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新居

 と、そんな長い前置きがあり。

 二人は先程造ったマイハウスの一階リビング部分にいた。


 新居に興奮を露わにして、しきりに見渡すルイス。

 フリルは一望すると深呼吸し、満足げにうなずく。


 中は入ってすぐにリビングがあり、横に階段、その奥にフリルの部屋があるという広い空間を二部屋に区切った簡単なものだ。

 中は特になにもない。

 窓が取り付けられており、斜陽が床を照らしている。


「おぉぉぉ!! この匂い……この落ち着く感じ、見渡す限りの自然……優しい……心が洗われていく……新鮮だぁ」


 はしゃぐフリルに、ルイスもコクコクと相槌を打つ。


「それで、今から子供たちを迎えに行くんですよね?」


「おっと、そうだった。確認したいこともあるし、あとそのルーもつれてこっか」


 ルイスに抱かれたルーが「クゥン」と嬉しそうな声をあげている。


「確認したいこと?」


「あぁ、俺の予想がちゃんと当たってるか、それとドラゴンに詳しそうな人も知ってるからルーについても、あとその他もろもろ!」


       ☆


「――というわけなんだ」


 フリルとルイスは応接間に案内されていた。

 ルイスが不自然に膨らんだお腹を抱え、「フリルさん、この人は?」と耳打ちする。


 机とソファのみが置かれた質素な部屋。

 フリルとルイス、そして目の前には幼女……


 ではなく、


「こちらは俺の元部下、ヴィネス・シーペンだ。」


「ヴィネスさん……」


 横目で確認して、ぺこっと頭を下げるルイス。


 ヴィネス・シーペン。

 王宮で働いていたフリルの一年後輩。

 王宮の制服を着こなし、長い髪を背中のあたりで束ねている。

 表情にとぼしく、子供のようななりだが、年はフリルの二つ上の立派なお姉さんである。


「……どうも。ところでフリル先輩。」


「先輩じゃないよ。もう」


「……どうしてうちがここにいる事を……」


「そりゃ、俺が全職員の勤務表作ってたから」


 隣に座ったルイスが「そんなことまで!?」と言いたげな顔して勢いよくフリルの方を向いた。


「全部記憶に入ってるよ。それで、」


「……というわけでって言ってたけど丸一日空いてるんだけど。」


「あ、あぁ……ちょっと家具なんかを作ったり、ルーを可愛がったりしてたら……盛り上がっちゃって……」


「……あっそう。」


「………。それで、ドラゴンのことについてなんだけど。ドラゴンの幼体を拾ってさ。何か知らないかと思って聞きにきたんだけど、」


 そこまで言いかけフリルは言葉を止める。

 ――なんでこの人に聞くんだろう? ルイスの顔にそう書いてあった。


「この人、子供のころ一人で魔物の森で数年間過ごした人なんだよ」


 納得の様子でルイスが頷いたのを確認すると、ヴィネスが口を開いた。


「……ドラゴンについては、空から卵を産み落とす事しか知らない。」


「そうなの!? ずいぶんヴァイオレンスな産卵だな……」


「……幼体は数回見たことあるけど、懐かれたことない。」


 服の隙間から顔を出したルーを、ヴィネスはかすかに羨ましそうな目で見る。

 その機微を察したフリルが「そ、そうか……」と言い、あからさまに話題を変えた。


「それで、次は王宮のことなんだけど、」


 またしてもヴィネスの顔を見て言葉を止める。


「どうした……?」


「……もういいや。箝口令敷かれてるけどもういい。全部言う。」


 デジャブを感じたフリル。

 ヴィネスは一瞬ルイスの方を気にしたが、そのまま言葉を続けた。


「……フリルがいなくなってから王宮はとんでもないくらい荒れてる。仕事が進まなくてどうしようもないから、フリルがやってたところの一部を私が引き継いでやってるけど――」


 表情は乏しいが真剣さは伝わってくる。

 ヴィネスは充分タメを置き、嗚咽と共に机に伏した。


「どうした!? 大丈夫か!?」


「……………………ない。」


 小さな声で何かを呟いている。


「なんだって……?」


「大丈夫なんですか……? なんか喘いでますけど……あれ? もしかして泣いてます?!」



「うぅ……警備しながら国を32往復なんて……できないっっ!!」



 普通であれば理解不能。


 当然、フリルは「それはそれは大変だね……」と真剣を装っているが、何を言っているのか、わかってはいない。

 しかし、フリルとしばらく過ごしていたルイスにはその言葉の意味が、ヴィネスの気持ちが、よくわかった。


「あぁ……それはお気の毒で……」

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