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 7話 幸せでした

ついにキメラの出所を突き止めた!

果たしてパーティの未来はどっち?



 朝日は眩しく、寝ぼけ眼を刺激する。僕ってこんなに低血圧だったっけ? って思ってしまう。でも、よくよく考えると、昨日の早朝に街を出て、キメラと戦闘し、僕は気絶。それから夜起きてーーーまた寝た。寝足りない事は無いと思うんだけども……、あ、多分、エデノラでの一日の時間って、地球で言う十六時間だから、まだ身体が慣れて無いのかもしれない。

 それはそうと、僕達はキメラの寝倉の前まで来ていた。


「上手く岩肌に偽装しているけど、中に生き物の気配を感じる。正確な所は分からない」


「分かった、みんな下がっていろ!」


 シドラスは恐らく『広域視』でそこを見つけた様だ。

 そして、それに応えたリフィアは、まるで何処ぞの怪盗の仲間が身に付ける刀の様な刃で、岩肌を斬りつけた。数秒形を保っていた岩は、スルスルと形を崩していき、そこに入り口が現れたのだった。

 よくもまぁ、こんな解りづらい所に作ったもんだ。


「よし、行くぞ!」


 リフィアの号令で僕達はキメラの寝倉へと入って行った。


(おぉ〜ー)


 そして、ルイーナの気の抜けた返事が頭に響いたのだった。こいつ、僕以上になんもしてない癖に……幸せな奴だな。

 



 暗闇の一本、緩やかな下り道。外からの灯りも入らないそこは、地球から来た僕にいわせてみれば、本当に人手が入って出来たものなの? っと疑問に思ってしまう程に粗雑で、いつ崩れて来てもおかしくないと思えてしまう。

 ついぞ入り口からの光量も途絶えて、本格的に何も見えないのだが、スタスタと歩くみんなは果たして中が見えているのだろうか?


「ヒノヤ、ほら」


 リフィアから手が差し伸べられる。どうやら繋げという事らしい……配慮は嬉しいが、少し恥ずかしい。

 

(暗くてぇ、なんも見えないぃーー!!)


 ルイーナがちょっと五月蝿いな。


(ルイーナ、ヒノヤが困っているだろう? あまり大きな声で騒ぐのを辞めるんだ)


(おねぇさま、お言葉ですがぁ、この世界(エデノラ)で生を受けてない以上、ヒノヤちゃんはぁ、暗さに対する耐性がないのですぅ)


 なるほど、そういう事だったのか。それで視界を共有してるーーールイーナと戦った時にリフィアとの憑依でそこは理解しているーーールイーナも、僕と同じく周りが見えなくなってるのか。

 しかし憑依してる場合は、お互いの視野が共有されるからか、暗くても周りがよく見えるという……一見理解し辛い使用だ。


 何というか、ごめんなさい。


(ヒノヤが謝る事ではない!! ただルイーナが甘えてるだけだ)


(確かにぃ? 甘えてるだけだねぇ〜、そうですねぇ〜。それより、わたしぃの事ルイちゃんって呼んで下さいますかぁ、おねぇさま)


 いや、興味無さすぎでしょ……、さりげなく愛称を所望して来てるし。


(…………ちゃんを付けては呼びにくいから、ルイと呼ばせて貰う)


 なんとなくだが、ジト目をしてるリフィアが脳裏に浮かんだのだった。今度から僕もルイと呼ぼう。

 そんなこんな、場はシーンと緊張感のある面持ちなのにテレパシー界隈では賑やかな時間を過ごしていたのだった。


「…………! 少し先に何かいる」


 シドラスの声。相変わらずの暗闇ーーー慣れてある程度は見える様になったーーーだが、どうやらようやく何かが起こるようだ。

 足音、呼吸すらも殺し、ゆっくりと歩を進める。どうやら緩やかな下りカーブだった様で、微かな光が見えて来た。

 前方、息を呑む音。

 そこは、誰が噂をしたか、まさしく研究所と言わんばかりの成り立ちをしていた。

 左右にガラス筒が群となり、中に液体と生物。至る所にチューブやホースが繋がり、それは中央のデスクに集まってる様に見えて……人。

 後ろ姿しか分からないが、ふくらはぎが隠れる程の白衣の様なものを来て、ボサボサの黒髪。身長はまだ子供の様だ。


「うー〜〜ん、駄目だ、駄目だ、駄目だ駄目だ! まったく納得いかんのですよ」


 幼い声音。どうやらこちらには気付いていないみたいだ。

 そのまま僕達はある程度距離を詰め、そこでリフィアが第一声を放った。


「貴様、ここで何をしている!」


 うーん? っとこちらに向き直った相手は、丸渕メガネを掛けた、男の子とも女の子とも言えない出立ちのーーーそう、子供だったのだ。


「君達だったのか、僕の家に入り込んで来たのは……あ、でも、よくここが分かったよね……あ、それと、僕の子供達を殺して来たのも君達で良いのかな? あ、いや、これって八つ当たりになる可能性もあるか……うん、いいや、ここではもうやれる事もないし……ーーー」


 ぶつぶつと、こちらに眼中すらないのか、次々と言葉が出てくる。


「ーーー五月蝿い! いい? 私達が聞きたいのは、あなたがキメラを産み出して、野に放ってるのかって事よ!」


 サニラスの怒声。どうやら我慢できなかったみたいだ。


「んぇっ? なら、十中八九僕の子供達を少なくとも殺した事があるって事だよね? んっ、でも、まぁ、少々聞き分けのない子達だったし、それも当然の報いなのかなぁ〜って、思ったり? うん、うんうん、決めた。報復? ていうの? 仇はお母さんがとりますよ〜って感じっ!」


