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 幕間 アラールドでの休日

補足話です。知ってたら面白くなる程度のものかもしれないしそうでないかもしれない。良ければ読んでみて下さい!



「ーーー殺した。人を……しかもーーーぅぇっ、ーーーしかも、シドラスさんの……恋人なのに……僕は、僕は!!」


 キメラ掃討の後。人前での緊張感だったのか、部屋に戻ると、僕は、その場で崩れ落ちた。目からは涙が溢れ、嗚咽、胸の苦しみが最大限まで大きくなる。まるで、大きな手に握られてるみたいだ。

 もちろん、リフィアも一緒にいるし、ルイーナは仮憑依状態でここにいる。でも、やっぱりこういう感情の波は、心許せる人の前でしか発散できない。

 すると、リフィアは僕の目の前でしゃがみ込み、目線を合わせ、僕の左肩に手を置いた。

 

「ヒノヤは確かにサニラスを殺した。それは間違いでもないし、言い訳もできない事だ。でも、ヒノヤは、仕方無かったなんて思ってる訳ではない。ちゃんと反省している」


 きっとリフィアの目には、僕のぐちゃぐちゃな泣き顔が写っている事だろう。

 僕は、今にも潰れそうな喉に力を入れて、精一杯の言葉を発した。


「でも……僕はあの時、殺そうと……思ってた。反省なんて、出来るもんか」


「それは違うよぉ、ヒノヤちゃん」


 次いで話し掛けて来たのはルイーナだ。


「ヒノヤちゃんはあの時、殺そうと思わされていたんだよぉ? 憑依してたわたしぃだから分かるよ」


 でも、それが《無限》の力だとでも言うのか? じゃないとしたら、誰が思わせていた?


「違うーーーぅぇっ……違うよルイ……、あれは、僕自身の……僕自身の感情なんだ。結局昔と変わってない。地球にいた時とーーー何も変わってない!」


 ギュッ、と。暖かい感触がした。


「ううん。トリンの依頼の時、あの時ヒノヤは決心したんだ。人は数日程度では変わらないし、変えられない。でも、ヒノヤは守ろうとしていた。私やルイ、シドラスにだって危害を加えたか? 加えてないだろう? だったらそれは、昔とは違うという事じゃないか?」


「ううぅ……」


「誇れ! 酷な選択だが、ヒノヤは一人を犠牲に多くを救ったんだ! それで誇らなきゃ、犠牲になったサニラスが浮かばれない」


 肩に何か染み込んで来る。あぁ、そうか……リフィアは僕の為に泣いてくれてるんだ。

 でも、誇りか。そんな大層なものを僕に持てだなんて、とてもーーーとてつもなく、荷が重い。

 だけど、


「ーーーっ、う、ん。まだ、僕は、誇りなんてものが良く分かってない…….けどーーーううん、誇るよ!」


 最初から分かっていたんだ、クヨクヨする時間じゃないって、重々に承知していたんだ。

 決心なんてすでに付いてる。

 ただ、堪えきれない感情が前向き過ぎただけだ。


「はぁい、解決解決ぅ! さ、寝ましょぅ?」


 パンっ、と手を叩き、ルイーナはそんな事を言った。

 相変わらず空気の読めない奴だと思うけど、今はそんな存在が、ありがたい気がした。




 朝日。昨日はベットに入った所まで覚えてる。相当疲弊していたのか、寝っ転がって直ぐに意識を手放した。


「うにゅ……?」


 定まらない思考回路の中。僕はリフィアだと思って抱きついていたイルカのぬいぐるみを離す。


(おはよぉ、ヒノヤちゃん。おねぇさまなら出掛けたわぁ)


 憑依した人とは一定の距離以上離れられないって誰がいったか……いや、あまり離れられなくだったっけ? 意外と口実作りが上手い様でーーーいや、寂しいとかじゃないよ!?


「そっか……。そういえばだけどさーーー」


 リフィアの意見は的を射ていて、確かに正確な気がした。だが、違和感。なにか、リフィアに対してのモヤモヤが心を満たしていた。それが何なのかは分からない、から、


「ルイは僕の特殊能力(スキル)について、どう思う?」


 と聞いた。ルイーナも僕と憑依した事ある身として、何らかの意見が生まれてるかもしれないから。


(ちょっと待ってぇ、今良いところなのぉ)


 良いところってなんだよ……、僕の中でいったい何が行われてるのさ。

 と、暫く無言で待つ。そして、数分後にルイーナは口を開いた。


(ヒノヤちゃんの特殊能力(スキル)についてだけどぉ、おねぇさまの言ってた事はぁ、あながち間違いじゃぁないよねぇ。でもぉでもぉ、わぁたしから言わせてもらえばぁーーー)


 ーーー感情を表に出す力かなぁ?


