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青い春を漂う  作者: CHIKA(*´▽`*)
幕開け
2/39

ハロウィンの日の朝

 10月31日。少し肌寒くなってきた日のこと。スマホのアラームで目が覚めた。

 と言うよりか眠りを妨げられたの方が正しいかな。



 何でこうも朝の目覚めというものは悪いのだろうか。誰か頭の偉い人よ、教えてくれ。

 高校の頃からの悩みだった。そんなに夜更かしをしているわけではない。



 ただほんのちょこっとだけ、夜更かしをしているだけ。言い訳になるかもしれない。

 でも聞いて欲しいのだ。

    


 睡眠時間は約7時間もある。8時間は寝ろって言う人もいる。

 けれど、そんなに寝なくたっていいじゃないかと思う。



 7時間も寝れば十分じゃないか。あたしだって、仕事で疲れるのだから趣味をしたいのだ。

 本を読んだり、ドラマや映画やアニメを見たりなどと。



 24時間より、もう少し長くならないのだろうか。

 明日になったらテレビのニュースで速報が流れて、今日から我が国は一日が26時間になりました! なんて言ってくれないかな~。



 いやもっと長くしてしまおう。キリがいいから一気に30時間、くらいにしてもいいかもね。



 などと、誰にも伝わることのはずがない言い訳を考えながらも、いやいや体を起こした。

 ……いや起きない、というか起きたくない。



 壁に掛かってある時計を見る。午前7時を示そうとしていた。出勤時間は午前9時。


 「タイマーの設定……ミスったな……」

 1時間も早かったのだ。いや自宅から出勤場所は近い。10分もあれば、どうにかなる距離だ。



 となると1時間45分も早かったことになる。

 「……最悪」

 タイマーを今度はきちんと、午前8時45分に設定して、もう一度寝ることにした。



 本当は寝られていた数秒が寝られなかったことを思うと、腹立たしくなる。

 それもあいつのせいだ。あいつが急がせたから間違える羽目になったんだ。



 目を擦りながら周囲をじろじろと見まわす。当の本人は何処に行ったんだ。

 あいつという呼び方をすると、大抵の人が恋人や同居人を想像するだろう。



 それは断じて違うと言い切れる。そもそも人間ではないのだ。

 その張本人は奥のキッチンから優雅に、空中を泳いでやって来た。

 「あんたねえ……」



 そう、その正体とは金魚。萱草かんぞう色の金魚だ。長く伸びた吹き流し尾が特徴的だ。

 とりあえずあたしの傍にいるのは、コメットという種類の金魚らしい。

 初めて出て来た時になんとなく調べて分かったことだ。




 初めて会ったのは2年前のこと。詳しい日付は覚えていない。

 いつの間にか傍に、ずっといるようになっていたのだ。

 もう働き始める時には傍にいたと思う。それなりに長い付き合いだ。



 別にそんなに気にしていなかった。この町では懐かれるなんてことは、日常茶飯事だったから。



 近所のおじさんやおばさんからよく聞いていた。

 懐かれてしまって数日ほど家に居る、とかずっと居るから飼うことにしたなどと。



 そんな感じのパターンなんだろうなあと思っていた。

 でも次の日も次の日もそのまた次の日も。あいつはに傍にいる。



 勤務先にもついて来るので、友達に言ってやった。

 「なんかさ~、金魚に懐かれてるんだよね~」

 はははと苦笑い。でも友達の顔は疑問符を浮かべているような、表情をしていた。



 「えっ、金魚なんてどこにもいないけど」

 「はぁ?」

 いやいや何を言っている。君のすぐ、目の前にいるではないか。お前の目は節穴か。



 その金魚はあたしの周りをすいすいと泳いでいた。誰がどう見ても気づくはずだ。

 友達は視力だけは、どちらもAだと自慢していた。だからそんなことはない。



 となるとこいつは、自分だけにしか見えていないということになる。

 そこから月日は流れて、今に至る。



 「……」

 金魚を恨めしそうに見つめる。

 あいつはそんな視線など気にせず、すいすいと泳いでいる。自由自在に泳いでいる。



 見ているとどんどんと腹が立ってきた。

 あんたのせいでこんなに、早く起きる羽目になったと言うのに……。



 咄嗟に手元の枕を右手に取り、上に振りかざす。標的をロックオン。金魚に向かって枕を投げた。

 「家賃払えーーーーっ!」



 何か叫びながら投げたかった。不意に思いついた言葉がこれ。

 この一言で不満がとても分かると思う。



 まだあいつが家賃を払ってくれる、ならいいのだけど。見た目は普通の金魚。

 そんな夢物語みたいなことなんて、あるわけもなくて。

 ということで汗水流して、せっせせっせと働いて払っているのである。



 まあそこまで過酷な仕事ではないのだけど、この表現が一番正しいと思う。

 この手で働いて稼いだお金で家賃を払っているのは、事実なのだから。



 今になって思い出すと、あの時はヤケになっていたのだろう。

 金魚に枕を投げるなんて。もし当たってしまったら、死んでしまう可能性もあったのに。



 あの時は本当は眠られるはずだった時間を妨害されて、非常にイライラしていたのだ。

 この町の金魚は何処でも泳げる。且つ枕というものは威力が弱いから、どうせ普通にまた泳ぎ出す。

 そうその時は考えていた。



 でもその企みは予想の斜め下にいくことになった。

 なんと枕はきちんと金魚に向けて投げたのに、すっと通り抜けたのだ。



 「えっ」

 枕は壁に衝突して、大きな音を立てずに床にぽとりと落ちた。……何なんだこいつは。



 こいつはもしかして金魚の幽霊なのだろうか。祟られるようなことをした覚えは、全くないぞ。



 確かに幽霊ではないかと考えたこともあった。

 でもあたしに触れることができるというのが、疑問に思う。

 本当に幽霊なら触れることなど出来ないはずだ。



 本当に不思議な存在だ。こういうのは深く考えない方がいい。

 世の中には、知らなくてもいいことがあるとよく言う。そういう類いに入るのだろう。

 そう思いながらもう一度、眠りについた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Noveleeのルークです! 作品の冒頭を読ませていただきました! 他の人の目には見えない、枕も貫通してしまうという、謎めいた金魚の存在、そして主人公が金魚と今後どう関わっていくか、目が離…
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