 瞬間、相手の身体が()()()のだ。

 テレビで砂嵐になる前兆とかでよく起こるアレみたいな、よく分からないあの現象が起こった。

 それか、僕の目がおかしくなったのかもしれない…………それだったらちょっと怖い。


「シド!」


 その時、サニラスの必死な声がした。




 威圧感を感じていた。それはまるで良くない事が起こる前触れの様で。どこか緊張感の抜けていた空気は、いつも瞬く間に殺戮を意とする。

 目の前の敵が子供だから? 道中のキメラに手こずらなかったから? アラールド一の冒険者が仲間だから? いや、全てだ。慢心していたんだ、僕達は。


「!?」


 相手方が何か()()()様に感じ、その時、まさに同刻、僕の特殊能力(スキル)『広域視』に後方から反応が生まれた。

 なんの前触れもなしに飛んでくるそれは、スキルで感知した形状でいうと、注射器に似ていた。それも、一本ではなく何十本も……。

 しかし、急に現れたそれを躱せる程距離は離れていない。僕は心の中で、しくじった……と思った。


「シド!」


 なんでだろうか。特別な力も持ってない筈の君が、この場で誰よりも感知能力の高い僕を……僕より先に行動出来たのは…………。


「サニィ!!」


 突き飛ばされた衝撃よりも、これから先取り返しのつかない何かが起こると、僕の人生経験が警鐘を鳴らしていた。

 サニィの身体、至る所に針が刺さる。


 ぐおぉおぉぉ〜〜ーーー、


 突如周囲のガラス筒が割れ、中からキメラが出てきたのだった。数十、いや、そんな事よりも、僕はサニィに向かって走った。


「あれれ? 確かにそこの爽やか君狙った筈だったんだけど……ま、いっか。多分僕の予想通りの結果になるからね。色々試行錯誤で出来上がった薬は、浸透した先から急成長するから……あ、でも、まだ人型には試してないからどうなるか分かんないや…………凄く楽しみなんですよ!」


「ーーーあぁぁあぁーーーー!!!」


 サニィは苦しげに叫び声を上げる。今あいつが言った通り、刺さった先からサニィの皮膚が膨れ上がり、異形な形を型取り始めた。

 それでも、僕はサニィを抱き締めた。


「大丈夫かサニィ、気をしっかり持て!」


 虚な眼をして、開きっぱなしの口からはうめき声が漏れている。しかしそのうめきを良く聞くと、言葉を発しているのが分かった。


「…………シド……愛してる……よ」


「な、なんだよそれ! わけわかんねぇよ!」


 いつの間にやら僕の目からは涙が流れていた。

 その時、ぐっ、っと、その時だけ、変異の波が収まったのかーーーとても苦しそうであるが、サニィはこちらをきちんと見たのだった。


「ーーー泣かないでよ、シド。ずっと一緒に生きていけるんだと思ってたけど、こんな終わり方でも、愛してる人の手の中で死ねるのなら、私は幸せだよ? だからーーー」


 サニィの目からも涙が溢れる。

 彼女はとても笑顔でーーー、


「シド……私を殺して」

 

 と言った。


「何馬鹿な事言ってんだよ、殺せる訳ないだろ!? それにスミの事だってーーー」


「ーーー私だって! ……私だってこんな終わりは嫌だよ。これからスミも産まれて、三人一緒に過ごせる未来を、シド、貴方とスミと、私で生きたいよ…………でも、早くしないと、きっと私は貴方を殺しちゃう」


 スミラス。僕とサニィの子。サニィのお腹に宿った、僕と君の愛の結晶。

 子供が出来たと分かった時は本当に嬉しかった。その日はずっと泣きっぱなしだったし、より強く、彼女を守ろうと思えた……けど、まさかこんな結末なんて。


「だ、だからって……僕に君は殺せない。君に殺されるなら、本望だ……」


 いよいよ、サニィの身体が化け物じみて来た。背中は翼の様なものが生え、爪が獣の様に鋭く伸びて、尻尾が生えて来ている。

 血が噴き出し、お互い血だらけ……、でも、サニィは苦しさを押し堪えて、僕にずっと笑顔を絶やさなかった。


「大丈夫。私は永遠に貴方の事を愛してるし、ずっとーーー例え死んで身体が無くなってもーーーずっと一緒……だから私をーーー」


 ーーーグサッ…………。


 何が起こったのか理解出来なかった。いや、理解したくなかった。

 手で支えてるサニィの身体に他の重量が掛かる。その刹那、彼女の身体に刃が刺さったのだ。丁度、心臓の位置。


「ヒノヤくん……何を…………」


 そこにいたのは、あんなに弱くて、まるで小動物の様だった少年。彼はこちらを一瞥もせず、刺した刃を抜いたのだった。

 僕は突然の出来事に頭が追いつかなかったが、ようやく理解し、吼えた。


「お前、ヒノヤ! 何してるか分かってるのか!? これはサニィなんだぞーーー」


「ーーー良いの! ヒノヤくん……ありがとね」


 しかし僕の怒鳴りはサニィによって掻き消された。


「良い訳あるか! 僕はサニィに死んで欲しくないんだよ!」


 するとサニィは、力弱く、顔を左右に振った。そして、彼女は、僕に向かってーーー、


「私は、貴方に会えてーーー」


 ーーー幸せでした。


 と言った。


 気がした。


「ぁああぁぁぁぁぁぁぁーー!!」


 転がった彼女の首は、泣いてる様な笑顔だった。

なにか色々とごちゃごちゃしてますが、ヒノヤくんの身に一体何が起こってるのか……。サニィ……名前付けてから思ったけど、サニラスってなんかサニーレタスみたいだなぁ……なんて

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