 感情? というと、直接強さとは関係が無いように聴こえる響きな訳だけど……。


(わーしだってぇ、なんでもは知らないしぃ、どちらかといえば知らない事だらけぇ。でもぉ、《無》の特徴としてぇ、《無》な人たちはぁ、感情を元に力が発揮されるぅ、の)


 力を増幅させる為に病み落ち。闇に落ちるのではなく、心が病むって言葉。それはまぁ、薄々勘づいていたとは思える。《無限》がどういう感情なのかは分からないけど。


(わたしぃの《無視》は分かり易いでしょぉ? 構ってちゃんのヒノヤちゃんはぁ、元から構ってちゃんしてたのぉ?)


「正確な所は構ってちゃんなんだけどーーーってなんか自分で言うの恥ずかしいや……、あぁ、なるほどね。無視されたくない感情が、無視させる力になる、か。なんだか嬉しくない力だね……」


 病み落ち、言い得て妙だ。


(でもぉ、ここで疑問なのがぁ、憑依について分からないからなぁんとも言えないけどぉ、ヒノヤちゃんがあの時出してた感情が《無視》ではなぃぃって事なのよねぇ)


 ピノリアは言ってた。力も病み落ちも使わずに強い、と。

《無》の力の使い方が分からなかったからそうなんだが、それよりも、《無視》を憑依して、何か違う力が働いていた。その事実が引っかかる。

 それってつまりーーー、


 そこで部屋の扉が開いた。


「おぉ、起きてたか。ヒノヤ、良ければ付き合わないか?」




「ガハハハハッ! そうかそうかぁ! 魔法をなぁ!」


 リフィアに連れてかれた先は、僕に件の短剣を打ってくれた鍛治師トリンの家であった。

 この豪快な笑い声。トリンらしいと思ってしまう。


「世紀の大発見って奴だな! そりゃあ、この俺が打った最後の作品だ! 何もない訳ないってか? ガハハハッ」


 この時初めて知ったのだが、僕の受けた炎はーーーブレスかと思ったーーー魔法であり、それを無効化もしくは吸収した事は、史上初の話らしい。


「魔法の基本は自然の力。大抵の事柄は魔法と判断されている」


 と、リフィア。

 つまりこの世界(エデノラ)でいう魔法とは、人、動物が故意的に起こす自然災害……って思っとこ。

 そう考えたらこの短剣最強過ぎじゃね?

 そんな感じで僕が思考を巡らせていると、トリンがこちらに右手を出してきた。


「どれ、坊主。ちょいと見せてくれないか?」


「あ、はい」


 僕は短剣をトリンに渡した。

 金縁が鋭く光り、柄の宝石が淡く発光しているその短剣ーーーあれ? 発光してる?


「ーーー! こりゃぁ……ガハハハハハハッ!! こいつはすげぇ、魔力を貯めてやがるぜ!」


 魔力回路とは、その名の通り魔力の回路らしい。それは主に三種類に分けられるみたいだ、

 万能……器用貧乏のそれで、多種多様な使い方が出来る。

 特化……回路を通した宝石等の力を大きくする。

 耐久……魔力を物体として具現化する事で壊れ難くなる。

 トリンの得意な鍛治は、特化と耐久みたいで、この短剣にはその二つが含まれているらしい。ちなみに魔力回路を二つ以上付与出来る鍛治師は珍しいみたいだ……トリンがドヤ顔で言ってた。


「貯蓄と放出。おそらく二つの機能が石ころ(パープル・アイ)の力だな! こりゃ鍛治学会に報告だ!」


 そうしてトリンは慌ただしく、部屋を行ったり来たりして、恐らく鍛治学会? へと出向く準備を始めた。


「世紀の大発見。トリン氏からは最高の品物を頂いたな、ヒノヤ」


「う、うん。でも僕に使いこなせるかな」


(ヒノヤちゃん、これから慣れてけばいいんだよぉ)


 トリンの名が世界に広まる日は近いのかもしれない。


「あ、後それとなぁ! その剣、名前決めてあんだよ!」


 別の部屋から顔だけ出して、トリンは言った。


「『グァタルィア』だ! 少年、頑張れよ!」


 サムズアップしたトリンの笑顔は、僕に何か熱い想いをくれた様な気がした。だから僕もトリンに続いて、


「はい、頑張ります!」


 慣れない返事を返したのだった。




 とまぁ、話の流れ的にトリン宅から出て、腹ごしらえの為食事処へと向かう事になった僕ら。

 あいも変わらず桜舞い散る道中は、風流溢れるそれで、なんだかうっとりしてしまう。


「ーーー付き合わせてすまんな」


 何気ない雑談の最中、リフィアの口から出た言葉は、まるで私事に付き合わせて悪いと告げたい言葉だった。

 実際の所、付き合ってるというよりは付いていってるだけで、悪いと思うような事ではないのだが、それでも、リフィアのこういう人を想う心は素晴らしいと思う。

 なんて、そんな偉そうなこと言える立場ではないのだけど。


「そんな事ないよ。この世界について僕は知らない事だらけで、なんなら、僕がこの世界にいる意味すら分かんないんだもん……それなら、知っている人についていくのが一番だから、ね」


