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Force of the JUSTICE  作者: コーヒー微糖派
1st day:Serial killer lurking in a strange world
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選ばれなかった者

物語一日目。

〔変化した世界に潜む連続殺人犯〕

『――以上の通り、政府が特別指定した異界能力者(エリアンアビリター)の活躍によって、また一件の事件が解決されました。続いて、最近地方で起きている連続殺人事件についてですが――』



 ガチャン



「ちょっと、所長。またテレビをつけっぱなしで寝てたんですか?」


 俺が事務所の扉を開けて中に入ると、誰も見ていないテレビが映ったままだった。

 一応、ここに人はいるのだが、当人はデスクの上で顔をうずめ、いびきをかいている。


「グガー、グガー……んぅ? あぁ、ツッ君か。おはよう」

「おはようじゃないですよ。もう午前九時ですよ? 俺が出勤するまでに、身だしなみぐらい整えてくださいよ」

「いいじゃーん。この事務所、私の家だもーん」


 俺が注意した事務所の主は、気だるそうに頭をかきながらようやく目を覚ました。

 この人は俺の上司にあたるのだが、とにかくだらしがない。事務所兼自宅であるこの場所も、とにかく散らかり放題だ。

 身なりを整えればかなりモテそうな女性なのだが、このだらしなさが全てを台無しにしている。


「それじゃあ、所長。今日もよろしくお願いしますね」

「ふあ~い……。カップ麺食べる~……」

「もう就業時間ですよ……。どんだけ自由なんですか……」


 だらしなく積まれたカップ麺の一つを取り出す上司を尻目に、俺は壁にかかった出勤札をひっくり返す。

 上司がこんな感じなため、細かいところは俺がしっかりしないといけなくなってしまう。



『所長:姉村(あねむら) 明日葉(あすは)。出勤』

『調査員:黒間(くろま) 次彦(つぎひこ)。出勤』



 ――と言っても、社員は俺と姉村所長の二人だけなのだが。


 ここは『姉村便利事務所』。

 社員二人だけで経営している『とある分野専門』の便利屋だ。


異界能力者(エリアンアビリター)がまた事件を解決したんだね。と言っても、これは都心の方の事件かな?」

「みたいですね。都心はここみたいな地方と違って、異界能力者(エリアンアビリター)の拠点にもなってますから、犯罪への対処も早いのでしょう」


 カップ麺にお湯を注ぎ終えた姉村所長は、ソファーに座ってそのカップ麺を抱え、テレビのニュースに目を向け始める。

 俺も出勤前に買っておいた缶コーヒーを開け、その後ろで立ちながらテレビの話題に乗っかる。


 連日ニュースで話題になる存在――異界能力者(エリアンアビリター)

