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 8話 敗戦

前回に引き続き、キメラ掃討作戦です。



 力が湧いてくる。相も変わらず僕の身体は女の子のそれに成り替わり、黒を基調にしたショートドレスを身に纏って、戦場で踊っている。


 サニラスがなんらかの攻撃を受けた直後の出来事。

 ガラス筒に保存? されていたキメラ達が一斉に飛び出して来たのだ。奴が()()()瞬間に。

 これは相手方になんらかの能力があると思っていい出来事なのだけど、今の時点では明確にどんなものなのか仮説すら立たない。


「ヒノヤ、ルイと憑依してくれないか? 流石の私も()()でこの数を捌くのは時間が掛かってしまう」


 つまるところ、後方の二人は戦力外通告という事で、僕は戦力通告……正直憑依の力が未知数な以上、命のやり取りはご遠慮したいんだけど。


(ヒノヤちゃん、やるよ!!)


 ここぞとばかりにやる気を見せるルイーナであった。


 そこから僕はルイーナと憑依して、縦横無尽に駆け回り、キメラを一太刀で絶命させていたのだ。

 第三者から見たら、漆黒の瘴気を身に纏った幼女が、無駄のない的確な動きで敵を殺してるーーーだ。


(ヒノヤちゃん右!)


 突貫して来たキメラを華麗に躱し、すれ違いざまに頭を切り落とす。別に言われなくても気付いてたし、人類を死に脅やかす敵……逃す通りはない。


(後ろ!)


 しかしながら、やはり慢心。目に見えて強くなったのは明白だが、自身の視野外の出来事は普通感知出来ない。

 どうやらこちらに炎を吐いて来たキメラは、他の個体と違い、頭がドラゴンーーー本物を見た事ないので多分だけどーーーで、ひと回りくらい大きい。

 僕は背中に炎を受けた……が、

 紫色の発光。

 石ころと呼ばれる宝石(パープル・アイ)から作られたその短剣は、なるほど道理で、どんな加工、装飾が施されても効力を発揮しない訳だ。

 発揮させようとするではなく、発揮してしまうーーーつまり自動発動型。なんらかの条件を持って始めて効力を発揮する。

 僕が無傷でいる事からそういう事なのだろうけど、しかし、何がトリガーなのか。


「殺す」


 僕の口から、僕に似つかわしくない言葉が発せられる。ルイーナが言った訳でもなく、僕が意識的に発した訳でもない。でも、僕の心は一つの使命の様なもので染まっていた。


 敵は全て殺す。


 ドラゴンキメラをも一太刀で絶命させ、残頭数も少なくなって来た。ところ、ラスラスコンビが視界に入る。

 まさに今、サニラスがキメラへと変貌しようとしていた。


 敵。人類を仇なす敵。


 感情なんて無かった。ただ一つの事を遂行するロボットの様に、サニラスに刃を突き立てた。


(ヒノヤちゃん! サニィぃは仲間でしょ!)

「ヒノヤくん……なにを…………」


 仲間? これが? どう見ても敵じゃないか。例えここから人間に戻れるんだとしても、それはあくまで推測の話であり、今、現状で見るなら、こちら側に被害を及ぼす敵である事は間違いない。


(〜〜〜〜〜)

「〜〜〜〜〜」


 僕に対して何か言ってる様だけど、もう僕には何も聴こえない。突き刺した刃を引き抜き、そのままーーー


 ーーーサニラスの首を切り落とした。


 シドラスの悲痛な叫びも、僕には届かない。


 ドゴッーーー!


 瞬間、左腹に衝撃が走る。僕は勢いのままそちらに吹っ飛び、壁に激突した。

 普通ならば全身骨折、で済めば良いレベルのものであるが、憑依の影響なのか、少々全身痺れた程度。痛いのに変わりないのだが……それよりも、僕の目の前に立っている、男の子とも女の子とも言えない奴は、僕に微笑み掛けていた。

 吹っ飛んでる刹那、奴はこちらに並走し、常に耳元で喋り掛けて来ていたのだーーーどういう原理なのかは分からない。


「まさか僕と同族の人だったなんて驚いたなぁ。あ、僕の名前はピノリア。《無限》を冠に持った女の子だぞ? でも、力を使わず、病み落ちもしないでその力、とても、僕、興味あるなぁ、ねぇ、どうやってんの?」


 これが一瞬の内に聴こえた言葉。正直、この一瞬にこれだけの文量を、僕が理解出来る()()で、()()()()と聴こえたのは、奴ーーーピノリアの力を知る糸口であるのかもしれない。

 でも、こんなとんでもな相手に勝てるのか?


