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 3話《無》との邂逅

ようやく物語が動き出すーーー前準備です……。

淡々と進んでしまい申し訳ございません。

そんなんでもよろしければお読みください……、

いや、読んでくれ(キリッ。



 手渡されたのは縁が金に光り、柄上に紫色に光る石が嵌め込まれた剣……というよりは短剣と区別した方が早いまである代物であった。トリンという鍛治師の最後の作品。

 僕はそれを鞘ーーートリンが拵えてくれたーーーにしまい、そっと手を置く。なんかしっくり来た! なんか今ファンタジーしてる!!


「残念ながらどんな力があるかは分からねぇ、なんせ形になったのが初めてだからな。だけど、魔力回路は機能してるから何かはある。そいだけだ」


「トリン氏最後の一振り、有り難く頂戴致します」


 リフィアは頭を下げた、僕もそれに習いお辞儀。


「いいんよ、これから先俺は老いぼれへと進むだけ………やりたい事やりきって、最後の最後で新発見たぁ、締めくくりには丁度いいべ。ーーーおっ、そうだ!! こいつを頼まれてくんねぇか?」


 そう言ったトリンは、ズボンからくしゃくしゃの紙ーーー恐らく手紙をリフィアに渡した。

 いや、手紙ならもうちょっと大事に保管しようよっ! なんて心の中でツッコミを入れて置く。


「手紙ならもうちょっと大事に取っといて貰えると助かるのだが、運び人仕る故に」


 あ、リフィアもツッコんだ。


「ガハハっ! いやはや、リフィアさんから依頼受託の連絡が来て急いで書いたから、慌ててポケット突っ込んじまったや。ガハハハっ!」


 ガサツで粗暴、何というか漢の中の漢というか、手紙の主がどうにも頂けない。


「それでこちらは?」


「ガハっ………ゴホンっ! あぁ、それを、クラセンタの俺の娘に渡してくれ。勿論、いつでもいい。仮に立ち寄る事があったらでいいからな」


「王国ですか……分かりました。立ち寄った際には必ずお届けします。お名前は?」


「スクラだ。クラセンタの三番街にて鍛治師見習いよ。出てってから姿はまだ見てねぇが、手紙は何度か来てっからな」



 こうして、僕の初依頼ーーー僕が引き受けた訳ではないがーーーが終わった。今日も今日とて色々あって疲れた。

 辺りはもう薄暗くて、リフィアから聞いた話によれば、青の時間帯みたいだ。


「ヒノヤ、疲れたか? いや、疲れたか。慣れない環境で慣れない仕事、それにまぁ、色々あったからね」


「そうですね」


 僕の気持ちを代弁してくれる。本当にリフィアは凄い。


「明日からは本格的にキメラの寝倉を攻めに行くのだが、大丈夫そうか?」


「はい。もう、この世界で頑張るって決めたんで、早く一人前にならないと」


「そうか。それは良かった」


 笑顔。リフィアの僕に向けるその顔は、いつも優しさで満ち溢れている。そんな風に思える。

 不思議だ。

 

 それはそうと、ギルドへと向かう道中なのだが、人が誰も居ない。どうしたんだろ?


「ーーーっ! 迂闊だった!! ヒノヤ、我慢してくれ!」


「えっ! なっ!」


 するとリフィアは僕に取り憑き、昨日に引き続き僕が性転換したのであった。


(時間を取り過ぎた……、青の刻のこの時間帯は例の通り魔が出る時間。暫く空けてたから反応が遅れた)


 臨戦態勢だ。依頼の時は特に戦闘とかは無かったし、一応僕の意を汲んでくれて取り憑いて無かったんだろう。


「ほ、本当に出るのかなぁ?」


(出ない事を祈りたいけどね、準備しておくに越した事はないだろう)


 周りを気にしてか、昨日浮遊してた刀は出ていないようで、服も女性ものってだけでそんな目立っていない。僕の心がキョドってるくらいだ。

 今思ったけど、憑依しなくてもリフィアは充分強いからそのままで良かった気がするんだけども……。


「あのぉ〜…………」


「はひぃっ!!」


 急に声がしたので驚いた。


「って、あれ?」


 しかし、声がした方には誰も居ない……まさか幽霊?


