4話 ラスラスコンビ
登場人物にある程度の癖を付けたいと思って書いてるのですが、癖強過ぎなのかもしれませぬ。
(反省はしていない)
世界を破壊しようとする勢力《無》の存在は世界各地でひっそりと名が広まり始めているそうだ。なんでも、大量の虐殺や、国の転覆、狂った宗教の信仰等々…………かなり悪どいらしい。
そして、そんな《無》の存在とは精霊という扱いらしく、いわばリフィアと同じ、同等な存在みたいだ。だからこそ僕に憑依できて、その分その力が使えるらしい。
精霊という区分について知りたい事は山々であるが、僕の能力はつまるところ『どんな精霊でも憑依できる』ということになるのかもしれない。
「転生者は誰でも精霊を憑依出来るーーーって会った時に話したが、二人以上の精霊を憑依とは私は聞いた事がないからな。まさしく、それがヒノヤの能力」
得意げにリフィアが言ってきた…………。
現在、ギルドの一階にて朝食を食べながらお話中。
キャローラの計らいもあり、豪華な朝食だ。
「生捕り出来なくて日の目を浴びてない訳だけど、通り魔事件解決の第一人者様にはそれ相応の報酬があっても良いと私は思うのよ。だから、暫く食事をタダで提供しちゃう!」
との事。
ま、話を戻しましてーーー。
「ヒノヤに課せられた世界を救うという大業。それは《無》の者の鎮圧という考えで良いのだろうか?」
「さぁ、僕にも分かりません。……でも、今のところそれくらいしか思い付きませんからね……」
実際に明確な答えを出されている訳ではないので、そこんところ聞かれてもまいってしまう。それでいて…………、
(《無》は一癖二癖ある人がたぁ〜くさんだからねぇ〜、鎮圧だなんだって躍起になってたらぁ〜、命幾つあっても足りないよぉ〜?)
頭の中にルイーナの声が響く。甲高くて甘ったるい声。
「それは重々承知であるのだがな……目標が決まらない事には先に向けて歩む事ができないだろ?」
ギルドの一階に来るにあたり、ルイーナを僕に憑依した状態になっている。だからといって身体的変化はない。憑依は憑依でもストックしているって形だーーー精霊が二人になったからかそういう芸当ができるようになった。仮憑依とでも呼ぼう。
そして、テレパシー的なものが、僕と他精霊間でも繋がるようで、リフィアとルイーナは会話できてるという事だ。
「ルイーナ、仮にも《無》の者として、他の《無》についての情報とかないのか?」
(私は《無》として生を受けてからお偉いさんとは会わない間に病み落ちしたからねぇ〜。ほら、私って若いじゃん? 若いでしょ? 若いからねぇ〜)
そんなに若さを強調しなくても…………。
「病み落ち……聞いた事あるな。《無》なる存在が力に飲まれて暴走するってやつだ」
(さすがおねぇさま! 博識ですぅ〜!)
そういえば、僕の中で一つ変わった事があった。実はこれが僕自身の性格だったっていうのであればそれまでなのだがーーー、
「ねぇっ、僕を置いてけぼりにして話を進めないで! 」
ーーー構ってちゃんになってしまった。
なんでも無関心だった筈なんだけどーーー自分でいうのもなんか嫌だけどーーーなんか一人取り残されると落ち着かないのだ。
「あぁ、ごめんなヒノヤ! 寂しかったよな、ナデナデしちゃう!」
(ほぉんとぉにヒノヤちゃんは寂しがり屋ですねぇ〜、ヨチヨチ、良い子良い子ですよぉ〜)
「ーーープルプル」
恥ずかしさと安堵感の狭間で僕は葛藤していたのだった。
ギルドでの朝食が終わり、今日の予定についてキャローラを交えて話をした。当初の目的では赤の刻の早い時間にはキメラの寝倉ーーー研究所? らしいーーーに攻め入って掃討する筈だったのだが、昨日の一件から連続となるとそれはそれで厳しいと判断され、今日一日は休みだそうだ。
それに加え、キメラ掃討に仲間を増やすらしく、そのままギルドで待ち合わせとなった。仲間の名前はサニラスとシドラス…………ラスラスコンビだなぁ〜。
「サニラスとシドラスはアラールドでも有名なラブラブカップルだ。実力はそこまでだが、コンビネーションに一目置かれている」
(ラブラブってぇ〜、おねぇさまとヒノヤちゃんみたいですねぇ〜。あの時の「私の彼氏に手を出すなぁ!」でしたっけ? 痺れますよぉ〜!)
