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思春期ルイス

「フリルさーん!! この前はドラゴン討伐、手伝ってくださってありがとうございました!!」


 はっとし、振り返える。そこに剣を携えた戦士姿の女性がいた。


 グラマーな体型、大人びた容姿だが、年はまだ二十歳を迎えたばかりのフリルよりも二つ三つ下なので、端々に幼さが残っている。


「ルイスか。いえいえ〜仕事だからね。あれくらいどうってことないよ」


「さっすがフリルさん!! 学院首席だけあって言う事が違うね!」


「ルイスは今年四年生だっけ?」


「そう!! せっかく同期だったのに、フリルさんはどんどん先いっちゃうんだから〜」


 ごめんよ。とフリルは控えめに微笑む。


 フリルとルイスは学院の同期で、在学中は良くつるんでいた。


 フリルはルイスを妹のように可愛がり、ルイスもまたフリルのことを兄のように慕っている。


「ところで昼間に外で会うなんて珍しいね? 緊急の仕事?」


「え、あぁ………ルイスには話してもいいかな」


「うん?」


「実はさっきクビになったところなんだ」


 次の瞬間、ルイスはフリルの手を取り王宮に向かって走り出した。

 驚くフリル。


「どうした?!」


「フリルさんがこの国からいなくなったらこの国は滅んじゃいますよ!! 今から行ってフリルさんにクビにしたバカに直談判しに行きます!」


 しかし、フリルは立ち止まった。


「どうして止まるんですか!? この国が滅んじゃいます!! 帰りましょう!! この二年間でどれだけこの国が変わったと思ってるんですかぁ!!」


 ルイスは深刻な顔して発破をかける。ルイスの言うことは誇張でもなんでもない。

 フリルが王宮に勤務してから二年間で、王宮の体制は大きく変わったのだ。


 一番の原因はあのクソ上司である。


 フリルの優秀さをしめ、ついには国の業務の約8割をほぼフリル一人にやらせていた。そのため、莫大な量の仕事をフリル《《が》》効率化するためさまざまな手が加えられており、その中には王宮のエリートでさえ理解不能なシステムが多々あった。


 理解不能なだけであればまだ良い、最も憂慮すべきなのはフリル基準で行われていた物事だ。そこに関しては理解はできようとも人間には到底不可能な領域にあった。


 そのため、フリルが抜ければ国の業務は滞り、フリルが関与していた全ての事業が飛ぶ。


 クソ上司も王宮に勤務してそこそこの地位であるため、世間一般より優秀であることには間違いない。


 しかし、世間一般と比べればの話である。本物のエリートが集まる王宮では並の存在だ。


 そんな優秀な人間が集まってようやく処理できていた国業務を、フリルは二年でかえてしまったのだ。今更前の状態に戻れるはずがない。


「もう、戻る気はないよ。」


「もう、終わりだぁ………」


 決意の固まった瞳を見て、ルイスは頭を抱えてへたりこむ。


「………でも、これからどうするんです?」


「あてはないなぁ。」


 フリルは頭を悩ますそぶりを見せ、


「あ、いや。やり残したことを思い出した!」


 瞳に光の戻ったフリルをみて、ルイスもパッと目を輝かせる。


「おお??」


「就任して初めに草案を書いたんだけど、『そんな税金の無駄遣いさせるか!』って突っぱねられたのがずっと気がかりだったんだよね」


「………もしかしていやらしいことですか?」


「そんなまさか。子供達のことだよ」


「はぁ。えっ。フリルさん子供いたんですか!?」


 的外れな解釈にフリルは苦笑いをこぼした。

 「いやいやそんなわけないだろう」と、そんな前置きを置いて、フリルは空間魔法を展開し、中から一枚の紙を取り出した。


 そんなフリルにとって当たり前のことでさえ、彼女はまるで人外を見るかのように「………空間魔法」と独り言をこぼしていた。


「これ」


 差し出された紙を手に取る、ルイスは目を丸くして読み上げた。


「……『孤児院開設の申し出』?」


「王国の西部にたくさんの戦争孤児がいることは知ってるだろ?」


「あぁ……勇者の取り合いであのあたりは西国によく攻められてましたもんね?」


「そう。俺の仲介で戦争は止まったんだけど」


「またとんでもないことをフリルさんはさらっと言ってくれるなぁ………」そうこぼすと、ルイスは再び紙に目を落とした。


「勇者が現れてからずっと続いてきた戦争を、『たった一人で止めた』なんて会話の中でさらっと言ってみたいもんですよ。それで、こんな良い事業に対して国は『税金の無駄遣い』扱いしたんですか?」


「いや、国というよりむしろ俺の元上司なんだが………」


「やっぱりそのクズ上司殺しましょう」


 王宮に向かおうとするルイス。それを止めようと手を取ると「なんで止めるんですか!」と、地団駄を踏む。


「待て待て待て」


「だって! ルイスさんをクビにした挙句、子供達も金の無駄だって切り捨てたんですよ!! 万死に値するっ!」


 ぷりぷりと腹を立てるルイスを慣れたように流すと、改まって空を見上げた。


「俺はここを出るけど、やっぱり大人達の都合で子供達が不幸を被るのは見過ごせない」


「そりゃあ!! そーーーですよ!!」


「だから!」


「ふん?」


「俺が孤児を全員保護する! そして僻地で村を開き、のんびり余生を楽しむとするよ!」


「良いですね! 私も連れてってください! 養母さん第一号だぁぁ! やったー!! これからはずっと一緒に入れますね!!」


 驚かれるとおもってそう言った矢先、全肯定され、さらには乗り気なルイスに、フリルは苦笑いをこぼすしかなかった。

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