(………? ヒノヤ? 前に女の子がいるぞ?)


「えっ?」


 リフィアの指摘によって再び視界を前へと移す。しかし、女の子なんて居なかった………んっ、あれ? 視界のーーー眼の端の方に、確かに女の子が居た。

 でも、


「焦点が合わない?」


 何度も何度も少女にピントを合わそうとしても、中々捉えてくれない。目がバグった?


(ヒノヤ! そんなに目を動かさないでくれ! 目の前にいるだろう!)


「いや、だって!」


「…………ねぇ、なんでーーー」

(ーーーくっ!)


 ギンッ!


 瞬間、僕の体はリフィアによって動かされ、いつの間にか握られた刀で()()を受け止めた。その()()には、今だに力が加わっている。


「ーーー()()するのかなぁ?」


 僕はその場から飛び退いた。勿論、僕個人では到底出来ないのでリフィアのおかげであるが…………、

 それはともかく、こいつが通り魔か?


(噂をすればって奴だな……、しかし、こんな女の子が犯人だったなんて)


 相変わらず僕の視界の中に少女はいるが、照準が定まらない。彼女は常に視界の端に居る。


「いやぁ、でもぉ、よぉく反応したねぇ〜。反射神経ってやつぅ〜?」


 どうやら僕に話し掛けて来ているようだが、困る。返答についても説明し難いし、なにより、僕を殺そうとして来たのだ。恐怖でしかない……。


(彼女を捕まえるにしては手持ち無沙汰過ぎる。どうしたものか………)


「ぼ、僕は、どうしたらいい? ーーー」

「ーーー無視しないでって言ってるでしょ!!」

(ヒノヤ!!)

「ぐっ!」


 どういう状況かは分からないが、恐らく少女が僕の肩に乗っかったようだ。鼻が圧迫されて息苦しいので、逆肩車の要領。

 そして、僕の耳元で少女は語りかけてくる。ねっとりとした声音で。


「人の話は無視しちゃいけないてすよぉ〜って習わなかった? 習わなかったの? ねぇ? そんなに無視するなら貴方の耳いらないよねぇ〜? 削ぎ落として、聞こえなくしてあげぇるぅ〜」


「(このぉっ!)」


 リフィアの言葉が僕の口から出る。かなり切羽詰まった状態だ。腕を動かそうにも重みが加わってる所為で上手く動かないし、なにより、僕には少女を捉えられない。


(ヒノヤ! ちょっと熱いかもしれんが我慢してくれ!)

「はぁ〜い、悪いお耳はチョキん〜ーーーわぁっ!」


 少女が僕の耳を削ぎ落とそうとした刹那。僕の身体が発火した。瞬間重みが取れて腕が自由になる。


(本気モードだ。少しばかり身体を預けて貰うぞヒノヤ)


「わ、分かった」


 確かに熱い。身体がゆらゆらと炎に纏われ、全身が軽くなった様に感じる。


「キャハハっ! 貴方、私が見えてるのね! あぁ、もっと見て、聞いて、私を感じて!!」


「(この外道め! 何で人を襲う!! 貴様のやっている事は無差別に殺して回るだけの、ただの殺人狂だぞ!)」


「キャーー! 私の声もきちんと届いてるぅ〜!! 私に向けた言葉、私に対しての興味、私の為に説教!! なんて素晴らしいのかしらぁ〜!」


「(聞く耳持たないかっ! ならば倒す!)」


 地を蹴り飛び出す。相変わらず僕の視界の少女は端に居るが、真正面へ突貫する。宙に刀を五本浮遊させ、二本を投げ、何もない所へ斬りかかる。

 金属音が二回響いた後、斬撃は止められた。


「がっつかれんのも好きよぉ、でもでも、ちょっと短絡的過ぎかなぁ〜なんてーーーきゃぁっ!」


「(元より受けられるのは想定内! 燃えろ!!)」


 途端に少女は燃え上がる。どの道僕には細かい所が判断出来ないが、彼女は()()一太刀を受けた事で、身体に炎が周ったのだろう。

 あれでは黒焦げになってしまうのでは?


