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 2話 罪と克服

ヒノヤの前世を掘り下げました。

罪は罪で、死してなおも取り付く呪縛。道徳って中々考え深いって思っちゃう。



 存在してはいけないと思った。

 

「お兄ちゃん……」


 だから、僕は止まらなかった。

 憎くて、憎くて、憎くて憎くて憎くて憎くて。

 存在そのものがーーー僕の前に突然現れたこいつの存在そのものが、許せなかった。


「やめて! お兄ちゃんっ! お願い!」


 上手く回っていた、回っていたんだ。決められた道を決められた通りに歩き、ただ平凡で変わらない様な毎日を歩んでいた……というのに!!


「お……お願い……お願いします。お兄ちゃんーーー」


「ーーー僕はお前の兄になった覚えはない」


 僕の変わらない日々を蝕む反乱分子は、



 消えてしまえば良い。



「お……兄ちゃん……、私……死んじゃーーー」


「ーーーヒノヤ!」


「は、はひっ!」


「時間だ、早々に出るぞ」


「は、はい?」


 寝ぼけ眼に写る彼女ーーーリフィア=ローリアンは、昨日の戦装束と打って変わって、どこか涼しげなラフな格好をしていた。




 この世界に来てからというもののーーーと言ってもまだ約一日だがーーー時間がどうも噛み合わない。

 地球と同じであるならば、僕が殺されたのは夜だから、転生したあの時が夜じゃないとおかしい……?

 とはいえ、その辺は臨機応変に考えるしかないだろう。答えなんて誰も持ち合わせていないだろうし……明るい内は朝&昼、暗くなったら夜! くらいの感覚で過ごすしかない。

 なぜそう思ったかをいうと、昨日寝る前の外は明るくて、起きた今現在の外も明るいからだ。

 早朝に〜って言ってたから、てっきり朝の暗い内かと思ってたのに……。


「なにか疑問に思っていそうだな? ……う〜ん、多分だが……今は朝の四時頃だ」


「んなっ!」


 リフィアは口元に左手を当てて、気持ち悪く笑った。


「ふひひ〜、次は、なんで考えてる事分かるの〜っだな」


「ち、違います! ただ時間の数え方が地球と同じ事に驚いただけです!」


 実際はリフィアの言う通り、その通りなのだが、僕の自尊心が邪魔してつい強がってしまったーーーまぁ、驚いた事も事実なのですが……。


「地球と同じにして言ったのだ。ヒノヤに憑依した時に、ヒノヤの記憶が私に流れ込んだからなーーーこの世界での時間の数え方で現在時刻は赤ノ四時(あかしどき)だ」


 エデノラでは、地球での八時間毎に赤、青に分かれるそうだ。この調子で月日の数え方や、季節はどうなのかと興味が湧いたがーーー………。

 待てよ、僕の記憶が流れ込んだ………?


「あの、リフィアさん? 僕の記憶ってーーー」


「やぁやぁリフィアさん! お待ちしておりましたぞ」


 アラールドの街中を歩き続け、気づくと大きな噴水の前まで来ていた。そこに立派な髭を携えた男の人がいて、こちらに話しかけてくる。

 早朝という時間帯だし、人通りもほぼ無いし、あちらも見つけるのが容易だったみたいだ。

 言っても、そんな事リフィアから何一つ聞いていないので、僕は驚きを隠せない。


「それはそれは、お待たせして申し訳ない」


「なぁ〜に、分かってるだろう? うちはすぐそこだ」


 リフィアはクククっと、男はガハハっと笑った。置いてけぼり過ぎて僕も笑えてきた、あはは……。

 そこそこ年老いてるけど、服の上からでも分かるマッチョ。どこのどちらさんなのでしょうか?


「トリンさんは相変わらずですね」


「あんたさんもな。ーーーとりあえず、こんな朝早くに来てもらって悪かったな。事情はくんでくれ」


「クスッ、また奥さんと喧嘩ですか?」


「みなまで言うな。つまりそういう事だからな」


 暫くこんな会話がリフィアとトリンの間で交わされ、本題へと事が進む。途中僕の事を問い詰められたが、適当にあしらわれたようだ、酷い。


「今回の依頼は悪いもんじゃねぇ、物は悪い物っちゃっあ悪い物だが、どちらかといえば曰く付き。呪われた石(パープル・アイ)だ」


「ーーー! なんとも言えん。そんな()()()を使って振るうのが最後の鎚って言うのは……」


「ガハハハっ、リフィアさんは知ってるだろうに、俺の鍛治の腕前をよぉ。それに、俺にゃぁ分かるんだ。呪われた石にはちゃんとした呪力ってやつが込められてるってな」


 側から聞けば不吉な事だが、リフィアに言わせれば石ころという。一体、パープル・アイってなんなんだろうか?

