迎えにいったフリル
と、そんな人外ですら人外と呼ぶ狂人、フリルは一人、子供たちの迎えに行っていた。
王国の西側、国境の村々。
今も二年前まで行われていた戦争の爪痕が痛々しく残っている。
戦争を終結させたあと、フリルは村の復興の援助を求めた。
草案を書き、費用を絞りに絞って求めた金額は、通常かかる費用の10000分の1。
魔法の遠隔操作や、転移ができるフリルだからこそ、そこまで削れたのである。
一度失敗したことから、学習したフリルはこれくらいならなんとか出してもらえるはずだ。
と思っていた。
が、例によってあのクソ上司。
紙を受け取り一瞥した瞬間、ビリビリに破いて『こんなくだらんことに税金を遣わせるか!!』と、突っぱねたのだ。
なので、そのまま放置され、今の状態に至る――
「あぁ!! お兄ちゃんっ! 今みんなご飯食べたところだよ!!」
わけはなく。
当然フリルが仕事の合間を縫って、国にバレないように手を加えていた。
フリルが村に入ると、水面のように波紋が広がり、景色が一変する。
焼けた大地は、多種多様な野菜や果物が成る畑へ。
瓦礫と化していた家は、フリルの村にあるような木造平家へ。
そう、幻影魔法である。それも国の超重要機密を守る魔法のレベルを遥かに超えた……。
木造の大きな家の中から、女の子が飛び出してきた。
「おぉ! ちゃんといい子にしてたか?」
「うんっ!」
撫でられ、嬉しそうに微笑む少女。
「外には出てないか?」
「うん! ちゃんとお留守番してたっ!!」
ここら一帯はつい最近、2年前まで戦争があった。そのため周辺住民は寄り付かない。
フリルがここに手を加えていることがバレるとすれば、王国職員が地域調査で訪れるくらいであるが、あいにく心配には及ばない。
なぜならそれも、カラーの投影魔法と、転移魔法が使えるフリルが、《《一人で》》行っていたから。
しかし用心のため、念を入れて幻影魔法をかけていたと言うわけだ。
それも国の機密――(以下略)
「そっかそっか。窮屈な思いをさせたな……」と、涙ぐむフリル。
「お兄ちゃん……?」
心配そうに見つめる少女の後ろから、大勢の子供たちが飛び出してきた。
「「「「「わぁぁ!! お兄ちゃんだぁぁ!」」」」
「「「お兄ちゃん泣いてるー」」」
「「「「「どうしたのぉ? どこか痛いのぉ?」」」」
フリルを囲った子供たちが、心配そうな顔して口々に言う。
「おっと……心配かけちゃったかな」と呟くと、フリルは鼻水をすすり、笑顔で笑いかけ、
「しいていうならお尻が痛いかな?」
と冗談を言ってみせた。
ワッと笑いが巻き起こる。
一通り一緒に笑ったあと、しゃがんで視線を合わせた。
「ごめんな、今まで窮屈な思いをさせて。でもこれからは思いっきり遊べるぞっ!」
「ほんとう!?」
年長の少女が言う。
「おおそうだ、可愛いドラゴンだっているんだぞ? みんなで畑を耕して、みんなで思いっきり遊んで、みんなで仲良く暮らそう!」
「「「「やったぁぁ!!」」」」
フリルの一言で子供たちのテンションは最高潮を迎えた。
「よぉぉし!! それじゃみんなでお引っ越しの準備だぁぁ!!」