プロローグ
思いついたので書いてみました
3万文字くらいで軽く読めるくらいを目標に
魔王アルディエルの討伐。それは人類の悲願であり、到底叶えられない望みだった。
だがその望みの刃を届かせた者たちがここにいた。
勇者カリス、戦士ファナント、魔法使いディアナ、そして僧侶シュークの4人である。彼らは腕を消し飛ばし、足がもがれ、内臓を削られるような死闘の末にアルディエルを討伐することに成功した。
アルディエルが放った魔力波の盾となり倒れるファナントの瞳には、カリスの刃がアルディエルの身体を十字に切り裂き、ディアナの魔法で切り裂いた半身は燃え尽き、残された半身はシュークの神聖魔法で浄化された様子が映っていた。
だがアルディエルの魔力はまだそこに残っていた。アルディエルの魔力は体内に溜め込まれていたが、全て使われてはいなかったのだ。むしろ使われなかった魔力の方がほとんどだった。
そして使いきれていなかった魔力の根源だけが空間に残り、その莫大な力が瘴気へと姿を変えて解き放たれようと蠢いていた。
「シュー!何とか…ぐぅ…できないか!?」
カリスの言葉がシュークの耳に届くも、その答えは首を振るというものだった。
瘴気はまだ何にも染まっていない魔力そのものだ。故に魔王という方向性がまだ残っている状態で世界すら覆うほどの量が放たれれば、夥しい程の魔物の群れが世界中に大量発生するのは明白だった。
ディアナの魔力が燃やそうとするも、山程もある魔力に石を投げるようなものでありまるで効いていなかった。
「燃やし尽くすのは…こんな魔力量無理よ」
「斬ってなんとかなるものじゃない。シュー、方法は本当にないのか?」
カリスの声にシュークは目を伏せる。選択肢はないとシュークは意を決し、傷ついた体に活を入れて3人へと声を出す。
「……一つだけ、あります。カリス達……っぐ……いえ、皆を信用しないとできない方法です」
方法はあった。が、一人だけではできない方法だからこそ、シューク一人ではどうすることもできなかった。
不安そうなその言葉に、即答する声がシュークに耳に届いた。
「俺達の仲だろ?」
カリスの勇気づける言葉がシュークへと飛ぶ。シュークはふっと微笑み、その瞳に決意をして何をするか三人に告げた。
「あの魔力を私の中に閉じ込めます」
三人の目が驚きに見開く。自分以外の魔力を体内に落とし込む、それは身体に毒を入れるに等しい。ましてや魔王としての特性を持つ膨大な魔力の塊ともなれば乗っ取られる可能性すらあるのだ。
「死ぬ気!?……っ。あの魔力を人に閉じ込めたら魔王に変貌するかもしれないんだよ!?」
「はぁ……はぁ……待て、ディアナ。俺達の信用がないとできないんだろ?」
ファナントの言葉にシュークはコクリと頷く。閉じ込めるだけならシュークだけでできるのだ。何とかしないといけないのは、その先が解決できてこその話だ。
「ええ。あれは瘴気です、……ぐっ。……神聖性の対立するものです、劇毒でこそあれど中和のできるもの。それなら神聖性が世界で最も高い私なら多少は耐えれます。そして瘴気なら浄化できるはずです」
「俺達に神聖魔法を使えるものはいない。……そうか、応援を呼べと」
カリスへとニヤリと笑みを向けるシューク。それが正解だと示すように頼みますと一言だけ口に出していた。
「私はここから動けません。がふっ!……。閉じ込めれば傷も治りませんが……私はそう簡単には死にません」
僧侶ともなれば生命力は高い。例え全員が同じようなレベルの傷を負っていたとしても、最も動けているのはシュークだ。自己治癒能力も高いため、今のシュークでも周囲に危険が無ければ10日でも1か月でも優に耐えられるのは3人には分かっていた。
そして今、魔王城の周囲の魔物は全て殲滅しており新たに湧く気配もない。シュークを置いていったとしてもまず死ぬことはないのは確実だった。
「必ず、助ける」
「シュー!魔王の誘惑とか合ったら乗るんじゃねぇぞ!お前は俺たちの親友なんだからな!」
「あたしとの魔力合戦またするんだからね!ゾンビなんてなってたら燃やし尽くしてやるんだから!」
カリス達が思い思いの言葉を口にし、王都へと飛ぶ移動用魔道具を灯す。一度限りしか使えない代物だったが、使い道は今しかなかった。
彼らは歯を食いしばりながら、目からは涙が流れていた。
「後は頼みましたよ」
3人はまともに走ることもできない程の傷を抱えて空へと高速で飛んでいく。シュークただ一人を魔王城に残して。
勇者たち3人が王都へ帰還し、一日の休息を置いた後に魔王の討伐が伝えられた。
王都は沸きに沸き、そこら中で祭りのように騒いでいた。が、翻って王城では沈痛な空気の重さが広間を支配していた。
「そうか……魔王の置き土産、厄介なものよ」
「僧侶殿は何と?」
王城の大広間、そこでカリスはドラン・デウス国王と宰相アラト、そして教皇シアハへと事の顛末を伝えていた。魔王を討伐したが魔力が残り、シュークがそれを受け止めてくれていると。そして神聖魔法なら残っている魔力は浄化できるはずだと。