 とはいえ、この場で僕が口を挟むのは野暮だ。何より、トリンはこれが最後の仕事? みたいだし、その一介に携われるのは名誉ってもんだ。よく分からないけど……。

 リフィアは思案の末、寂しそうに笑った様だ。


「ーーー伝説への渇望。それが噂話だとしてもロマンを求めた最後が五分の賭けっちゃぁ、あまりにもかっこいいじゃねぇか、なぁ?」


「多少、無謀な気もしますが……、でも、トリンさんの生き様には少々感銘を受けました。この依頼やり遂げさせていただきましょう!」


「あぁ、よろしく頼むよ!!」


 リフィアとトリンはお互いの腕をぶつけ合った。


 こうして僕とリフィアはトリンの依頼の元、アラールドから出て少し先の鉱山へと赴く事となった。

 名はルドラス鉱山。




 いや、大層な話だったので緊張してたけど、いやはや、これは、いやいや、


「これが、呪われた石(パープル・アイ)? 道端に沢山落ちてるじゃないですか」


 ルドラス鉱山に着いてみたものの下を見ればパープル・アイだらけ、個人的な偏見故に、ツルハシとか使って力仕事かぁ〜って思ってたけど、そんな事は無かった。


「ふむ、しかし純度が低いな。元より石ころとしか認識されていない鉱石だから、扱いが粗暴なんだ」


 ルドラス鉱山への道中でリフィアから色々聞いたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。

 ーーーいわく、呪われた石(パープル・アイ)とは、紫色の不気味に光り、かつて存在していたという呪蛇メドゥラの瞳に模しているとされ、その名が付けられた。がしかし、どの様な加工、装飾を施そうと、なんの効力も示さなかったという。つまり()()()

 それを、事もあろうに、名の知れた鍛治師であるトリンの最後の作品として、素材をそれにしたというのだから、リフィアのあの顔にも合点がいく。

 トリンも腕にガタがきているようで、年齢としてはまだ現役らしいけど………これが、最後らしい。

 ま、現役野球選手だってふとした時に退役してしまうんだから、そう言う事もあるんだろうな。


「……高純度でそれなりの大きさも確保出来る物を所望だからな、その辺のだといつまで経っても見つからん。ーーーよし、奥地の働き手の所まで行くとするか」


 いっても鉱山、人の手入れされてる分灯りが行き届いてるみたいである。が、やはりどこか薄暗い。僕の地球でのファンタジー感では決まって魔物が登場するものなのだがーーーそもそもエデノラには「魔物はいるにはいるのだが、どちらかというと希少生物だぞ」らしい。


「働き手って、誰か奥にいるんですか?」


「もちろん。こうやってパープル・アイばかり目にしているが、この鉱山では色んな鉱石が採れるからね。日常的に使う鉱石を採掘する為に、毎日ツルハシを振るってるのさ……ほら、度々高い音が聞こえるだろ?」


 リフィアにそう言われ、僕は耳を澄ませた。確かに時折高い音が聞こえてくる……気がする……?

 坑道内に足跡が響いている。


「……さて、歩き通しで私の話題も枯れてきた頃だ。ヒノヤには酷かも知れんが、昔話でもしてくれないか?」


 静けさに魔が差してなのか、リフィアがそう言った。

 続けて、


「奥地まですぐだ、お互いに暇にならない程度の長さで構わない。どうかな?」


 暗くぼんやりしてる中であるが、リフィアは優しく、全てを許容すると訴えかける笑みをしてる。あぁ、そうか……やっぱり今朝の言葉は本当で、リフィアは僕を許そうとしてる。そして、許されない僕を許せる様に、空気を作ってくれた。

 だけど、


「………例え、僕の記憶を知っているとはいえ、リフィアに僕の事なんて分かるはずがない。それで僕が許されようとも思わないし、許してほしいとも思わない。起こした事はそのまんまだ。………時は戻らない」


 僕は、僕の心に寄り添おうとしたリフィアを突き放した。途端、リフィアの目元に雫が走る。


「そうだよね、それだけ辛かったんだ。絶対に分かり合えっこない感情を一人で抱え込んで、当たる先を弱者へと向けるくらいに………だけど、決まって後悔した。八つ当たりすればする程にヒノヤの心は擦り減った……違う?」


 相変わらず分かった口を叩く。見てきた様に話すーーーこの場合見てきたというのは案外的を得てるのかもしれないけど。さて、どうしようかな……涙なんてとうに無くなったと思ってたんだけど、

 溢れて止まらないや…………。


「忘れていた感情を思い出せたのなら、それは僥倖。抱え切れなかった想いを捨てたあの頃とは違う、今度は嫌でも背負い込んでいけばいいんだ」


「…………うぅ」


 思わず立ち止まってしまったが、泣きじゃくる僕を抱きしめるリフィアは、聖母かなんかに見えた。


 思えば、あの日を境に、感情というものが無くなっていたのかもしれない。妹に乱暴したあの日から、記憶というには曖昧な断片的記憶がちらつくばかりで、その後の展開についての思い出がない。いや、思い入れがないのだ。