(捕まえるのは無理だった。彼女は中々の手練れだったからな)


「でも、これで街が平和になるなら良かった」


 これは本心だった。夜の街が危険なんて当たり前の事なんだけど、不意に殺された僕にとって、そんな通り魔なんてものは許されていいものではないと思う。それ相応の恨み辛みがあるというのでは致し方ないのだけど…………僕は一体誰に殺されたのだろうか?

 いや、そんなのもう分かってる。分からないふりしたって、事実は変わらない。


(ーーーそうだな。彼女には少しばかり同情の余地があったのかもしれないが……ともかく、事件は解決だ………ーーーまだだっ!!)


 リフィアの言葉と共に僕は顔を上げると、そこには、


「油断しちゃったぁ〜、けどぉ、おかげでこっちも本気でやらなきゃなぁ〜って気付けちゃった! キャハっ!」


 黒く塗りつぶされた少女ーーー黒い靄が人の形を成していると言った方が正しいーーーがそこに居た。相変わらず視界の端である。

 それと同時に、周りがうす暗い瘴気に呑まれ、捉えれてる筈の建物までもが揺らめいた。

 何もかもが……正しく認識出来ない。


「まっさかぁ〜、《無》の私をここまで追い詰めるなんてぇ〜。し、か、もぉ、私の事認識出来てるみたいだしぃ〜、本当に最高ぅ〜。私の一生にしてあげるぅっ!」


「(上かっ!)」


 僕は上を見た。少女は跳躍し、短剣を構えてる。そのまま僕に向かってーーー。


「ほ〜んとぉに馬鹿だねぇ? 足下お留守ぅ〜」


 …………グサっ、と。足に何かが刺さった。

 地球にて足に画鋲くらいしか刺さった事のない僕は、自分の足に何があったのか理解出来なかった。痛覚が遅れてやってくる。


「いっ、痛い! 痛い痛い痛い痛いっ!! あ”ぁ”ぁぁ~!!」

(ヒノヤっ!)


 涙でぼやけた視界には、短剣が刺さり、血が溢れ出す両足が見える。認識した事でより一層の痛みと、恐怖が生まれた。


「ほぉらっ!」

「(ーーーこのっ!!)」


 下がお留守の次は上から、なんとかリフィアの反射神経でその一撃は回避したものの、


「いぎっ……!」


 バックステップの際、足に衝撃が走り痛みが増す。


(ヒノヤ! 痛いだろうけど我慢してくれ!)

「そ……そんな事言われたって!!」


「投擲された短剣を()()するなんてぇ〜、命知らずなのねぇ、あ・な・た」


 少女はニコニコしながらこちらに歩いてきているのだろう。視界の気持ち悪さに加え、痛み……よくも僕の意識は失わずに保っている。


「そろそろ終わりねぇ〜。これであなたは私の一生……、お人形になって一緒に遊びましょぅ?」


「(誰がお前の人形になるかっ!!)」


「っきゃっ!!」


 一瞬辺りが明るくなる。僕の身体を中心に大きく発火したのだ。ーーー目眩し。

 …………その一瞬の間に、リフィアによって足の短剣が抜かれ、熱による止血が施されーーー夜の街を駆けた。


「ーーー痛いっ、痛い痛い!」

(敵前逃亡は戦士の恥だが、必ず奴は追ってくる。それまでヒノヤ、痛みに耐えてくれ!)


 そう言われた僕は、されるがままになるしかなかったのだった。




 もぉほぉんとぉ〜に最高だわ! 私の事を無視しない人に会えるなんてぇ〜。

 今までいっくら話しかけても無視されるばっかりでぇ〜、ゴミみたいなお人形さんばかりだったけどぉ〜……あの容姿で、しかも私と通じ合ってるあの子ーーーなら、生きたままお人形になってもらいましょ〜よ。


「どれだけ逃げても無駄だよぉ〜、私この街の道を全て覚えたのぉ〜。ねぇ、凄くなぁい? 凄いよねぇっ!」

 

 ()()出来ない短剣を投げて、道を誘導する。こぉんなに努力家の私はもっと評価されるべきだと思うのぉ。

 私が誘導してる道、それは行き止まり。さぁ、そこを右に曲がって最後ーーー鬼ごっこは終わりぃぃ!


