとまず』はですが」

「ラルフル……」


 ラルフルの力だけを頼りにし、全ての事実を伝えない。こちらが卑怯なのは分かっている。

 それでもラルフルは俺の願い通り、それ以上の言及は控えてくれた。


 ――ただ、それはあくまで一時的なものでしかない。


「自分からの質問は以上です。時間になれば、自分もその場に現れます」

「……分かった。こっちも待ってるぞ」


 俺は今度こそ別れの言葉を交わし、ラルフルのいる病院を後にした。


 ――ラルフルは協力こそしてくれるが、味方になってくれたわけではない。

 覚悟はしていたが、どうしても不安要素は残ってしまう。


「……だけど、これで戦力は揃った」


 それでも俺は自らに言い聞かせるように、帰り道で独り呟く。


 異界能力者(エリアンアビリター)の誕生。ラルフルという怪物の誕生。

 連続殺人事件の捜査。異界能力者(エリアンアビリター)の捜査。

 白峰の死。姉村所長の死。


 ここまで本当に色々あったが、異界能力者(エリアンアビリター)の歴史を終焉させる準備は整いつつある。

 後はその時を待つだけだ。



 ――これまで異界能力者(エリアンアビリター)と戦ってきた俺達五人により、その全てに決着をつける。

 それが俺の選択で、託された正義だ。

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