「ヒノヤ!」


 リフィアが慌ててこちらに駆け寄ってくる。どうやら残頭のキメラ達を全て倒し、手助けに来てくれた様だ。


(聴こえるかヒノヤ、そいつはヤバい。今の私達が手に負える相手ではない)


(そうよ、ヒノヤちゃん。わたしぃの《無視》を使って逃げましょ!)


 あの衝撃のおかげなのか、何かに飲み込まれている感覚は消え、みんなの声が聴こえていた。


(う、うん。分かった!)


 しかし、《無視》の使い方なんて分からないのだけど。


(すこぉしの間ヒノヤちゃんの身体、動かすよぉ!)


「だんまり決め込んじゃってさ。まぁ、いいや。研究者として、君を色々と実験台にーーーお、ろろろろろろ? 視界がなんだかおかしいな。もしかしてこれが君の《無》の力なのかな?」


 んなこと僕も知らん、正確な所なんて。

 とはいえ、相手の混乱に便乗して、僕達は一気に出口まで駆けた。途中リフィアは僕と仮憑依状態となり、実質移動は一人分だ。

 そして、未だに精神不安定状態のシドラスを手に取り、なんとか外まで逃げ切ったのだ。


 …………追って来なかった?


(ヒノヤ大丈夫か?)


 な、なんとか……、でも、あの子は一体。


(…………、普通、なんらかの被害を起こしてる《無》の者は、名前が知られているものなのだがーーー《無限》のピノリア……聴いた事がないな)


(わたぁしも……まぁ、わたしぃは一匹狼だからねぇ)


 情報は無し。でも、キメラ掃討という目的は達成? してるから、充分なのではないだろうか。


(しかしながら、あんなに凄い力を持ってて名が知られていないとは、妙な話だ)


 恐らくリフィアは思案顔をしているのだろう。仮憑依状態だから確認は出来ないが、なんとなく伝わってくる。


(どちらにせよ、今の私達には勝ち目が無かった。なんせヒノヤを飛ばした攻撃が、あの体格でーーー)


 ーーーただの()()だったんだから。


 そうリフィアは続けた。蹴り? あの衝撃で? っと色んな疑問が浮かび上がるが、《無視》だってよく考えればチート級の力であって、そうであるとしか言いようが無い。


(それでもーーー)

「ーーー色々と反省しなくてはいけない点もあるが、ひとまず最悪の形は免れた結果だ。今後について対策、方針を決めていこう」


 リフィアの実体化。次いで、ルイーナも仮憑依状態となる。ようやく身体が戻った。してーーー、


「ありがとう二人とも。生きて帰って来れたよ」


 涙跡を顔に残し、笑顔でそう言ったのはシドラスだ。


「報酬はいらない。先に帰っててくれないか?」


 今にも死にそうな声音で、苦虫を噛み潰した様な歯切れで、震える身体を押し殺して、そう言ってる気がした。


「あ、あの……あの時は……なんというか」


「ヒノヤくんは悪くないさ。それに、サニィはそれを望んでいたんだから」


 優しく、でも何処か刺々しい。お前が僕に話しかけるなと口外で言われてる様で……嫌な気分だ。

 しかし僕は、した事を覚えてるし、仕方がないと終わらせるには、それこそ感情が無いと言われてしまうだろう。地球での僕に、大嫌いな自分に酷似してた、あの時の僕。なんであぁなったのかは分からないけど……、


「ごめんなさい……です」


 謝る事しか出来かった。

 一瞬の間。


「大丈夫さ、僕だって子供じゃない。伊達に世界を生きてる訳じゃないからねーーーぐぇっ……」


「シドラス。私はまだ同じパーティーとして、仲間が再び死地へと赴く事を是としない」


 最早華麗とも言えるリフィアの手刀。いつの間に間合いに入ったのか分からないほどの速度で、シドラスを落とした。


「さて、街に戻るぞ」


 疑問も絶えず、何も分からないままだが、とりあえずひと段落ついた。これからがどうなるかなんて分からないが、一日でも長く、その日を生きられるならば、この上無い喜びであると僕は思う。

 なんにしても、散々な一日であった。


 ふと、僕達が逃げてる時に、やはり同等の速度、耳元で聴こえたピノリアの言葉を思い出した。


 ーーー僕はここから居なくなるけど、君とはまた会える気がするよ。だって、僕は、研究対象を逃した事が無いからね。あ、あと、一つだけ、忠告してあげる。恐らく、仮説なんだけど、君は《無》の力を勘違いしてるよ。それが上手く使えない証だね。ん、じゃあ、またね。


 理解は出来るけど、意図は分からなかった。

僕って一人称の人が三人出てきて混乱しました。どうにかしてください。って書いてる僕が言います。

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