 だから、その後に、毎日の様に妹に乱暴しようと、部屋をボロボロにしようと、夜遅くまで遊んでようと、僕には覚えが無かった。ただそうやって、人生を漂っていたんだ。

 言い訳………か? そうかも。


「私は別にヒノヤを許そう、許さないとかを言ってるんじゃ無いんだ。私にヒノヤを許せる資格はない。だけど、少なくとも自分自身ーーーヒノヤ自身が自分を許せない限り、前には進めないぞ」


 僕は、どうすれば、良かったのだろうか。




石ころ(パープル・アイ)? おぉ、丁度良い時に来たもんだな! ほれ、今日一番の大物だ!」


 気前のいい褐色肌の兄ちゃんがそれを投げ渡してくれた。お代は要らないって言っていたが、リフィアが強引に渡した様だ。これで依頼完了。


「なんだかんだ時間が掛かったな」


「ごめん」


「ヒノヤが謝る事ではない。かといって誰のせいでもない……からな」


 少し思わしげな表情をしたリフィアだったが、すぐに笑顔に戻し、


「さ、トリンさんに渡しに行くとしようか」


 と、言った。

 僕はそんなリフィアに無言で返したのだった。




 帰路での会話はほぼ無く、僕はーーー恐らくリフィアもだろうけどーーー凄く居心地が悪かった。誰でも自分の心の内を曝けた時はそんなもんだと思う。これから先、割り切った様に笑う事が出来るかどうか、そんなもんわからない。

 でも、一つ分かる事があるとすれば、まだ僕と出会って一日と半日の彼女ーーーリフィア・ローリアンは、こんな事で僕を手放さないのだろうなって事だけである。

 僕に惚れたって自惚れた考え方も出来るのだが、それよりも、何か違う所、言葉で表せない見えない何かが、僕とリフィアを離れさせないのかも知れない。それが転生者(リバイバー)と精霊の関係なのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。

 とにかく、終わった命とはいえ拾った命、精一杯生きてみるのが最善じゃないかな? そう思う。

 しかし、転生者でリバイバーって、僕の場合転生とは言わないのではないのだろうか………と思ってしまうが、その辺どうなってるんだろう?


「ーーーガハハっ、いくらその辺にあるたぁいえ、ここまで上品なのは初めて見るなぁ!」


 現在、アラールドの噴水付近、トリンの鍛冶屋、工房内である。奥さんとはとりあえず仲が直った様で、御盆に並んだ飲み物はトリンの分だけ水でした。


「それで、今回はどの様なのをお作りになるんですか?」


「ふ〜む、そうだなぁ……。正直、持ってくる形に合わせて考えたかったからなぁ………よし、決めた!! 短剣とまではいかねぇが、ちぃと小さい剣にするかーーー」


 トリンは僕を指差した。


「ーーー坊主に合わせた、な!」


「えっ!? 僕!?」


「見たところ丸腰、リフィアさんのツレってんなら武器の一つは身に付けんとなぁ! ガハハハ!」


 リフィアの方を見ると、凛々しい顔して頷いていた。


「いやぁ、でも僕戦闘経験が無くて…………」


「さ、早速始めるとしますかぁ!」


 き、聞く耳がないようですね…………。


 詳しい話は分からないが、どうやらパープル・アイを凝縮し、さらに魔力回路ーーーエデノラに来てからこの方、魔法という概念に触れた事が無いのでよく知らないが、魔法を作用させる為の物らしいーーーを付与し、魔力の通りやすい金を混ぜた鉄で剣を作るみたいである。


「かつてない工程だからな、価値観が変わるぜぇ」


 パープル・アイを凝縮する事に関して前任者はいるが、その頃には石ころの代名詞になっていた様で、上質なパープル・アイを凝縮する事例は無かったのだとか。それでいて、いつの時代も簡単で強力な物が求められるそうで、ここまで研究という研究がされてなかった様です。

 とはいえ、今、現状で、僕達は戦力外。

 トリンの作業を見ているだけとなった。


「…………ねぇ、リフィア」


「どうした、ヒノヤ?」


「ーーー僕は、自分の事が許せない。これは今更思い出した感情だとしても、だからこそ、僕は許されてはいけないものだと思う。充分僕は逃げた……だから、もう逃げない」


 リフィアは少し驚いた様な顔をし、すっと涙を流し、そして、


 笑った。


「そうか。男が自分で決めた道だ。微力ながらも私がサポートしよう………」


 カーン、カーンっと鉄を叩く音が響く。目の前の溶鉱炉から除く炎が酷く幻想的で、火花がまるで妖精の様に舞う。

 静寂の中、リフィアはぼそっと、ともすれば鎚の奏でる音に掻き消されてしまうくらいの音量で、囁いた。


「…………ようやく自分を許せたのだな」



趣味書きなもんで投稿が遅れる遅れる。

こんな作者、作品でも、好きになってくれる人がいたらいいなぁ〜。

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