転移魔法とその応用
「にしても、フリルさん遅いですね。子供たちの警戒心を解くのって大変だから……大丈夫かなぁ」
村を救った際、ルイスは村人に宴会を開いてもらった。そこそこの規模の村だったので、その場には、子供もそこそこいた。
ともにテーブルを囲んだことで、村人ともかなり打ち解けた。
だがしかし、子供たちは警戒して誰一人としてルイスに懐かなかったのだ。
そんな悲しいトラウマを抱えたルイスが、フリルのことを心配していた。
「……大丈夫でしょ。」
泣き疲れた様子のヴィネスが言う。
「そうかなぁ……でも、どうやって連れてくるんでしょうね? 転移ですかね? 六千人いるとか言ってましたけど……」
「……フリルなら、もっとこう……すごいことすると思うけど。」
「確かに、例えばどんなのですか?」
「……うぅん。超高速転移……とか?」
ただ速くなっただけであんまり変わってない気が……。と、思ったルイスだが、先輩なので口には出さなかった。
「そ、それは確かにすごいですね……! じゃあ私は、何か大きな方舟でも作って、そこに乗っけてくると予想しますっ!」
「……またぶっ飛んだとこ言うね。」と目を丸くするが、まぁフリルならできそうだけど。とヴィネスは思う。
「……帰ってきたら答え合わせね。」
「ある意味楽しみですね!」
そこにタイミングよくフリルが現れた。
「おっす」
「遅かったですね? 大丈夫だったんですか?」
フリルは頭をかきながら。
「いやぁ、実は戦争が……」
「「戦争!?」」
勢いよく立ち上がる二人。
こんなに早く……でもまだ三日目。フリルさんは戦争が始まるのは四日後以降だって……。
なぜフリルがいなくなったことがバレた……?! 箝口令が敷かれてるはず……まさかこの女っ!?
と、各々自由な感想を抱き、ヴィネスに限っては赤い眼光でルイスを睨んでいた。
「そうそう……《《お引っ越しの準備》》という名の争奪戦争が……それで長引いてさ……」
超人フリルは、疲れた様子で乾いた笑みをこぼす。
二人は何事もなかったかのように静かに席に座り直し……
そして、ルイスは再び勢いよく立った。
「もうっ! こんな時期に!! 悪い冗談ですよ悪い冗談っ! びっくりしたじゃないですかっ!?」
「すまんすまん」と苦笑いで空謝りをするフリル。
「全くもう」と席に着いたのを確認し、ヴィネスが先程の話を出した。
「……それで子供たちはどんな手段で連れてきた?」
じっと見つめるヴィネス。
はっ、そうだった! とルイスも息を呑む。
「流石に今までいたところをいきなり離れるのは寂しいだろうと思って、自由に行き来できるようにポータルで繋いだよ」
全く予想外の答えに二人は放心する。
「……なにそれ。」
「う〜ん、転移魔法……的なノリで行くなら、【転移門】ってところかな?」
「えっ!? まさか魔法の常駐ですか!?」
「……なんて馬鹿げたことを。」
興奮して迫る二人をまぁまぁとなだめる。
「ルイスはともかく、ヴィネスは使ったことあるだろ?」
「……そんなふざけたものどこに。」
「ふざけたって………」と苦笑いすると、フリルは指を立てる。
「ほら、あの遠距離通信機だよ。道路補修の連絡来たって言ってたじゃないか? あれも転移門と同じ原理で、ただの石に転移魔法組み込んだだけだぞ。空気の震えをそのまま転移させてる。便利だろ?」
膝から崩れ落ちる二人。
「どうした!?」
「……さすが狂人。」
「非常識がすぎますよっ!」
「……でも……なんでそんな人智を超越したような魔道具がそこらの地域に?」
フリルは「あぁそれは」と前置きを置き、二人は傾聴する。
「俺が配り歩いた」
「なぜ?!」
「便利だから」
「……一体いくらで。あんなもの一つで国家予算一年分以上はするで――」
「無料で」
その日、ヴィネスは一晩中『無料で』というフリルの言葉にうなされたと言う。