「ねぇ、ねぇねぇ、気づかなかったの? あなたが私に導かれていたって事にぃ〜…………?」


 彼女の曲がった先に、壁を背にして座り込む()が見えた。あれ? 女性だった筈なんだけどぉ〜、ーーー外見と雰囲気が少し変わった? …………まぁ、いいやぁ〜。


「ーーーねぇ、僕ぅ。これでほんとにぃ、最後だよぉ〜。ずぅっと私とあそぼぉねぇ〜!」


 歩みを進める度に高まる鼓動。今の私は楽しくて嬉しくてしょうがない。欲しかった物が手に入るーーー唯一見つけた理解者! こんなに心躍る事はない。

 私は彼に向かって短剣を振り翳し、グサっ…………。


「…………ぇっ?」


 …………なんで、私の胸に刀が刺さってるの……?


「悪いんだが、そこにいるのは私の大切な彼氏なんでな。貴様の付け入る隙はないんだ」


「な……なんで、ーーー」


「今から消えいく者に言葉が必要か?」


「ーーーなんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでっ! 私は何もしてないのにっ! 悪いのは私を無視する世界が悪いのに! なんで私がこんな目に遭わないといけないのよぉ!」


「…………っ」


「《無視》として生まれてからずぅっとこうだ! 世界は私を除け者にしてばかり! 無かった者として扱ってばかり! もうこんなのうんざりよ!」


「……やはり……そうだったのか…………」


 胸を刺された痛みは感じなかった。痛みよりも遥か上に呪詛が渦巻いて来て、私の口から鮮血と混ざり溢れ出す。

 あんなに努力を重ねて、どれだけ世界を愛しても、全て泡となって消えた。全ては生まれ持っての才の所為で。

 だけど、だけど……だけどだけどだけどだけどっ!


「ようやく……この悪夢を終わらせれる………」


 ーーーばいばい。


 こうして少女は光の粒子となって消えた。


「……ヒノヤが気絶してくれてて良かった。こんな胸糞悪いもの見せられたら、誰だって世界を憎むだろうから」


 リフィアはポツリと呟いたのだった。




(このまま逃げ続けても埒があかない。わざと行き止まりへと逃げ込むんだ!)


(彼女の力は《無》の力。恐らく奴は自身に『自分を無視させる』事でこちらの認識をずらしていたのだと思う)


(つまり対象ーーー無視するか、させるかの対象を決める事で、奴は私達に不可視の攻撃をしていたという事だ)


(だから好都合、ヒノヤを狙った所を私が仕留める…………申し訳ないが、釣り餌として我慢していてくれないか)


 そんなやり取りのうち、僕は意識を手放した。疑問に思う事や納得のいかない所はあったのだが、どの道僕がどうこう言った所で、僕にはどうする事も出来ないのだ。

 だから、自分の弱さを噛み締め、ただただ痛みで泣かないだけの気張りをしていた。

 リフィアが僕から抜けた瞬間からの記憶はないが、こうして僕が目を覚ましたという事は、作戦は成功したのだ。

 だけど、


「おねぇさま! ヒノヤちゃんが目を覚ましましたよ!!」


「なに!? 本当かっ!!」


 何がどうなっているんだろうか…………。

 僕はリフィアに抱きつかれ、何故か件の少女にも抱きつかれ、わんわん泣かれた挙げ句にーーーさりげなくいやらしい触り方を感じ取り、早急にベットから抜け出した。

 どういう状況なのか質問すると、かくかくしかじかなもんで〜ーーー要約すると、あの後、何故か光の粒子が僕の中に吸収され、少女が仲間になったとかーーーいや、この時点で意味がわからないのだが………まぁ、つまり、運ばれた僕はギルドのベットにて目を覚ましたそうだ。


「改めまして、私はルイーナ。《無》の者として《無視》の才を受けた精霊よ。これからよろしくねっ! ヒノヤちゃん!」


 …………なんとなくだが、先行き不安で仕方無い僕なのであった。




 世界の崩壊が進み始めました。

 主よ。あなたの手を私が引きます。

 だから今暫く、茶番にお付き合い下さいませ。

 きっと主の思い通りの結末へと導いてみせます。

 なので、今はおやすみを……。

《無》の者が動き出した。

そしてなんと! 《無》とは精霊だったのだ!

<な、なんだってーー!!

という内容でした。補足説明は次の話からになります。

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