「神聖魔法なら確かにできますが……シュークがそんなことに」
説明が終わった直後、シアハが顎に手を当て思案顔になっていた。
シアハは教皇であり、王という権力からは切り離されているため本来なら王城へと登るには手続きが必要だった。が、件の人物シュークは教会に所属しているためカリスが無理やり連れてきたのだった。
「シュークを助けたい。教会より派遣してほしい」
「もちろんです。ただ……シュークが分かってないとは思えません」
カリスの言葉にシアハは是と即答する。シュークは教会でも非常に有能な人材であり、助けられるのなら助けるたいのは事実だからだ。
しかし有能であるということは問題が起きた時の対処手段をより多く知っているということでもある。魔王の魔力暴走等というだけ最悪な状態になっているのであれば、皆のためにと手段を選ばなければ方法はあったのだ。
カリスが眉を潜めてシアハへと疑問を問いかけた。
「……何を分かってないと?」
苦々しい、言いづらそうな顔をしてシアハは答える。その選択肢は人類という種族のためには最良でこそあれど、個人という単位では最悪の選択だからだった。
「体内に留めた魔力はあくまで体内にあればいいのです。一言でいえば……死体になっても浄化はできる」
その言葉の意味することを察し、怒りに顔を染めるカリス達。
魔王と戦う以前にシュークを含めた4人は、誰かに命令されたとしても仲間と敵対することなどしないと誓っていた。それを踏みにじるような真似をすればよかったと言われて憤慨しない者はいなかった。
「私たちにシューを殺せと!?」
「それができないと分かっていたから応援を頼んだのでしょう。それに危険はあります。それだけ魔力が膨大なら死体ごと大爆発してもおかしくない」
ふぅと一息をつくシアハ。立場としてはシュークの上にたっている彼としても、そんな真似はしたくないのだ。
問題は、それが分かっていてシュークは応援を頼んだということ。そして仲間たちを信じているからその選択をしたということ。
「シアハよ、我が命じる。教会より神聖魔法を使える者を送れ。我らはもし大爆発しても民を守れるものを送ろう」
「シュークを助けられなかった保険というやつですか、いいでしょう。事は一刻を争います、私はここで」
デウス国王と一言会話を挟み、広間から出ていくシアハ。シアハが広間の外へ出たことを確認し、デウス国王とアラトはカリス達へと視線を向けた。
「再度だがカリス達よ、大儀であった。問題は残れど人類の宿願である魔王討伐は果たされたのだ。見たところ傷も癒えてはいまい?お主たちも休息が必要であろう」
今のカリス達は使っていた鎧や武具は全て破損していたため現在は礼服でいた。さらに彼らの魔力や生命力は満ち溢れる程だった魔王討伐前とは違い、一市民と大差ない程となっていた。
デウス国王からは休息をとれと言葉が出、カリス達の体調からすれば妥当な判断ではあるのだが……彼らからすれば今はそれどころではない。
「お言葉ですが仲間を放ってはおけません」
「ふむ……我らが応援を送る前にお主たちで先行するか、それともシアハたちに話を聞くか。好きにするがよい」
「はっ」
カリス達へと命を下し、デウス国王とアラトは玉座を立ち上がり部屋へと戻っていく。広間に残っていたカリス達はデウス国王が広間の外を出たのを確認すると、立ち上がって広間から出て行った。
そして広間から出た国王は部屋へ続く廊下にて、アラトと今後の動きをどうすべきか思案しながら歩いていた。
彼らは人類という国を治める者であり、国民を守るべきならあらゆる手段から選択するのが使命だ。だからこそ良心だけではできない選択を選ばなければならない。
「アラト、どう思う?」
「カリス達はシアハに話を聞くでしょう。仮に先行したとしてもカリス達にできることはないですから」
「で、あろうな。先ほどの話は真実だと思うか?」
「先ほどの場で無駄に不安を煽る人物はおりません」
顎をさすり、はぁとため息を零す。そして仕方ないと一つ言葉をしたのちに、国王は判断を下す。
「ふむ、ならば手は一つしかあるまい。仮にも勇者の仲間であるあの僧侶だ、そう簡単には死なんが……やれ」
「極秘裏に行います」
二人にしか伝わらない内容だが、以心伝心と言わんばかりに国王と宰相は繋がっていた。
彼らが求めるのはただ一つ、国民の安全という国を担うものからすれば当然極まりないものなのだから。
「我らに危険がもたらせられるなら要らんのだ。許せ、カリスよ」
デウス国王は宰相が別室に歩いていくのを見届ける。国王は国で最も上に立つ者であり、その頭を下げるところは見られてはならない。
故に、デウス国王は誰にもいないところへと頭を下げ謝る。それが伝わらないと分かっていても、カリス達の絆へと謝るのだった。
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