思わぬ出会い
時刻は午後4時を示そうとしていた、その時だ。
「46番のお方。大変長らくお待たせしました。黒いテントの方へと来て下さい」
シャノワール小村の声の放送が聞こえた。
どうやら文香の番が来たようだ。
「じゃあ私さきに行って来るね! 終わったらまたここに戻って来るね~」
文香は上機嫌にスキップをしながら黒いテントの方へと向かっていった。
自分一人となってしまった。とても暇だ。
誰か話し相手が欲しい。
あれから5時間以上が経過した、屋台も全部巡ったし何もすることがない。
スマホのアプリで遊ぼうと思ったがなんかやる気がなくてやめた。
本当に何をして時間を潰せばいいのか分からない。
誰かと話せたらこんな時間あっという間に潰せるのだけれども。
人が少なくなった噴水の近くまでに行き腰を下ろした。
屋台で何かを食べようと思ったが食べ過ぎては体重が増えるかもしれない。
スマホで音楽でも聴こうかと思ったけど……。
「あっ」
イヤホンを持ってくるのを忘れたことに気がついた。自宅に置いて来てしまったのだ。
「やっちまったなあ……」
本当に何もすることがない。
ただぼーっとして文香が帰って来るのを待つしかないのだろうか。
今なら噴水の中にダイブしても別にいいくらい本当に何もすることがない。
何かをして時間を潰したい。
「もしかして暇ですか」
俯いている自分に頭上から声が聞こえた。
見上げるとそこには茶髪ロングの女性がいた。
背中まで伸びている髪。ぱっちりとした二重。
決して濃すぎない自分に合ったメイク。しゅんとした鼻。
まさに美少女という雰囲気の人。
私と目が合った途端ににこりと優しく微笑んだ。
……私の目の前には女神がいるのではないか。とつい思ってしまった。
女性の後ろに後光が見えるような神々しいオーラを感じた。
「ひっ……暇ですけど……」
もうなんか驚く気力もない。いつもなら驚いている気がするけど別に誰でもいいや。
時間が潰せるのなら何でもいい。
「良かったら私とお話しませんか」
すぐ返事をした。迷う必要なんて何もない。
「是非ともお話しましょう」
女性はふふっと笑い隣に座った。
よく見ると身長はとても高くスタイルも良かった。
自分の身長は162くらいだけど、それより少し高く見える。
165くらいだろうか。それより少し大きいくらいか。
丈が長めのグリーンのチェックワンピは彼女にとても似合っていた。
手には少し大きめのベージュ色のバッグ。
「私の名前は正野絵里。あなたは?」
名前は下の名前だけかなと思っていたけど、まさかフルネームとは。
これは自分もフルネームを言うのが礼儀だろう。
「水本結です」
絵里さんはにこりと笑った。元から綺麗なのに、笑うと更に綺麗に見えた。
ただの一般人には見えない。どこかの女優のようだ。
「結さんは何をしているのですか」
もう少し遠回しに聞いてくるのかと思っていた。
けど結構どストレートに聞かれて驚いた。
絵里さんは顔をじっと見てくる。
そんなに見られると顔を逸らしてしまいたくなる。
別に隠す必要もなかったからきちんと答えた。
「シャノワール小村の占いに来ました」
来たというか、仕方なく行く羽目になってしまったのやら。
とりあえず自分の意志では来てはいない。
でも流石にそこまで言わないでいいかと思い、言わなかった。
「私の妹の占いですね」
「ん?」
つい声に出てしまった。まるで息を吐くように驚きの言葉を言ったから。
「シャノワール小村は実を言うと私の妹なんですよ」
つい叫んでしまいそうになったので、咄嗟に両手で口を覆った。
覆わなかったから本当に叫んでしまいそうだったから。
こういうのはドッキリではないだろうかとつい思ってしまう。
周囲をきょろきょろと見渡してみるがカメラやカメラマンらしきものは見つからない。
……となると本当に姉なのかという決断に至る。
「……本当にそうなのですか……?」
つい恐る恐る聞いてしまった。深い意味なんて何もない。ただ、なんとなく。
「そうですよ。あと私は化粧品を作っているのですよ」
シャノワール小村の姉なのかを判断するだけ。
だったのにまた新たに情報が増えてしまった。
化粧品を作っている……?さらっと絵里さんは言ったけどそれはとても凄いことだ。
「あなたがつけているリップ。シャノワールのものよね?」
自分がつけているブランド名は覚えていなかった。
けど急に思い出した。
シャノワール。初めて買ったデパコスのブランドの名前だということを。




