追放
「このクソ無能が!! お前のせいで俺がどれだけ頭を下げたと思っている!!」
「本当にすみません!!」
王立学院を首席で卒業したサーデル・フリルは、頭を下げていた。
そこに浴びせられる怒号。
「貴様なんぞもうクビだ!! 二度とそのアホズラを見せるな! 永久追放だ!!」
一兆単位で増減する会計表の一の位の数字を『8』と間違えて『6』にしただけ。ほとんど影響はない。謝ればゆるしてもらえるはずだ。
そう思っていた矢先の突然のクビ宣告に、フリルは思わず顔を上げた。
「……え? 待ってくださ、」
「ペッ!!」
上司の口から水飛沫が上がり、飛んできたツバがフリルの顔に直撃する。
「さっさと出ていけ!!」
これまで必死に働いてきた。このバカ上司の理不尽な要求にも真摯に対応し、押し付けられた仕事も徹夜を惜しまずやってきた。
全ては祖国のため。
そう思い、ブラックな環境ながらも誇りを持ってやってきた。それがたった一回の、しかもこんな些細なことで。
フリルの中で、今まで抑えてきた感情が一気に広がった。
言ってやる。ここで全部。
「……では、そうさせていただきます」
「いいから早く出ていけ!!」
言われるがまま、肩を落とし扉に手をかけたフリル。最後に振り返ると、
「あなたが私の手柄を横奪していたのは知ってるんですよ。外交に新人の教育に、公共事業、行政、その他やらなければ国が破綻する雑務、これらは全て私が常日頃になってきた仕事のほんの一部です。これからは私に押し付けていた仕事も自分でしなくてはならなくなりますね。せいぜい頑張ってください」
「………は? お前何を言って………」
その日見た上司の絶望に染まった顔は、フリルの新たな人生の門出を祝うには申し分ない、最高のものだった。