「捏造するな! ヒノヤが誤解するだろ!!」
リフィアさん……照れながら言われても…………。
っとそんなこんなのうちに件の二人組がやって来た。
線の細い爽やかな金髪の男の人と、身軽で気の強そうな紫髪の女の人……どっちがどっちのラスなんでしょうか。
そこで、リフィアはスクッと立ち上がる。僕も慌てて立ち上がった。
「こんにちは、シドラスさんとサニラスさん。明日はよろしくお願いします」
リフィアの挨拶に紫髪の女性が応える。
「ご丁寧にありがとうございます。シドラス共々、ご迷惑をお掛けしない様最善を尽くしますーーー、ほら、シドも挨拶して」
「よ、よろしく……ぉねがいします」
あ、なんか既視感。関係性が僕とリフィアに似てるや。
「早速で悪いが、明日の準備の買い物を済ませてしまおう。先で色々と情報を共有しようと思う」
そんなこんなで僕達はギルドを後にした。
分かった事はサニラスが女で、シドラスが男。お互いサニィとシドという略称で呼び合っており、度々くっついてはラブラブしてる。ハートエフェクト多様待ったなし。
戦闘スタイルについては、サニラスが盗賊で、シドラスが戦士ーーー僕の浅いゲーム知識だけどーーーという事が分かった。というより、聞いてもいない事が耳に勝手に入ってくるといった方が正しい。つまり、惚気。
「ーーーそれとね、あれは七代魔竜テンペストの抜け殻って呼ばれてるウィンドラの大討伐に行ってる時、あまりの強風で家の屋根が私に向かって飛んで来てね。ほら、私ってこういうスタイルでしょ? 細かい攻撃は避けれても、範囲が広いと躱せないのよ。そこでシドが身を挺して守ってくれてさ、普段あまり喋らないのにそんな時だけ「大丈夫? 怪我してない?」って、そっちの方が重症なのに私の心配してくれて、ほんとキュンとしちゃった」
まぁまぁまぁ、なんというかよく喋る。それと対比して無口なシドラス。でもほっぺ真っ赤にして首を横に振っている。なんかポワポワした好青年だなぁ。
リフィアも僕もーーーついでにルイーナもーーーゲンナリしてたが、これから任務を共にする仲間、邪険にする訳にはいかない。……という心持ちでいかないといけないなっとテレパシーで共有。
ため息が聞こえたが多分リフィアのものだろう。
「よし、では明日、赤ノ三時にギルドに集合し、四時前には出発する。その日のうちに仕事は片付くとは思われるが、準備を怠らない様に」
「はい、分かりました。んじゃシド帰ろっか」
「んっ」
僕達はそんなラブラブな二人の帰りを眺めながら、ようやく解放されたと息を吐いた。正直な話、あんな甘々な空間を明日中共有するってなると、中々気怠いものがある。
最早疲れ切った僕達からわざわざ口にするものは居ないが、多分みんな同じ気持ちだろう。
「キメラの個々強さからして私達だけで充分ではあると思うのだがな……、ギルドで決まった決定だ。仕方がないな」
(おねぇさま……えてすれば、おねぇさまもあんな感じになる予備軍ですけどねぇ〜)
「僕から言わせてみれば、リフィアはもうサニラスさんと変わらないと思う」
「それは……少々心外ではあるな……」
リフィアの動揺が見てとれた。これで少しくらい僕にベッタリするのが減ってくれればいいや。
かくして、キメラ掃討任務の顔合わせは終わり、明日には決行という段まで話は進んだ。異世界に来て初めてーーー正確には初めてではないーーーのモンスター狩り。
僕は心の中で小さくガッツポーズをとり、やる気を鼓舞した。新しい人生。過去の自分を捨てて、今度は間違えない様に、きちんと前を向いて歩こうと…………。
暗い自分はもう懲り懲りだからな。
「……ん?」
視線を感じ、リフィアの方を見る。
「いや、気にするな」
僕には彼女の笑みが少し寂しげに見えたのだった。
キメラ掃討に向け、頑張れヒノヤ……大体の内容決まってるから、※※※※※※※※(ネタバレの可能性があり、モザイクを掛けました。