5話 初陣
文字数が少なめですが、意外と大事な部分なのでご堪忍を……
赤四ノ時。
まだ太陽も顔を出してない早朝の時間帯。寝ぼけ眼を擦りながらも、僕達はキメラ掃討の為にアラールドを出た。
夜桜と表現していいものかは分からないが、綺麗な桜が僕の旅路を応援してくれてる気がする。
(ヒノヤちゃん、この世界での桜にはぁ、『死への誘い』ってぇ意味があるんだけどぉ)
「…………」
ルイーナには少し黙っててほしい。僕のモチベが下がる。
僕はため息を吐いた。
しかしながら、剣が重い。昨日に傭兵としての最低限の準備をと、リフィアが買ってくれた長剣なんだが、日本にいた頃に持ち上げた事ある、スーパーのお米クラスの重さがある。こんなのを朝から晩まで持ち歩いてるなんて、正直言って考えられないな。
これがゆとりか…………。
(ヒノヤ。私とルイーナはヒノヤの記憶からそちらの地球という世界をある程度知っているから分かるが、それでも分かり辛いボケはしないでほしい所だ)
「…………」
テレパシーは絶好調なのであった。
そんなこんな道中では、朝からラブラブラスラスコンビを傍目にこちとら三人でテレパシー談話をかましていたのだった。なぜか僕がボケ担当で残りツッコミ。
「ーーーーっ!!」
最初に気配を感じ取ったのはリフィアだ。場所は丁度大きく開けた道で、三方向の分かれ道。しかしながらリフィアの視線は前方の左側。桜と同じ高さくらいまで育った草むらだ。
次いで草むらがガサガサと音を立て始めーーー、
「…………でかいね」
誰が言ったか、いや、言葉を発したのはサニラスだが、そんな事が気にならないくらいに僕は、恐怖していた。
明らかに人より大きい異形の怪物。しかし、僕はこの怪物を見た事あった。
キメラだ。
最初に会った時と姿形は違うが、それを大まかにキメラという位置付けで呼ばれていることをリフィアから聴いている。
「さぁて、と。私たちの実力見せてあげようじゃない! ーーーとぉっ!!」
キメラが咆哮するより先にサニラスが突っ込む。距離が縮まりそれに応対する様にトラの爪ーーーの様な物が襲い掛かるが、
「ーーーふっ!」
サニラスはそれを華麗に躱し、キメラの腕にーーーいつから用意していたのかロープ状の何かを絡める。そのまま勢いを殺さずキメラの股を抜け、体勢を崩させた。
「ーーーっら!」
そして、まるでそこに来ることが分かってたかの様に、シドラスがキメラの頭に剣を突き立てた。
コンビネーションが一目置かれているというのは本当らしい。
ーーーがあぁぁぁぁぁあ!!
絶命するキメラのライオン頭が吠える。それに呼応してか、草むらから三体のキメラが飛び出して来た。
「まだこんなにいるの!?」
「ふっーーー私たちが居るのを忘れて貰っては困るぞ? 二人じゃなくて四人ーーーっだ!」
驚くサニラスにリフィアが応える。
リフィアは携えた刀を抜き、瞬く間にキメラを斬りつけた。キメラの最後の叫びが響く。
「流石アラールド随一の冒険者ね! 私たちも負けてられないわよ、次行くよシド!」
「うん!」
っと、三人が化け物達と戦ってる最中、僕は何をしているかというと……、
ーーーがるるるるぅる!
犬と言った方が早い小さいキメラと戦っていた。
「ひっ……、どうしよぅ!」
(ヒノヤちゃん、落ち着いて! 相手をよぉく見て!)
ルイーナの声が頭に響くが、そんな事気にしてる余裕がない。ただでさえ重い剣の重心が、身体が震えて合わない。
そもそも剣なんてろくに扱った事も無いのにいきなり戦闘開始なんて、どうかしてる!
(来るよ!)
「ひっ!!」
まさしくルイーナの言葉と同じタイミングでキメラが僕に飛びかかって来た。
咄嗟に剣を構えたお陰で噛まれずには済んだが、そのまま押し倒され、覆い被される形となった。犬の涎が顔にびちゃびちゃかかるが、そんな事構ってられない。
「誰か助けて! たすけーーー」
(このヘタレ!! こんくらい倒せなくてどぉすんの!)
そんな事言われましても……、しかしこの状況、僕の腕力じゃ押し返せもしないし、少しずつ爪も食い込んできたし、どうにかならないものか。
そこで思い付く。
「そういえばルイーナって精霊だよね!?」
(んんっ! そうだねぇ)
「憑依できないか……なっ!」
僕のこの世界で使える唯一の力、憑依。
リフィアとの憑依であれだけ強いんだ、ルイーナとの憑依だって強いに決まっている。
(でもぉ、どうやればいいかぁわかんなぁいよぉ?)
残念ながら僕も分からない。しかし、腕ももう限界近いしなりふり構っていられない。
「くぅっ! ーーーひょう……い?」
ぎゃん! っと犬キメラが鳴いた。誰かが突貫して来たのだ。
「大丈夫かい、ヒノヤくん!」
爽やかかつ、凛々しい声音。金髪をなびかせ突っ込んで来たのはシドラスだった。
ここで思い起こすはサニラスとの会話。
(いざって時には必ず守ってくれる)
確かにめちゃくちゃかっこいいな。
「返事が無い! 大丈夫かっ!!」
重量からなる疲弊と、助かった安堵の気持ちがいっぱいで、相変わらず僕は意識を失ってしまったようだ。こんな小型のキメラなんかにって思うかもしれないけど、本気で殺しに来ている相手を前に、気を抜く暇なんてないと僕は思う。
ははは、かっこ悪いな……僕は……。
目が覚めるとシドラスの顔が目に入った。男の子的には残念な所があるし、なんなら、自ら志願してきそうな人が居ると思うんだけどなぁって、まず考えた。
膝枕。
「良かった、目が覚めたんだね」
にっこりと笑顔を浮かべる彼は、初対面の時とは打って変わって、オドオドというか、モジモジしてる感じが無かった。彼はきっと無口じゃなくて、極度の人見知りなんだろう。
「すいません……助けて頂いて……足手まといで……」
実際何も出来なかった。
まずもって、日本に居る限りで殺し合いなんて生々しい事柄はほぼほぼ起こらないし、起こらないからこそ練習とか特訓はしない。そりゃあ部活動とか、アルバイトなんかしてれば多少なりともマシだったかもしれないけど、それでも命を奪う事には躊躇はしただろう。
適応すれと言われても、身体が出来てなかったら土台無理な話だ。
言い訳にしかならんけど……。
「うん……。確かにヒノヤくんは足手まといだったーーー」
「やっぱり……」
「ーーーでも、君は転生者だろ?」
少しキョトンっとしてしまった。
言い当てられた事もそうだけど、そもそもそれと何が関係しているのかという事に。
「初めてだったらそりゃあそうもなるよ。日本じゃ経験出来ない様な事だからね」
「えっ……と……、つまり、シドラスさんもリバイバーなんですか?」
「うん! こっちではリバイバーだね」
「…………?」
まるで当たり前の様に言ってくるけど、端を捉えると中々常識外れな物言いだなって思ってしまう。あり得るのだろうか? 二回も異世界に連れてかれたなんて事。
シドラスはこちらの思案顔に笑顔で応えた。
「君にだったら話そうか……、なんかシンパシーを感じたからーーー」
そうして、シドラスは過去の自分について語り始めたのだった。
ヒノヤが戦闘を経験して、なんだか色々ありそうシドラスの過去……なんかそれっぽくなって来たかも……