(あーしぃもーーー)


 そんな言葉と共にルイーナが実体化した。

 ともすればゴスロリともとれない、黒を基調とした服装の幼女体型の、年齢不詳ちゃんがこちら、僕たちの方に笑顔を向けていた。

 ちょっとツッコミを入れるとするならば、他の人の目につくタイミングで実体化するのはやめて欲しい。上手く人が居なかったから何も言わんが。


「ーーーおねぇさま、とついでにヒノヤちゃんと一緒に居れてぇ、今、とても楽しいです。《無》として生を受けてから、こんなにも充実してるのはぁ、初めてですぅ」


 一言多いのですが……まぁ、でも、ずっと無視され続けて生きて来た彼女にとって、こうやって人との温もりというのはとても貴重な事なのかもしれない。

 口こそ悪いが寂しがり屋で、甘えたくても甘えれないこんな世界を一人で生きてきた……あ、なんか胃がキリキリしてきた。


「だぁからぁーーー」


「ーーーこれからもよろしくですぅ〜」


 嬉し涙なのかな。ルイーナから一縷の涙が落ちた。

 なんだか不思議な気分だ。地球にいた頃はこんな人に認められる事なんて無かったから、どう反応していいか分からない。けど、僕は、恐らくリフィアも、笑顔で応えていた。


 どん、。


 途端ルイーナと何かがぶつかる。


「ーーー痛ったぁ! どこ見て歩いてんのよぉ!」


 サーっ……と血の気が引くのを感じた。

 見たことある訳でもなく、噂を聴いた事もない。完全初対面で誰なのかは分からないのだけど、僕は何故か恐怖した。

 銀短髪をオールバックにし、切れ味のある緋色の瞳。身長は二メートルは超えてるんじゃないかってくらいで見下ろされ、この街に似合わない黄金の鎧を身に纏っている。威圧感たっぷりに睨み付けられ、縮こまってしまう。

 ルイーナから見たら巨漢も巨漢、よくあんな言葉が言えたもんである。


「ーーーちょっ、うぐぇ!」


 ガッ、と。その男はルイーナの胸ぐらを掴み、自身の目線の高さまで持ち上げた。

 そして、


「お前、俺を知らないな。よく覚えておけ」


「ーーーぐぇっ!」


 ドゴッと鈍い音と共にルイーナの身体は宙に舞っていたのだった。

 スタスタと男はルイーナが落ちた方へと歩いていく。

 それに気づいたルイーナは「やめっ……やめ……」と涙を流し、失禁した。石造りの舗装路が黒くなっていく。

 しかし、そんなものを一瞥もせず、男はそのまま去っていったのだった。


「《絶対君主(キング)》なんでこんな所に……」


 僕と一緒に呆けていたリフィアはそんな一言を漏らしたのだった。




 食事所では無くなってしまい、ギルドに戻り、僕とリフィア、仮憑依状態のルイーナは、リフィアの知識を元に勉強会? をする事となった。勉強会というよりは知識の共有か……。


 いわく、絶対に負けない。

 いわく、完璧超人。

 いわく、そのものが戦争。


「キングは、この世界において最強の冒険者だ」


 ギルドの最強格と呼ばれる屈指の一人らしい。


(でも、あたしぃ、あいつ嫌いぃ……)


 ルイーナにとって最高のトラウマを植え付けられたようで、今でも震えてるのが分かる。


「恐らくキングは転生者(リバイバー)。ヒノヤのとこで言うトランプ? を元に《妖艶輪廻(クイーン)》と《永久狂気(ジャック)》と共に一時の世界平和を実現させた、いわば英雄って奴だ。ジャックもクイーンも、この調子ならリバイバーだろう」


「なんか厨二病真っ盛りな二つ名だなぁ……なんて」


 正直興味ありありだけど、怖すぎて近づきたくないのが真実。言ってしまえば転生チートの成功者で、今や英雄。羨ましい事ありゃしない。


「しかしながら、彼、彼女達の力の秘密を知っている者は居ない……名が体を表すーーー二つ名に相応しい何かであるのは間違い無いのだがな……まるで勝てる気がせん」


 ともあれ、触れない神に祟りなし。今後その人達と関わる事がないように願うしかない。


 こうして僕達の一日は、なんだか煮え切らないもので終わり、今後の方針等は後回しになった。ほんと、とんだ一日だった。

新しい情報が増えてまいりました。果たしてこの先どうなっていくのでしょう……とても楽しみです!!

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