 それは現在の日本において、治安維持の要となっている人間のことだ。

 五年前に日本で起こったある出来事により、この世界に顕在した魔法のような能力。

 その能力を手に入れた人間の呼称が、異界能力者(エリアンアビリター)だ。


「ツッ君はさ、今でも自分が異界能力者(エリアンアビリター)になれなかったことを、悔んだりしてないの?」

「『全くしてない』と言えば嘘になりますが、一つの踏ん切りはついてますよ」

「ツッ君はまだ二十一歳なのに、どこか悟ってるようで可愛げがないよね」

「……それを言うなら、三十一歳の所長も大人げないですよ」


 俺は所長の質問に適当な返事を返しつつ、五年前のことを思い出す。

 それはこの日本の――いや、世界が塗り替わるほどの出来事だった――





「この世界の皆様。私はこことは異なる異世界よりやって来た者です」


 あの日、日本の上空に突如として、『異世界からの来客』を名乗る女性が舞い降りた。

 その姿はまさに漫画やゲームでもよく見る、ファンタジー世界の女神と言った姿だった。

 全国の放送局もその姿をカメラに収め、全国民へと配信されていた。

 そしてその女神のような女性は、自分の姿が日本全国に配信されていることを確認すると、突然こんなことを語り始めた――




「この国の信心深い少年少女に、私の力を授けます。その力をもってして、この世界の秩序を作り上げてください」




 ――その言葉と共に、日本中の中学生や高校生の身に、まさにファンタジー世界の魔法とも言うべき力が備わった。

 思うがままに炎を操る能力。空を自在に舞う能力。傷を回復させる能力等々。

 その種類は多岐に渡るが、それは中学生や高校生なら誰もが憧れる、空想の世界の力だった。


「すっげえ! 本当に魔法が使えるのか!?」

「これって、私達に敵はないってことじゃない!?」


 能力を手にした者はその天からの授かりものに感謝し、瞬く間に日本政府の重要人物へと祭り上げられていった。


 ――そして現在、そういった人間が異界能力者(エリアンアビリター)と呼ばれ、この日本の秩序の中枢となっている。


「なんだか、うさん臭い話だよな……」


 ただ、その力は全ての中学生や高校生に備わったわけではなかった。

 当時の俺はいわゆる不良の高校生で、世の中の出来事に徹底的に反発していた。

 当然、突然世界に現れた女神のことも信じず、ただうさん臭さしか感じなかった。

 俺と同じように考えていた人間は同世代にもそこそこいた。


 ――それが女神にとって『信心深い少年少女』に該当しないということだったのだろう。

 俺を含めた『女神のことを疑った人間』は中学生や高校生であっても、その魔法の力を手にすることはなかった。

 内心ではケチな女神だとも思った。

 だが、そんな女神に直接愚痴を言うこともできず、当人は該当者に能力を与えるだけ与えて、姿を消してしまった。




 ――それだけならまだよかったが、俺にとって本当に『悔やんでいること』はその後に起こる。




「お、親父!? おふくろ!? なあ! 目を覚ましてくれよ!? なあぁ!?」


 ――異界能力者(エリアンアビリター)が誕生して少しした後、俺の家族は突如殺されてしまった。

 犯人はすぐに分かった。俺と同じ高校に通っていた同級生で、俺とは違って異界能力者(エリアンアビリター)に選ばれた男子生徒三名だ。

 当人達は『手に入れた能力の試し打ち』程度の気持ちで、俺が住んでいた家にその能力を行使したようだ。

 当時不良だった俺への当てつけの意味も含めて、俺の家をターゲットにしたそうだ。

 三人によってそれぞれ放たれた炎や風の魔法が俺の家をなぎ倒し、中にいる両親をも死なせてしまったのだ。




 ――ただ一人、当時家にいなかった俺だけは助かってしまった。




「なあ!? あの三人を逮捕してくれよ!? あんたら警察だろ!?」

「悪いが、あの三人は異界能力者(エリアンアビリター)だ。政府でも重要な存在のため、警察で介入することはできない」

「そ、そんな……!?」


 さらに最悪だったのが、俺の両親を殺した異界能力者(エリアンアビリター)の三人は『政府にとって重要な存在』というだけで、逮捕されることも法で裁かれることもなかった。

 結局、この事件は『異界能力者(エリアンアビリター)の能力に慣れていない三人が起こした事故』として処理され、世間からも揉み消されてしまった。


「なんでだよ……! ただ唐突に力を手に入れただけで、そんなに擁護されるもんなのかよ……!」


 俺はそんな世間に絶望した。

 いくら不良ではあっても、家族に死なれるのは辛い。

 いっそこのまま死のうかとも思った時、俺はあの人に出会った――




「君が異界能力者(エリアンアビリター)の騒動に巻き込まれた家で、唯一生き残った少年――黒間(くろま) 次彦(つぎひこ)君だね?」




 ――姉村(あねむら) 明日葉(あすは)

 後に俺の仕事の上司となる女性だ。


「君、行く当てはあるのかな?」

「そんなもん、どこにもねえよ……」

「……もし君がよければだけどさ、ウチで働いてみないかな? 今は私一人だけの小さな事務所だけど、男手も欲しかったんだよね」


 その女性は身寄りのない俺を、自らが経営する事務所へと招き入れてくれた。


「な、なんで俺なんかを……?」


 申し出自体は身寄りのない俺には嬉しかったが、その理由が俺には分からなかった。

 そもそも俺は素行もよろしくない。当時は不良として警察の世話になったりもしていた。

 ただ単に同情したのかもしれないが、そんな俺の疑問にも彼女は答えてくれた――




「私の仕事は『異界能力者(エリアンアビリター)による被害を受けた人間を助ける』こと。だから、君のように苦しみをよく分かっている人間が欲しかったんだよ」

黒間くろま 次彦つぎひこ

主人公。21歳男性。姉村便利事務所の調査員。


姉村あねむら 明日葉あすは

黒間の上司。31歳女性。姉村便利事務所の所長。

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